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H2O  作者: 大野あすか
3/5

修一

修一とは居酒屋で会うことになった。

舞子と会う前は、何人で行くかと話したが、今回は当たり前のように4人で行く。


修一は高校では特進コースだったので、同じクラスになることはなかったが、俺や広人と同じ陸上部だった。

俺や広人が短距離で筋トレに励む中、修一は長距離を黙々と走っていた。

昔、修一に長距離走の何が楽しいのか聞いたことがあった。

彼は「走っていたら次第に何も考えられなくなって、無になれること」と答えたのを覚えている。

俺にはあまり理解できなかった。




指定された居酒屋の前で4人揃って待っていると修一が来た。

染髪していないサラサラの髪。

黒いパーカーとベージュのチノパンというシンプルな服装。

長身で細身の体型は当時のままだ。

男って変わらないんだな。


舞子の時と同じように、彩香が「お仕事楽しい?」と切り出す。

修一はメガネの奥の細い目をさらに細めて「いや…実は、今は教師してないんだ」と苦笑いした。

昨年度までは学校を転々としながら講師をしていたが、今年度はいい条件の学校が見つからなかったらしい。

今は図書館で司書のバイトをしながら、採用試験の勉強をしているという。

「楽だけど、やっぱり好きな仕事がしたいよ。来年度は何としても受からなきゃって、今必死だよ。」と話した。


広人が「そうまでしても就きたいくらい、教師は魅力があるのか?」と問うと

「あるよ!去年は養護学校しか就職先がなくてさ、まともな授業できないと思ったけど、違ったんだよ。

障がいがあっても、やっぱり子どもは成長するんだよ!

口で教えるだけじゃなく、字を書いて、絵で描いて、実際に体験させて、じっくり教えたら理解するんだ。

工夫した授業を考えるのは楽しかったよ。」

高校時代を共にした修一が、こんなに一気に話のは初めて見た。

やっぱり教師ってすごいんだな。

修一は来年度、特別支援学校(養護学校)に絞って受験するらしい。




修一と別れて家でぼんやり、高校時代を思い返す。

あの頃は、朝早くから朝練をして、そのあとジュースを飲んでから朝礼に向かうのが広人と俺のルールだったから、2人でよく遅刻した。

その度にクラスの奴らに「また二人で遅れてきたよ」「デキてるんじゃないの」ってからかわれてたっけ。

そのあと2時間目に早弁して、お昼休みは広人や修一たち陸上部の連中で揃って学食に行って、放課後もまた練習に明け暮れたっけ。


俺は、大会で何位になりたいとか、記録会で何秒を出したいとかあまり思わなかったけど、練習すればする程速く走れるのが楽しくて仕方なかったな。

俺や広人は短距離で、修一は長距離だったから一緒に練習することは少なかったけど、修一はいつも腕時計でタイムを気にしながら走ってたっけ。

そういうところはしっかりしてるなと思っていたけど、今思うと特進クラスだから勉強もしっかりしてたんだろうな。

俺が知らなかっただけで、あいつはその頃から将来を見据えて努力していたんだな。

俺は何も考えてなかったのに。

俺は修一に嫉妬した。

あ、こういう時にも嫉妬って使うんだ、と、彩香の気持ちがやっと分かった。




ふと我に返り、携帯が鳴っているのに気づいた。

着信は由生からだった。

珍しいなと思いながら出る。

「大志、ゆき転職するわ。ウェブデザインを真剣にやってみる。前からやりたかったし、最初は仕方ないから使われてやる。それからいつか独立するよ!」

俺は、そうか、よかったなと答えた。

由生は「だからあんまりH2Oは手伝えなくなるかもしれないけど、会社のロゴなら任せてよ!」と続けた。

修一の影響なのは間違いなかった。




ちなみに、修一にH2Oのことを話したら「僕は今教師をしていないし、参考になることは言えないよ」とやんわり断られた。

変わりに日向高校の同級生で、修一の幼なじみの優菜ユウナを紹介された。

優菜は俺達4人や舞子と同じクラスだったことがある。

俺はその時初めて下の名前を知ったくらいだけど、彩香は仲が良かったらしく嬉しそうにしていた。

彼女は私立高校で教師をしているらしい。本当に、ウチは教師の多い学校だなと思った。




それからしばらくして、俺達は優菜と会うことになった。

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