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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 塾に行くと、邪気のない秋澤君の笑顔が出迎えてくれた。

 あの黒いふたりと比べて、秋澤君のこの笑顔の裏表のなさよ。
 あぁ癒し系…。

「どうしたの?吉祥院さん、なにか疲れてる?」
「えぇまぁ、いろいろありまして」

 そう、いろいろあった。

 出来るだけ皇帝とは当たり障りなく過ごすはずが、まさかのパシリ任命。
 なにやってんだ、私。

「そっか。大丈夫?」
 いいえ、全然大丈夫じゃありません。
 でもこの汚れのない秋澤君を、巻き込むことはできない。

「私が任務に失敗したら、骨は拾ってくださいね…」
「は?」


 そもそも、私が愛羅様に皇帝からの指令内容を聞いたとして、それに本当に答えてくれるのか。
 愛羅様には親しくさせて頂いてるけど、そこまで教えてくれるかなぁ。
 でも教えてもらえなかったら、私ってばどうなるんだろう。
 役立たずのパシリと罵られる?
 まぁそれぐらいだったら別にいいけど。
 あの鏑木雅哉に嫌われた女として、学院での立場が悪くなるのは困る。
 っていうか、サロンにいた他のメンバーの前でスパイ命令されたから、私が奴のパシリになったって事をあの子達には知られちゃってるんだよね?
 ……学院カーストで、私が下位に転落する日も近いのかもしれない。
 あぁ悪い想像だけが、どんどん膨らんでいく。

「あのさ、吉祥院さん。これ食べる?」

「えっ」

 秋澤君がカバンから取り出したのは、個別包装されたフィナンシェ。

「お母さんがおなかすいたら食べなさいって持たせたんだ。甘いもの食べたら元気もでるかもよ」
 秋澤君は、そう言って笑った。

 あ、秋澤くーーーーん!!

 なんていい子だ。君は天使だ!
 あのふたりとは雲泥の差だ!
 私は君と友達になれて良かったよ!

「ありがとう、秋澤君!」

 秋澤君からもらったフィナンシェは、食べたら本当にちょっと元気が出た。
 秋澤君になら、私の秘蔵のチロリアンチョコきなこもち味を分けてあげてもいいとすら思った。



 そしてとうとう、英語教室の日が来てしまった。
 あの日以来、サロンには顔を出さなかった私だけど、放課後教室を出ると、廊下にいた皇帝が(お前、わかってんだろうな)という目でこちらを見てきたので、スパイな私は(もちろんです!)と同じく目で返事をして、早歩きで玄関ホールに逃げた。
 もう、ここまで来たらおとなしくパシられるしかない。


 英語教室の授業が終わった後、私は今か今かと愛羅様が来るのを待っていた。
 吉祥院家のお迎えには、あらかじめ少し遅くなると言ってあるので平気だけど、問題は愛羅様がいつ来るかだ。
 授業ギリギリに来られたら、話をする時間もない。
 さすがに愛羅様の授業が終わるまで待っているわけにはいかないし。
 お願いします、愛羅様。どうか早く来て。

 天は私に味方したのか、愛羅様はわりとすぐに現れた。

「愛羅様!」
「あら、麗華さん。ごきげんよう」

 あぁ愛羅様、良かったよ~。

「あの、実は私、愛羅様にお聞きしたい事があるのです!」
「聞きたい事?私に?」

 他の人には聞かれたくないので、階段の踊り場の端で話すことにした。

「実は優理絵様のことで」
「優理絵?」

 愛羅様が訝しげな顔をした。

「は、はい。あの、優理絵様は鏑木様のことをどれくらい怒っているのでしょう。それといつ頃許すおつもりなのでしょう」

 時間がないので単刀直入に聞いてしまったが、愛羅様はますます怪訝な顔をした。

「優理絵と雅哉の事を、なんで麗華さんがそんなに知りたがるの?わざわざ私が来るのを待ってるくらいに」

 そりゃあ怪しいですよね。
 鏑木と全く親しくもない私が、ふたりの事に踏み込んで聞いてくるんだから、当然の反応だ。
 これじゃあ私、ただの野次馬根性だと思われてるかなぁ。

