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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 さっきはさらっと流されたけど、鏑木の車に撥ねられていたと言うのは、聞き捨てならない話だぞ。

「夏休みに鏑木様の車に撥ねられたのですか?」
「あはは、まぁ」

 なんと!夏休み明けから突如親しくなったふたりのきっかけが、鏑木が若葉ちゃんを車で撥ね飛ばしたことだったとは!

「撥ねられたっていうほど大げさな話じゃないんですけどね。そこまで車はスピードは出ていなかったし。それでぶつかって、私は自転車ごとぽーんと飛ばされて、こうくるくるっと」

 そう言って若葉ちゃんは、カエルのようなポーズから体を丸めてごろごろと地面を転がる実演をしてくれた。

「自転車からすぐに手が離れたから大きな怪我もしなかったみたいですよ?自転車は前がちょっと轢かれてたから、あのままハンドルを握り続けてたら危なかったかも~。あはは」

 撥ねられたうえに轢かれてたのか。笑いごとじゃないぞ、若葉ちゃん。

「それで、鏑木様からはきちんと対処してもらえたんですの?まさか轢き逃げなんてことは…」
「まさか~。ちゃんと謝ってもらえましたし、大丈夫だった言ったのに病院にも連れて行かれて」
「それは当然ですわ」
「でも頭も背骨も打ってなかったし、撥ねられたっていうより転ばされたって程度ですよ?まぁ、夏で半袖だったからアスファルトで腕や手のひらに擦り傷が出来ちゃったんですけどね~。その程度です。あとは打ち身で地面にぶつけたところが何か所か数日痛かったくらいかなぁ」

 若葉ちゃんはそう言って暢気に笑った。

「でも実際、軽傷とはいえ怪我もしたんだし自転車もあの有様です。もちろん慰謝料は請求したんでしょうね?」
「え~っ!慰謝料なんてもらえませんよ」
「なに言ってるんですか!それでは泣き寝入りじゃありませんか!遠慮せずにふんだくってやればいいんです!」
「ふんだくるって…」

 若葉ちゃんはちょっと顔を引き攣らせたけど、相手は大金持ち。示談にするなら毟り取ってやればいいんだ!

「慰謝料については、実は鏑木様も支払うって言ってくれたんですけどねー。鏑木家の顧問弁護士さんって人も、家に何度も来てくれて。私、弁護士さんて初めて会ったからドキドキしちゃった!いかにも仕事できますって感じの人で、さすが鏑木家の顧問弁護士!ってそれはどうでもいいか。えっと、それで慰謝料ですけど、私達が断ったんです。だって本当にたいした怪我じゃなかったし。でも結局最後、お見舞金って渡されたお金は断りきれなかったんですけどねー。慰謝料の金額よりは少なかったですけど、それでも多かったですよ?最初に慰謝料って提示された金額はあまりに大きすぎて、家族全員震えちゃいましたから」
「まぁ…」
「これだけはどうしても受け取って欲しいって言われて、分厚いお見舞い袋を渡されちゃって。でもこーんなに分厚いの」

「こーんなに」と若葉ちゃんは人差し指と親指で厚みを再現した。少なくとも50万以上ってとこか。

「驚いたのはそのお見舞い袋、鏑木家の紋が入ってたんですよね。やっぱりああいう大きな家では熨斗袋もオーダーメイドしてるんですね~。もしかして吉祥院さんの家もですか?」
「ええ、まぁ」
「そっかぁ。凄いな~」

 若葉ちゃん、そんなことに感心している場合じゃないと思うけど…。

「あっ!それにね、自転車は弁償してくれたんですよ。それがイタリア製の物凄く高い自転車でびっくりしちゃいました!」
「へぇ」
「1万円ちょっとの自転車が、何十万もする自転車になって戻ってきちゃった。わらしべ長者っぽくありません?」

 ちょっと違う気がする…。

「でも高級すぎて盗難に遭いそうなのが怖いんですよね。だから今も庭の奥にしまってあるんです。ワイヤーキーにも鈴を付けてます!」
「そうなの」
「前の自転車には交通安全祈願のシールを貼っていたんですけど、私が車にぶつかっても平気だったのはそのお守りシールのおかげだと思うんです。だから新しい自転車にもシールを貼ろうとしたら、鏑木様に頼むからやめてくれ、この自転車に対する冒涜だって怒られちゃいました。それ以外にも自転車をカスタマイズできるって言うから、だったらカゴと荷台も付けて欲しいとお願いしたら、この自転車のデザインが…とかいろいろ言われちゃいましたね~」

 う~ん、それは鏑木の美意識が許さなかったのかな。
 そこで若葉ちゃんは洗濯が終わったみたいだと一度席を外し、しばらくするとハンガーに吊るされた私のワンピースを持って戻ってきた。

「きれいに落ちてるよ~。乾燥機にも少しだけかけたけど、あとは外に干しておけばすぐに乾きますよ~」
「どうもありがとう」

 私の白いワンピースが外の物干しにはためいた。まだまだ暑いから、このぶんだと若葉ちゃんの言う通りすぐに乾きそうだ。
 そこに若葉ちゃんのお母さんらしき人が顔を出した。

