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H2O  作者: 大野あすか
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はじまり

オフィスH2O

と言っても、まだ(仮)。

オフィスだって俺の死んだじいちゃんが住んでいた木造平屋建て、築48年−


オフィスH2O(仮)の社員は4人。

俺と広人ヒロト由生ユキ彩香アヤカ

みんな今年で26歳。

日向高校時代の同級生。

「日向高校OB・OG」の頭文字をとってHHO。

Hが重なって字面が悪いからH2O。

決して、水じゃない。

さらさら流れていかれては困る。


どんな会社かと言えば、学校に副教材や参考書を売る会社だ。

もちろん各地の学校に出向いて営業もする。

予定。

正しくは、まだ何もやっていない。

実は、まだ俺は中小企業のしがないサラリーマンのままだ。




何となくこのまま流されて一生を終えることが嫌だった俺。

高校時代からなぜかずっと俺の隣にいる広人。

人に使われる仕事に飽きた男まさりな由生。

趣味のコスプレに思う存分時間を使いたかった彩香。

4人が集まり、共同出資でオフィスH2Oがスタートした。

今のところ電気代と水道代しか払っていないけれど。



大志タイシ、明日の18時から舞子マイコちゃんに会いに行くの、誰にする?4人で行ったら迷惑かな。」彩香が甘ったるい声で聞く。

俺は「あぁ、さすがに4人は迷惑だろうな。」と適当に答えた。

広人は「女子2人で行ってくれば。久しぶりに会うんでしょ。」と柔らかな笑みで答えた。

「女子ってなー、そんな年じゃねぇし。そんな柄じゃねぇし。」由生は不機嫌そうに栗色のショートカットの髪を掻き上げた。これでいて、未だに自分のこと「ゆき」って言うんだぜ。

「明日何着て行こうかなぁー。」言い出しっぺの彩香はもう別のことを考えている。


舞子も日向高校の同級生。

小学校教師をしているらしい。

下の名前は最近知った。

同じクラスになったことはあったから、ギリギリ苗字は知っていたけど、話をした覚えはない。

H2Oの話をしたら、どんな顔をするんだろうか。


舞子に限らず日向高校出身者には教師をしている人が多い。

小学校も中学校も高校も、日向出身の教員が大半を占めた。

教育実習の時期になると、毎年一列では並び切らない程に実習生が来た。

だから、ツテを利用して学校や教師を相手にビジネスを展開したら儲かる気がしたんだ。

由生は「非現実的」だと言ったけれど。

もちろん、他のちゃんとした理由もあるんだぜ。




今度は彩香の甲高く弾んだ声が聞こえる。

「大志ー、舞子ちゃんが明日みんなでおいでって。久しぶりに大志と広人にも会いたいって!」

意外な言葉だった。

一度も話した覚えがないのに。


仕方ない―

明日は定時に仕事を終わらせて、4人で舞子に会いに行くことになった。

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