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君知らんや

作者: 高菜麗


君知らんや、川に揺蕩う落ち葉の如き静かな想いを


ノートにそっと書いては消し書いては消しを繰り返しているものがある。

今もまた、言葉を書いて。それを一字ずつ残らないように丁寧に消した。


―――授業中に何をやっているのか、いやしかし今は古典なので古語の練習のように見えるかもしれない。


そう思いながら顔をあげると同時にコツコツ、カッカッと先生の綺麗な指が少しチョークで白くなりながらも聞き心地良いリズムで文字を書き始めた。


「…君知るらん、我集中せりは君の授業のみなりと。」


心の中では足りず口を小さく動かして呟きながら、私は再び下を向き先生の書いた文字を真似るように丁寧にノートに書いていく。


そう、古典の授業だけなのだ。まぁ、言葉をちょこちょこ書いているのは別として。

他の授業では大抵寝るか、落書きか耽ったりしているのだ。担任である先生には、きっと報告もいっている事だろう。

だって、他の先生の声なんて指なんて容姿なんて性格なんて美しくもなんともない。


―――最も、この先生だって私が美化しているだけかもしれないけれど。


実際、友人に小一時間軽く説明した際には若干引かれた。曰く、「物腰柔らかい優男なおっさん」だそうだ。

15歳歳上なだけでおっさんとは、なんとおっさんのハードルが低いことかとその後私はまたくどくどと話してしまい更に引かれてしまったのは別の話。


まぁ、付き合いたいなんて思ってはいない。私はただ、「先生の姿」が好きなだけなんだ。プライベートの姿なんて分からないし知りたくない。

質問に答えてくれる姿、資料の見つけ方を丁寧に教えてくれる姿。放課後図書館に残って古典をしていた私に、優しく微笑んでこっそり飴を渡してくれた姿。

きっと、私が下心でそんなことやっているのなんて知らないだろうな。先生にとっては生徒の中で、古典が好きな子としてインプットされているに違いない。

私は、下心で行動する度に先生のことが好きになって苦しくなったり、自己嫌悪したりしているのにね。


…あ。


書いていることと違うことを考えながら少し恨みがましく睨むように顔をあげると、ちょうど目が合ってしまった。周りの生徒はまだ書いているようで、シーンとしている中で。時が止まったような感覚がした。

先生は私の顔を見るや少し不思議そうに眼鏡の奥の目を丸くさせた。そして何を思ったか、黒板に自分が書いた文字を指でつついて尋ねるように首を傾げる。

突かれていた文字に目を通すと、私は思わず顔を赤らめてしまった。それを見た先生は小さく口元を歪め笑った。

くっそ、好きだよ先生!


我が恋は 人知るらめや しきたへの

枕のみこそ 知らば知るらめ(古今集504)



恋の和歌を入れたくてこんなの作ってみました。

本当はつぶやきも和歌にしたかったのですが、そんな能力など無く……笑


和歌は古今集より、引用。意味としては「私の恋をあの人は知らない、知っているのはあの人を想い毎夜涙にぬれる枕だけ」という感じです。


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