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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 市之倉さんと麻央ちゃんとの食事は相変わらず週1ペース程度で行っている。
 本当に市之倉さんは食べることが大好きなようで、この前は私が小龍包が食べたいと話したら、「僕が一番おいしいと思うお店に連れて行くよ」と、週末に日帰りで台湾に連れて行かれてしまった。空港からお店に直行して、わんこそばのように次々に出てくる蒸籠に入った小龍包をひたすら食べた。小龍包を食べるのに、わざわざ台湾にまで行かなくてもと最初は思ったけれど、来たかいがあった。確かに今まで食べた中で一番おいしい。あんこ小龍包はなにか違うと思ったけれど、小さいあんまんを食べたと思えばそれもまた良し。
 小龍包のほかにも蒸し餃子やシュウマイをおなかが苦しくなるまで食べた後は、お土産のお茶を買いに行った。ジャスミン茶と、名前に釣られて選んだ東方美人と、脂肪分解作用があるという謳い文句にこれまた釣られてプーアール茶も買った。今日食べたぶんの脂肪もぜひ分解してもらいたい。食べすぎで胃がはちきれそうだ。
 弁髪の子供の絵が描いた可愛い赤い茶器も購入。この小さい茶杯で飲むと雰囲気が出て楽しいね。
「女性に人気のお茶があります」と言われたので見たら、お湯を注ぐとガラス容器の中できれいな花が開く工芸茶だった。迷わず購入。これは麻央ちゃんにもお土産であげよう。
 弾丸ツアーで観光はなにひとつせず、小龍包を食べるだけで帰ってきた台湾。市之倉さんの食へのなみなみならぬこだわりを見た。
 でも食べるだけといえど、楽しかったなぁ。今度は誰かときちんとした泊りがけの旅行で行きたい。誘う相手が見当たらないのだけが問題…。ひとり旅はヤだな。
 家で工芸茶をわくわくしながら透明ポットで淹れたら、なんだかちょっと気持ち悪かった。冬虫夏草みたい…。麻央ちゃん、ごめん。




 毎日雨が鬱陶しいなぁ。
 そんな少しうんざりとした気分でサロンの扉を開いたら、鏑木がピアノでショパンの“雨だれ”を弾いていた。
 サロンにいるメンバーはそれをうっとりと静かに聴いている。鏑木がサロンでピアノを弾くことは滅多にないけれど、たまに気まぐれで弾くとその演奏力が実感される。私も思わず引き込まれて、立ったまま聴き入ってしまった。鏑木の奏でるピアノに合わせて、知らず知らずの間に体が揺れていた。
 鏑木がピアノを弾き終わると、全員が拍手をして讃えた。もちろん私も。上手いな~。なんだかさっきまでの雨にうんざりしていた気分が消えちゃった?もう少し早く来ていれば、最初から聴けたのに、残念。

「鏑木様、素晴らしい演奏でしたわ!」
「こうして鏑木様の“雨だれ”が聴けるなら、梅雨もいいものですわね」
「鏑木様、ほかの曲も弾いてくださいません?」

 女子生徒達が鏑木とピアノの周りにわらわらと集まった。
 私がその様子をぼけっと突っ立って見ていたら、円城がやってきて「せっかくだから吉祥院さん、リクエストしてみたら?」と言いながら、私の背中を押すようにして輪の中に入れた。

「雅哉、吉祥院さんの好きな曲を弾いてあげて」
「えっ?!」

 私は円城の言葉にギョッとなった。こいつ、いきなりなに言ってんだ!私が目を見開いて円城の顔を見ると、「雪野のお礼」と円城は小声で言ってきた。は?
 その場の全員が私に注目した。鏑木も怪訝な顔で私と円城を見た。

「吉祥院さんにはいつもお世話になっているからね。聴きたい曲、なんでも言っていいよ」
「おい、誰が弾くと思ってるんだ」
「ん?雅哉」

 円城がにっこりと笑った。
 鏑木がピアノを弾くのは自分の気が向いた時だけで、例えリクエストをされてもホイホイ弾くような人間じゃないことは、私を含めメンバーはよく知っている。これで嫌だとか言われたら、私の立場ないじゃないか!いたたまれないっ!

「…曲目は?」
「えっ!」

 鏑木が私を見据えた。曲目って、まさか本当に弾いてくれるの?!
 女子達からまぁ…とため息のような呟きがもれた。

「え~っと…」

 どうしよう、どうしよう。リクエスト曲なんて何も考えていなかったので、私は目を泳がせながら必死で考えた。あぁっ注目がつらいっ。
 でもどうせならバーン!ガーン!と盛り上がれる曲がいいな。

「では、同じくショパンの“幻想即興曲”を」

 言ってから、さすがに不意打ちのリクエストでこれは難しすぎると撤回しようとしたが、鏑木はつと考えるように上を見上げると、

「わかった」

 と了承した。
 えっ?!事前練習もなしに弾けちゃうの?!幻想だよ?!
 そんな私の驚きをよそに、鏑木は両手で指をほぐす仕草をすると、勢いよく鍵盤を叩き始めた。





 今日は麻央ちゃんと市之倉さんとのお食事会。いつもは悠理君も一緒のことが多いのに、今日は来ていなかった。

「今日は悠理君は一緒ではないのね?」

 私がそう聞くと、麻央ちゃんが頬を膨らませて「悠理とはケンカしました」と言った。

「ケンカ?いつもあんなに仲が良かったのに」
「だって、悠理ったら私に、最近太った?って言ったんですよ!太った?って!酷いと思いません?もう悠理なんて知らないっ!」

 なんと、悠理君がそんなことを!

「女の子にそんなこと言うなんてサイテーですわ!麗華お姉様もそう思うでしょ?」
「そうね」

 麻央ちゃんはすっかりおかんむりだ。好きな男の子から太った?と言われたら、そりゃあ傷つくし怒るだろう。
 私達の会話を聞いていた市之倉さんも、「麻央は全然太ってないよ。育ち盛りなんだから気にすることはない。むしろ今のほうがずっと可愛い」と慰めた。

「…麗華お姉様、私太りました?」
「そんなことないわよ!麻央ちゃんは可愛いわ」

 私も一緒になってフォローした。
 でも言われてみれば確かに麻央ちゃんは最初に会った時よりも、ちょっぴり丸くなったような……。

「ガリガリの女の子なんて可愛くないよ。麻央はいつだって可愛いから心配しなくて大丈夫」

 私と市之倉さんの言葉に麻央ちゃんもようやく機嫌を直して、おいしそうにデザートを食べていた。
 太った?か…。私は誰にも言われてないけど、大丈夫だろうか……。
 でも市之倉さんは男性はガリガリよりぽっちゃりが好きだって言ってるし…、平気だよね?
 私も麻央ちゃんとおいしいねと笑いながらデザートを食べた。
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