第97話 第一騎士団顧問(期間限定)
長めの休みである春休みに入ったので、ルクスは第一騎士団顧問として、補佐官アレクサンダーを伴い、第一騎士団の団長執務室にやってきていた。
「なるほど、シュトラウス卿が第一騎士団の顧問として騎士たちを鍛えてくださるのですね?」
茶髪に緑の目を持つ、優し気な風貌の美男──第一騎士団の団長イサイアス・フォン・アレトゼー=アンブロスが微笑んで、ルクスに聞く。
ちなみに、イサイアスはアンブロス伯爵家の三男だ。家を継げないが、騎士として一代騎士爵を持っている。
「はい、レベルごとにチームを組んでもらい、廃坑ダンジョンでレベルに合った階層でレベリングしてもらいます。サポートは私と協力してくれる仲間にお願いしようと思っています」
「ふむ……陛下からシュトラウス卿のことはよくよく伺っています。ぜひお願いしたいです」
「ありがとうございます……アンブロス卿は、陛下とは親しいので?」
「その、王妃殿下が私の叔母でして、偶に、陛下と王妃殿下の茶会に呼ばれるのです」
ちなみに、イサイアスの母親が王妃の妹で、その妹がアンブロス伯爵家に嫁いだのだ。
アンブロス伯爵家は北部の一部を領土として有する家だ。
「なるほど……」
「はい。私はシュトラウス卿のことを陛下から伺って、お強いということも直接会えば伝わってきます。しかし、闘気や魔力に鈍い者はシュトラウス卿に従わないでしょう」
「ふむ……」
「ですので、あらかじめ、分からせてはいかがでしょうか?」
ルクスは目を丸くした。
「分からせる、とは」
「訓練場で、第一騎士団の騎士たちを全員倒してしまうのです」
そう言ってイサイアスはウインクした。
訓練場にやってきた二人は騎士たちの訓練を眺めていた。しばらくすると、二人は訓練場に入った。
「全員、注目!!」
「「はっ!!」」
全員が背筋をピンと伸ばし、気を付けの姿勢でイサイアスに注目した。
「こちらは第零席元帥のルクス・フォン・シュトラウス閣下だ。来週、皆を鍛えなおしてくれるが、先んじて、訓練場にいる騎士全員を相手してくれることとなった。有難く胸を借り給え。シュトラウス閣下、一言お願いします」
ルクスは訓練の木剣を手にし、騎士たちの輪の中心にやってきた。
「まどろっこしいのは苦手なんだ。掛かってくるが良い」
騎士たちは明らかに子供にしか見えないルクスに戸惑っていたが、シルウェステルとよく練習試合をしている見習い騎士のバルトルトがルクスに向かって素早く走り、剣を振り下ろした。
しかし、ルクスはバルトルトの前から消え、背後を取って、首筋に木剣を当てていた。
ちなみに、バルトルトには消えたように見えたのだが、実際はルクスが風属性魔法で速度をUPさせ、素早くバルトルトの背後に回っただけだ。
「……参りました」
「うん、皆で掛かって来れば何とかできるかもね?次!!」
他の騎士たちもルクスに次々と斬りかかるが、あっさりあしらわれて、ルクスに一本取られていく。
あっという間に、ルクスの周りには蹲る騎士たちが山のようにできた。
残ったのは、腹を蹴られても諦めないバルトルトくらいだった。
「バルトルトは強くなりたい?」
「はい!」
「君たちも強くなりたい?」
「「……はい!」」
色んな箇所を木剣で打たれて蹲っている騎士たちも大きな声を振り絞った。
「じゃあ、来週の無限月(二月に相当)五日の早朝六時に王都の北門外に集合すること。そして、一週間、廃坑ダンジョンで訓練するから各自、自分の荷物は自分で用意するように。いいね?……食事は俺が用意するから心配しなくても良い。連絡は以上だよ。今から君たちを鑑定して、チーム分けするから並んでね」
ルクスはアイテムポーチから和紙の束を取り出し、万年筆で騎士たちのステータスを記載していった。
ちなみに、この万年筆は鍛冶屋のドニと共同で作り上げたもので、ドニに特許申請を任せている状態だ。特許申請書に共同名義で申請したので、ライセンス料はいずれルクスにも入ってくるだろう。