「どういうつもりか知らないけど、この件に関しては面白半分で詮索してると、雅哉を激怒させるわよ」

 もうすでに怒らせました。
 そして、その鏑木雅哉の指示なんです。
 いっそ本当のことを言うべきか。
 でもそうしたら、ストーカー鏑木の手先として、情報なんて絶対もらえないし。
 う~ん…。

 うだうだ私が悩んでいるのを見て、愛羅様が目を眇めた。

「もしかして、麗華さん、雅哉に何か言われた?」

 なんと!
 なぜわかったのですか!
 愛羅様も皇帝と同じ、心眼の持ち主ですか!

「あの、えっと…」

 でもここで素直に認めていいのか?それとも足掻くべきか。

「あー、うん。わかった。どうせ雅哉に私から優理絵の事を聞き出してこいとか言われてきたんでしょ」

 まさにその通り!
 本当に凄い、愛羅様。なんですべてお見通しなの?!

「あいつ全然反省していないわね。優理絵が怒った理由、わかってないんじゃないかしら。雅哉の言う事なんて放っておけばいいわよ、と言いたいところだけど、麗華さんとしてはそういうわけにもいかないのよね?」
「はい、そうなんです」

 ブンブンと首を縦に振る。

「いいわ。私から優理絵に聞いてあげる。どれくらい怒ってるかに関しては、こうやって嫌がる人間を脅かして、自分の思い通りにこき使うような事をしてたら、余計怒らせるって言っておいて」
「それは~」

 小心者の私には、とても言えないセリフです。

「ふふっ。でも私もこれから授業だし、優理絵に聞くにも帰ってからだから…。もちろん来週の英語教室の時じゃ遅いのよね?」
「わかりませんけど、多分…」

“明後日の英語教室”すら待てそうになかった皇帝が、1週間も待てるとは到底思えない。

「わかったわ。そうしたら麗華さん、携帯持ってる?」
「はい」

 あまり使う機会もないけど、GPSが付いてるので防犯目的で持たされている。
 なので塾の休み時間にコンビニに行くときは、アリバイ工作の為に、もちろん教室に置いて行く。

「じゃあアドレス交換しましょうか。それで優理絵と話したらメールを送るわ」
「いいんですか?!」

 おぉっ、まさかの愛羅様のアドレスゲット!

 実は愛羅様は、そのショートカットで中性的な容姿から、そのへんの男子よりもよっぽど人気のある方なのだ。
 愛羅様にまるで恋心のような憧れを抱いている子も多く、美しい姫君の優理絵様と、その姫君を守る凛々しい騎士様の愛羅様という、妖しげな妄想を一部でされていたりもする。

 …そして私も、そんな愛羅様に密かに憧れているひとりなのだ!
 そう!今の私が憧れているのは皇帝なんかじゃない。牡丹の騎士、愛羅様だ!
 自惚れるんじゃなくってよ! あの横暴コンビ!

 なんて、所詮は本人達に文句ひとつ言えない小心者の私の、負け犬の遠吠えなんだけどさ…。
 でもまぁ、いいや。
 とりあえず、指令は果たせそうだし。
 愛羅様には私の置かれている状況をわかってもらえて、味方になってもらえそうだし。
 しかも愛羅様のアドレスという、思わぬご褒美まで手に入れて、なんだか気持ちがほくほくしてきた。
 さて、帰りましょうかね。
 今日はお兄様は予備校で遅くなる日だったなぁ、ちぇ~、つまんないの。
 明日はお相手してくれるかしら?
 ららん、らん。


 心配事が解消されて、浮かれた気分で英語教室を出た私が見たのは、
 黒塗りの車の前で、腕を組んで立つ鏑木雅哉の姿だった。
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