表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

令和の魔王様

作者: 藁草ワロタw
掲載日:2026/01/31

 魔界の頂点に君臨し、万物を震え上がらせる恐怖の象徴──魔王サタン。


 そんな彼がいま、最大級の窮地に立たされていた。


「……ない。鍵が、ない」


 魔王城の裏口、通用口の前で彼は呆然と立ち尽くしていた。


 右手にはレジ袋。中身は期間限定の『冥界濃厚とんこつプリン』と、新作の『おしゃぶりスルメ・獄』。

 ちょっと小腹が空いたからと、パジャマ代わりのジャージにサンダルという、およそ魔王らしからぬ格好で近所のコンビニ『デビルマート』へ出かけたのが運の尽きだった。


 普段は側近が常に付き添い、門を開ける。だが今日は「たまには一人の時間が欲しい」と、思春期の娘のような理由でこっそり抜け出してきたのだ。

 そして、あろうことか魔王城のオートロック魔法を解除するための『魔宝珠スマートキー』を忘れた。


「……正面から入るしかないのか」


 魔王は重い足取りで、勇者一行を迎え撃つためのメインストリート、死の門へと向かった。


 一方その頃、魔王城・第一の関門。

 そこには、魔王軍四天王の一人【冷徹なる処刑人】ゼオスが、並々ならぬ気合で立っていた。

 ゼオスは焦っていた。昨今の『魔界景気の冷え込み』により、魔王軍もリストラの波が押し寄せている。最近では「勇者が来ないなら警備費用を削るべき」という財務部門からの圧力が凄まじい。


(ここで私の有能さを示さねば、真っ先にクビを切られる……!)


 そこへ、一人の男がトボトボと歩いてくるのが見えた。

 ジャージ姿、サンダル履き。だが、その魂から漏れ出る魔力は間違いなく、彼が待ち望んでいた『獲物』……もとい『主君』のもの。


 ゼオスは確信した。


(これは抜き打ちの『防衛能力査定』だ! 魔王様はあえてあんな情けない姿に変装し、私がどれだけ本気で外敵を排除できるか試しておられるのだ!)


 ゼオスは魔力を最大限に練り上げ、舞台俳優のような大仰なポーズで立ちはだかった。


「ククク……よくぞ来たな、愚かな侵入者よ!」

「あ、ゼオスか。ちょうどいい、裏口の鍵を──」

「黙れ! 私こそは最初の試練。けれど残念。ここがお前の死に場所だ! 絶望に埋もれながら、死ねええええええええ!!!!!」


 ズバァァァァン! と背景で爆発(自前)が起きる。


 これ以上ない、完璧な悪役の決めゼリフ。ゼオスは内心でガッツポーズを決めた。どうだ、この臨場感! これぞ魔王軍の鑑!

 しかし、目の前の魔王は、氷のように冷めた目で彼を見ていた。


「貴様……どういうつもりだ?」

「(キタッ! この威圧感!)はっ、一切の手加減はいたしません! たとえ貴方様が相手でも、私は全力で──」

「このご時世に『死ね』はダメだろうがぁぁぁ!!!!!」


 魔王の怒声が城内に響き渡った。


「えっ……あ、え?」


 固まるゼオス。

 魔王はレジ袋を地面に置き、ジャージのポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出してゼオスの鼻先に突きつけた。


「見ろ! これを見ろ、ゼオス! 先月の定例会議で配った『魔王軍・コンプライアンス遵守ガイドライン(第3版)』だ!」

「は、はい……」

「第4条第2項!『敵対勢力に対する過度な攻撃的言辞、特に生存権を全否定する表現(死ね、殺す、地獄へ落ちろ等)は、組織の品格を損なうため、原則として禁止とする』と書いてあるだろうが!」


 魔王はハァハァと息を切らしながら、自分のスマホ(魔界製)を取り出した。


「お前、もし今のを近所の住民に録音されて、SNSマジグラムにアップされたらどうするんだ? 『魔王軍幹部、パワハラ暴言で一般人(に見える魔王)を威嚇』。そんなハッシュタグがトレンド入りしてみろ。翌日には魔界労働基準監督署がガサ入れに来るんだぞ!」

「い、いや、しかし魔王様、我々は魔王軍……悪の組織であります。死を振り撒くのが仕事では……」

「古い! 考え方が昭和……いや、暗黒神話時代なんだよ!」


 魔王は地べたに座り込み、頭を抱えた。


「いいか、今の魔王軍は『ホワイトな職場環境』を売りにして、優秀な魔物リソースを確保してるんだ。最近入ったスケルトン兵たちが、お前の今の台詞を聞いたらどう思う? 『え、うちの職場、命を軽視しすぎじゃない?』って思って、即日退職代行サービスを使うぞ!」

「退職代行を使うスケルトン……」

「それにだ! 『死ね』なんて言葉は語彙力の欠如だ! もっとコンプラに配慮しつつ、相手を威圧する言い方があるだろう!」


 ゼオスは冷や汗を流しながら問い返した。


「……教示、いただけますでしょうか」


 魔王はビシッと指を立てた。


「例えばだ! 『貴様の存在を、当組織の管理外へと移行させてやろう』とか! 『永続的な稼働停止を推奨する』とか! もっとマイルドに、かつ事務的に追い詰めるんだよ!」

「……それ、余計に怖くないですか?」

「いいんだよ、コンプラさえ守っていれば! 訴えられなきゃ勝ち──」


 その時、二人の背後でパシャリと音がした。


「あ」


 見ると、城の掃除を担当していたメイドのゴブリンが、スマホを構えて立っていた。

 画面には、ジャージ姿で説教をする魔王と、泣きそうな顔で直立不動の四天王。


「……あ、あの、魔王様。今のやり取り、めちゃくちゃ『上司による執拗なロジハラ』なので、本部のコンプラ窓口に送ってもいいですか?」

「………………」

「………………」


 魔王とゼオスは顔を見合わせた。


「……ゼオス。今の台詞、もう一回言ってくれ」

「えっ? 『死ね』ですか?」

「そうだ。俺を今すぐ、社会的責任のない世界へ送ってくれ……」


 魔王軍の真の恐怖は、勇者の聖剣でもなく、禁忌の魔法でもない。

「全方位から飛んでくる不祥事の告発」である。

 その日、魔界のトレンド1位は『#魔王様のジャージ姿かわよ』と『#四天王パワハラ会議』で二分されることとなった。


 (完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