そんな万年筆を騎士たちは目敏く見つつも、大人しく鑑定されていった。
全員の鑑定が終わると、ルクスは五人一組でチーム分けをしていった。
十レベル帯が四チーム。二十レベル帯が三チーム。三十レベル帯が二チーム。四十レベルから五十レベル帯で一チームに分けられた。
ちなみに四十レベルから五十レベル帯は騎士団長イサイアスと副団長とバルトルトだけの三人チームになっており、一番班と名付けられた。
一番班から、レベルが下の三十レベル帯は二番班、三番班と名付けられ、レベルが下がっていく毎に、どんどん数字が大きくなっていった。
「では、皆さん。来週を楽しみにしていてね」
ルクスはそう言って、イサイアスと共に訓練場を後にした。このあと、ルクスはイサイアスと副団長を交えて、遠征の具体的な内容を詰めることとなった。
無限月(二月に相当)五日、早朝六時。
北門の外側には多くの騎士たちが班ごとに並んでいた。
騎士らしく鎧を纏い、一番班から十番班まで整然と並んだ様は、流石といったところだろう。
時間ぴったりにやってきたのはルクスと黄金の導の面々だった。
子供たちが騎士たちの前に並んだ。
そして、ルクスが一歩前に出る。
「皆さん、おはよう。一人も欠けることなく、この場に揃っていること、嬉しく思うよ。では、君たちの指導役を連れてきたので、この場で挨拶してもらう。アラン」
「え、俺?……こほん、えー、俺はアランだ。皆が強くなれるよう尽力します。よろしく」
アランがお辞儀すると、団長のイサイアスと副団長が拍手した。それに倣って全員が拍手した。
「バート、よろしく」
「うん。僕はバート。皆さんが強くなるよう、サポートを頑張ります。よろしくお願いします」
バートはお辞儀した。たくさんの拍手がされた。
「クラーラ、どうぞ」
「……クラーラです。付いて来れない奴はぶっ叩くので、頑張ってください」
美少女のクラーラが冷たい微笑みを浮かべている。騎士たちは震え上がりつつ、拍手した。
「ティアも」
「はい。……私はラエティティア・ヴィンター=アルノルトと申します。的確なアドバイスができるよう、頑張ります」
優しく微笑んだ美少女ラエティティアに騎士たちは浮足立ちつつ、拍手を送った。
「《《ちなみに》》、クラーラはアランの婚約者で、ティアは俺の婚約者です。妙な気を起こしたら、俺たち容赦しないので、よろしくね」
ルクスは微笑んでいるが、目が笑っていない。凄味のある笑みだ。
騎士たちは震えつつ、「「はい!」」と返事をした。
「次にアレクサンダー・クラウリー」
ルクスの後ろに控えていたアレクサンダーが前にやってきた。
「アレクサンダー・クラウリーと申します。よろしくお願いいたします」
アレクサンダーがお辞儀をすると、拍手が送られた。
「最後に、アスター、シアーシャ」
バートのフードに入っていたアスターとシアーシャが飛び出してきた。
「小妖精のアスターです」
「シアーシャです」
よろしく、と二人が頭を下げたのを見て、騎士たちはぽかんとしつつ、拍手を送った。
「じゃあ、各班で代表者を決めて、俺の近くに来て欲しい」
騎士たちはすぐさま代表を決めて、代表者がルクスの近くにやってきた。
「廃坑ダンジョンに行ったことがある人は手を挙げて」
十人中四人が手を挙げた。
「はい、その四人は離れててください。六人は全員で手を繋いでね。はい、端っこの人、俺と手を繋いで」
ルクスと端の騎士は手を繋いだ。ルクスは自由の羽を取り出した。
自由の羽だが、一ヶ月ほど前に国民に情報が開示され、身元が確かでお金のある者であれば買えるようになった。
ルクスが持っている自由の羽は、夜明けの魔法商店で購入したものや、廃坑ダンジョンでドロップしたものが殆どだが。
「【廃坑ダンジョン入口へ】」
ルクスたちは廃坑ダンジョン入口に転移した。
「こ、これは、なんと……!?」
「まさか、さっきの羽は自由の羽ですか!?」
