挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

101/299

101

 学園祭が終わってしばらく経って、桜ちゃんから連絡があった。

「瑞鸞の学園祭に舞浜恵麻が来てたでしょ」
「うん。桜ちゃん知り合い?確か同じ学校だよね」
「学校は一緒。でも仲良くはないわ。舞浜恵麻には気を付けなさいよ。あの子は気に入らない子はすぐにネチネチ苛めるからね。百合宮でも被害者がいっぱいいるんだから」
「そうなんだ。えっ、もしかして桜ちゃんも舞浜さんに苛められたことがあるの?」
「は、誰が?」

 ですよねー。化け猫桜ちゃんにケンカを売ったら、私だって絶対に勝てない…。

「その舞浜恵麻が学園祭で、あの有名な皇帝にくっ付いていたのを見たから、麗華が面倒事に巻き込まれるんじゃないかと思って。あの子、百合宮で自分がいかに瑞鸞の皇帝と親しいかを自慢しまくっているんだから」
「へぇ~」

 確かに鏑木夫人のお茶会に招待されていたし、優理絵様とも親しそうだったから、それなりに鏑木に近いのかもしれないけど、本人には全く相手にされていなかったようだぞ。
 まぁ勝手に頑張れ。



 学園祭も好評の内に終わり、私は友達とおしゃべりしたり、手芸部に通ったり、サロンでお茶を飲んだりして楽しく秋を過ごした。
 そして1ヶ月が経ち期末テストの時期がやってきた。私は塾と家庭教師の真凛先生に教わり、必死で試験勉強をしてテストに臨んだ。高等科に入学して一番勉強したので、もしかしたら30位以内に入っちゃうかも?!

 その数日後に発表されたテスト結果に、学年中に衝撃が走った。

 1位 高道若葉
 2位 円城秀介
 3位 水崎有馬

 鏑木の名前がどこにもなかった。
 どうした、皇帝?!一気に30位以上落とすなんて、名前を書き忘れたのか?!うっかり答えを一段ずつずらして記入しちゃったか?!
 すべてにおいて完璧な皇帝陛下に一体なにが!と、1年のみならず上級生にまでこの結果の話は駆け巡った。
 当の皇帝は学校を欠席していた。
 私もみんなと前代未聞の皇帝不調の話題に参加しつつ、掲示板の30位までの名前をもう一度チェックした。私の名前もなかった。
 個別に渡された成績表の順位は31位。……私って本当に残念すぎる。

 そのまま鏑木はずっと登校してこなかった。
 最初は病気で体調を壊したのではないかと噂されていたけど、肝心の病名も欠席理由も明らかにされていない。しかも一番近い存在である円城も何も言わないので、余計に様々な憶測を呼んだ。
 テスト以降ピヴォワーヌのサロンに円城も顔を出さない。サロンに集うメンバー達も心配の色を見せている。
 本当に、いったいどうしちゃったんだろう。成績ガタ落ちにショックを受けて不登校になったとか?!あ!補習がイヤで不登校とか?!
 う~ん…。あれ?でも考えてみたら、私はいつからあのふたりの顔を見ていなかっただろう。テスト前はサロンもほぼ閉鎖状態だったから会うこともなかったし、その前はえーっと…。
 …うん、まあいいか。
 それよりも、皇帝が成績を落とし欠席が続いていることで、なぜか若葉ちゃんの評判が落ちている。
皇帝が不調の時に蹴落とすように首位に立ち、あまつさえ円城様まで抜かすような真似をするとは!って、別に若葉ちゃんは不正をしたわけじゃないよね?
 大半の女子が皇帝の名前がないことにショックを受けている時に、若葉ちゃんが「1位だ!」って喜んじゃったのがまずかったらしい。鏑木、円城ファンが、1位になるためにあの子が何かしたんじゃないかと言い始めた。完全な言いがかりだ。
 しかもよりにもよって今期のピヴォワーヌの新会長がピヴォワーヌ至上主義の考え方の人なので、庶民の若葉ちゃんにピヴォワーヌの顔を潰されたと苦々しく思っているらしい。
 若葉ちゃん、一気に立場が悪くなってるけど大丈夫か?!


 私が放課後手芸部の部室に行こうとひとりで歩いていたら、カバンを持って駐車場に向かっている円城と出くわした。
 げ…。

「ごきげんよう円城様」

 無視したいところだけど、人として一応挨拶はしておく。

「やあ吉祥院さん」

 そう言って微笑む円城の顔が少し疲れているように見える。

「なんだかお疲れのようですけど、大丈夫ですか?」
「うん?平気だよ。まぁいろいろあって」

 でしょうね。今学院はその「いろいろ」でもちきりですよ。

「吉祥院さんも気になる?雅哉のこと」
「え?」

 気になるといえば気になる。だってこれだけ騒ぎになっているんだもの。でもここで好奇心丸出しにするのは命取りでしょう。

「いえ。お加減が悪いのかと心配はしておりますわ」
「お加減ねぇ…」
「えっと…、体調を崩されているとか?」
「体調は…崩しているのかな。どうだろう、僕は知らないけど」
「えっ!」

 知らないって、あんたは親友でしょう?!