「若葉、お友達が来ているの?」
「あぁ、お母さん。えっと、友達というか…。瑞鸞の同級生の吉祥院さんだよ」
「初めまして、勝手にお邪魔させていただいて申し訳ありません。瑞鸞で高道さんとご一緒させていただいている吉祥院麗華と申します」
「あらあっ!若葉の友達とは思えない、お上品なお嬢様ねぇっ!さすがは瑞鸞だねぇ!」
「お母さん!」

 若葉ちゃんのお母さんは、私の前世のお母さんをどこか思い出させるような、明るくて優しそうな人だった。

「お母さん、お店のほうはいいの?」
「ちょっと様子を見にきただけよ。せっかくだから若葉、お友達にうちのケーキを食べてもらったら?」
「わかったから。吉祥院さん、よかったらケーキ食べます?」
「えっ!」

 若葉ちゃんの家のケーキ!帰りに絶対に買って帰ろうと思ってたんだけど、今食べていいの?!

「いいのかしら…」
「吉祥院さんがいつも食べているようなケーキとは全然違うと思いますから、ムリしなくてもいいですけど。本当に庶民派ケーキなんで」
「ううん。楽しみですわ!」
「じゃあ、どうぞ」

 そうして私は若葉ちゃんと一緒に、お店にケーキを見に行った。

「わぁっ!」

 これが若葉ちゃんの家のケーキ!シンプルで昔ながらのケーキだけど、おいしそう!どれにしようかな。

「決まった?」
「ではこのモンブランを…」
「わかったー。なら私もそれを食べようかな。お母さん、モンブランふたつ~」
「あっ、お金はお支払します!」
「いいよ、そんなの」
「いけませんわ!売り物の商品なのに」
「あはは、いいっていいって」

 えーっ、それはダメでしょう。いくらなんでも図々しすぎる!
 でも結局また若葉ちゃんに笑顔で押し切られて、そのまま私達はケーキを持ってリビングに戻ってきた。

「ごめんなさい。ありがとう。いただきますね」
「いいよ、これくらい。でも吉祥院さんの口に合うかな~…」

 私は差し出されたフォークで、モンブランを一口食べた。

「おいしいっ!」
「本当?!嬉しいな!」

 あぁ、これが私がマンガを読んで食べたいとずっと思っていた若葉ちゃんの家のケーキか…。ほろっと甘くて優しい味だ。

「ええ、とっても、とってもおいしいです。私、帰りに絶対に買って帰りますわ」
「良かったぁ、そう言ってもらえて。こんな小さなお店だけどね、最近はお客さんがネットの口コミやブログで紹介してくれたりして、遠方からわざわざ買いに来てくれる人もいたりするんですよ?」

 若葉ちゃんはそう嬉しそうに言って、自分もモンブランを食べた。

「確かにこれなら遠くから買いに来たくなる気持ちもわかりますわ。今もお店にお客様が何人もいらしたものね」
「えへへ、ありがとう」

 今日はお兄様が長期出張から帰ってくるから、ぜひお土産に買って帰ってあげよう。きっと喜ぶ。ふふっ。あぁ、おいしい。

「ケーキといえば、さっきの話の続きですけどね。私が慰謝料を断った時の話」
「ええ」
「私がどうしても受け取れないって言ったら、だったらとりあえず、ここの店のケーキを全部買って帰る!って鏑木様に言われちゃったんですよ」
「はぁっ?!」

 なにを言ってるんだ、あいつは!

「それはお気持ちだけで結構ですって断ったんですけど。いいや、全部くれって」
「なんて迷惑な…」

 わざわざ遠方から買いに来てくれるお客さんもいるのに、商品全部を買い占められたりしたら、とんだありがた迷惑だ。

「で、押し問答の末に、最後は全種類を1個づつ買って帰ってくれました」
「そうなの…。大変だったわね」

 本当に、なにをやっているんだかねー。

「でね、一応この話は瑞鸞の誰にも話していないんです。やっぱり人聞き悪いでしょう?鏑木様の車が人にぶつかったって」
「そうですわね」

 軽傷といえど立派な人身事故だからね。だからふたりが仲良くなった理由を聞かれても、具体的に答えられなかったんだろうな。

「でもそしたら私に話してよかったんですの?」
「うん。だからこの話はここだけの話ってことで。だって今日のことは誰にも秘密なんですもんね?」

 若葉ちゃんはニカッと笑った。あ、さっきの買い食いの件だ。もしかして私に自分の秘密をしゃべることで、安心させようとしてくれたのかな。

「わかりました。私は絶対にしゃべりません!」
「うん。私もしゃべらないよ。約束」

 夕方になり若葉ちゃんの弟達も家に帰ってきた。そしてその頃には私の服も乾いたので、着替えてお暇することになった。

「せっかくだから夕食も食べていけばいいのに」
「ありがとうございます。でも門限があるので…」

 若葉ちゃんのお母さんがありがたいことを言ってくれたけれど、今日は家に連絡もしていないし遅くなるのはまずい。
 私はお目当てのケーキをしっかりと買い、高道家のみなさんにお別れの挨拶をして帰った。

 さて、帰ったらお兄様に手芸部の部長になったことをさりげな~く自慢をしないとなー。
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