騎士たちは驚いている。
「ううん、自由の虹羽。自由の羽の進化版だね。これで廃坑ダンジョンの入口に来たんだ。また戻るから、君たちは、班の仲間と手を繋いで彼らを此処に誘って欲しい」
「「分かりました」」
「うん、良い返事だ。さ、戻ろう」
ルクスと班の代表者たちは北門に戻った。
「じゃあ、指導役を割り振るよ。アラン&クラーラは十レベル帯の四チームを担当してね」
「おう」
「うん」
「バート&アレクサンダーは二十レベル帯の三チームを担当して欲しい」
「了解」
「かしこまりました」
「俺とラエティティアは三十レベル帯の二チームを担当する。アスターシアーシャは四十から五十レベルの一番班を担当してね」
「「はーい」」
アスターとシアーシャは元気に飛んで、一番班の三人の元に向かった。
「じゃあ、それぞれのレベル帯の班を廃坑ダンジョン入口まで見送ってから、自分たちもダンジョンに向かってね」
「「はーい」」
「じゃあ、解散」
指導役になった彼らはそれぞれが受け持つレベル帯の騎士の元に向かった。
ルクスもラエティティアと共に三十レベル帯の二チームの元にやってきた。
「じゃあ、二番、三番班の皆さん、この自由の羽で廃坑ダンジョン入口に向かってください」
ルクスは代表者に自由の虹羽を渡した。指導役の皆も自由の虹羽は十分に持っているので、問題ない。
「「はい」」
二番、三番班が廃坑ダンジョン入口に向かうのを見届けたルクスとラエティティアは、周りの騎士たちもどんどん廃坑ダンジョンに向かうのを確認して、一緒に廃坑ダンジョン入口に向かった。
廃坑ダンジョン入口に、騎士たちは並ぶ。
ルクスは前に出て、口を開いた。
「では、今から廃坑ダンジョンに潜ります。まず、一番班と指導役のアスターとシアーシャが入ります。三十分後に二番班と三番班、その三十分後に四番、五番、六番班、その三十分後に七番、八番、九番、十番班が入ってください。健闘を祈る」
「「はっ」」
騎士たちは胸に右手拳を当てた。これは騎士の礼だ。
一番班が入り、三十分後、二番、三番と共にルクスとラエティティアが入ると、雑談を小声でする騎士が出てきた。
それを見た、バートは杖を掲げ、巨大な炎の玉を作った。
「今、雑談したでしょ?騎士なのに聞いて呆れるなぁ。このダンジョンに入ったら、実戦が待ってるんだよ?命のやり取りをするんだ。もっと、真剣になって貰わないとさ……。君たち、死にたいの?」
騎士たちが涙目で首を横に振った。
「そう、良かった。じゃあ、静かに精神統一しておいてよ。あと、次に雑談した奴、消し炭にするから、覚悟しておいてね」
優し気なバートの口から出る辛辣な言葉の数々と、掲げられている炎の玉の威容に騎士たちはガクブルしながら、何度も頷いた。
「よろしい」
バートは炎の玉を消して、懐中時計を確認した。この懐中時計はルクスとドニとアルイスターが共同開発した。アルイスターは電池の代わりになる魔石の監修をし、それ以外はルクスとドニが作った。ルクスの前世の記憶に懐中時計の内部構造の記憶があったのは僥倖だった。
懐中時計も連名で特許申請中だ。
「そろそろ時間だね。四番、五番、六番班行こう」
バートとアレクサンダー、四番、五番、六番班が共に廃坑ダンジョンに入っていった。
「残った皆に言っておく」
アランは手加減を少し緩めて右足で地面を踏み込んだ。
地面にアランの右足がめり込み、周囲がひび割れる。
「俺たちのことも、舐めたら酷い目に遭うと思っておけ。騎士団の中で一番レベルが低い新人が多いのは分かってるけど、容赦しないからな」
騎士たちはガクブルと震え上がる。
「私も」
クラーラも右足を地面にめり込ませた。
「アランとらぶらぶするの邪魔したら、容赦しない」
クラーラはそう言って、アランの腕に手を絡ませた。
「ク、ククククラーラさん!?」
ぶわっと真っ赤になったアランを見て、少しほっこりした騎士たちだった。