「会ってないからね、雅哉に」
「…お見舞いには行かれないのですか?」
「お見舞い。吉祥院さん、一緒に来る?雅哉のお見舞い」

 絶対にイヤだ…。

「なーんてね。家に行ってもいないよ、雅哉。今、旅に出てるから」
「旅、ですか?」
「そ。これ秘密ね。誰かにしゃべったらあとが怖いよ」
「絶対しゃべりませんわ」

 口が裂けても言いません。でもそれなら最初から言わないで欲しいんですけどね。しゃべるなと言われるとしゃべりたくなるのが人間の性。

「まさか親友が突然旅人にジョブチェンジするとは思わなかったからねー」
「はあ…」

 旅人になっちゃったんだ、鏑木。あの、自分探しってやつか?

「それで鏑木様はいつ旅からお戻りに?」
「それがわからないから困ってるんだよね。今日もこれから電話で雅哉の説得」
「はあ…それはまた…」

 円城は人差し指を口元に当て、もう一度秘密ねと念を押して帰って行った。
 面倒な親友を持つと、大変だな…。
 しかし、旅……。鏑木はどこに旅に出たんだろう。きっと北だな。コートの襟を立てて吹雪の中を歩く鏑木の姿が見える。


 あぁもうすぐ冬休みだな。年明けの新学期には帰ってくるのかな、鏑木。
 そして私は来年こそは手芸部の正式部員になれるのかな。
 私はニードルフェルトの道具の入ったカバンを持って、部室に急いだ。
 部活納めの日には部員みんなでお茶会をするんだって。私は呼ばれてないけどね。



 終業式の日、特になんの誘いもなかった私が、帰るために友達と校舎を出て歩いていると、見知った顔を見かけた。
 桂木だ。
 私はねじねじと言われた、よい報復の方法を思いついた。

「桂木君、ちょっとお話があるんだけど」
「なんだよ!」
「朝の沙悟浄って知ってる?」
「はあ?」
「あのね、昔とある戦場で、多くの兵士が亡くなったの。それはもう、凄まじい死に方だったそうよ。そしてね、その兵士達の魂はまだ成仏出来ていなくって、自分達をそんな目に合わせた敵を探して毎晩さまよい歩いているの。切られた首から血を流し、口からひゅーひゅー息を漏らし、“あさのさごじょ~う”って言いながら。でね、この“朝の沙悟浄”っていうのはね、敵と自分達を見分ける暗号で、この暗号の中にはある秘密の言葉が隠されているの。そして、その暗号を解けない人間は、敵と見做され取り殺されるのしまうの。でね、この話を聞いた人の家には、今日の真夜中、死んだ兵士達がやってきて枕元に立つから、その時に暗号の意味を言わないと、殺されてあの世に連れて行かれちゃうんだって」
「はああっ?!なんだよ、それ!」

 私はぶら~んと両手を垂らして、ゾンビのポーズをとってアホウドリに迫った。

「…実はね、私の家にも来たの、血塗れの兵士達が。でも私は暗号の意味がわかっていたから無事だったわ。頭のいい桂木君ならすぐ解けるわよね。今日の夜、首が半分取れかけた兵士達が来るから、きちんと伝えてね。それとね、この話を人にすると、その人の家にも来ちゃうから気を付けてね」
「お、おいっ…!」
「じゃ、話はそれだけ。ごきげんよう、桂木君」

 私は踵を返した。

「待て!ねじねじ!答えを言っていけ!」
「人の名前もちゃんと呼べない人に、教えてあげる義理はないわね」
「うっ!…。……吉祥院」
「“先輩”」
「……吉祥院、先輩。…教えろ」
「ごめんなさぁ~い。この暗号の意味を人にしゃべっちゃうと、私が殺されちゃうのよ~。だから自力で頑張って~。では今度こそごきげんよ~う。よいお年を~」
「お前っ!待て!おいっ!」

 私は足取りも軽く、その場を後にした。
 してやったり。あいつはバカだから、きっとすぐには解けまい。そしてバカだから本気で怖がっているに違いない。けーっけっけっけっ!ざまーみろ!ねじねじの仕返しだ!

「…あの、麗華様。私も今の話、聞いちゃったんですけど……」
「えっ、ああ、うそよー」
「嘘ですか?」
「ええ、うそ。兵士は首を切られて息が漏れてるから、言葉が上手く発音出来ないのよねー。正確には“あさのさんごぎょう”だったんだけど。ま、どっちにしろ、うそなんだから別にいいわよねー」
「……」

 あの真っ青になった桂木の顔!信じるかね、中2にもなって。でもバカだからしかたないか~。
 あぁ愉快、愉快。今年の遺恨は今年のうちにってね。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