第92話 飛び級と暴れ馬
クラス対抗魔法魔術大会一学年の部の結果は下記の通りだった。
クラス最優秀賞:S組
クラス芸術賞:S組
クラス技巧賞:S組
個人最優秀賞:ルクス・フォン・シュトラウス、シルウェステル・アルヒ、レヴァナ・フォン・リーデルシュタイン=ローデンヴァルト
個人芸術賞:ラエティティア・ヴィンター=アルノルト、バート
個人技巧賞:エクトル・フォン・ネーフェ=シュトゥーベン
ほぼS組が賞を掻っ攫っている。
他の学年の部も、あと五日で決着がつく予定だが、一学年のS組選手たちのような結果を果たして出せるかは未知数だ。
しかし、教師陣は去年までの結果を知っているので、他の学年が一学年のS組選手たちのような結果を出せないことは予想できていた。
クラス対抗魔法魔術大会で最も実力が高い者たちは誰なのか、一学年の部で殆どの者が確信していた。
ちなみに、宮廷魔導士はすぐさまルクスたちに声を掛けたが、皆に誘いを蹴られてしまい、惨敗だったらしい。
一週間後、理月(七月に相当)十七日。
ルクスとラエティティア、シルウェステル、レヴァナ、エクトル、そして、バートは学園長に呼ばれ、学園長室にやってきた。
迎えたのは中年の美形──学園長だった。
「よく来たね。皆。さ、紅茶でも飲みなさい」
秘書らしき男が紅茶を淹れ、皆の前にティーカップを置いていく。
「まずは自己紹介をしよう。私はこの学園の学園長、シルウァヌス・フォン・アッシュ=ブランデンブルクという。妻がブランデンブルク女辺境伯爵でね、私は夫だが、自由にさせてもらっている。シルウェステル君は私の甥だね」
アッシュとは王族の兄弟姉妹が王位継承権を放棄し、王族から籍を抜いたときに名乗る苗字だ。
シルウェステルに自然と視線が向けられた。
「学園長は僕の叔父ですね」
「つまり、私は王弟だ。まあ、王位継承権は放棄して、結婚したときに籍は抜かれているから、王族でも何でもないんだけどね」
シルウェステルと同じ青い瞳を持つシルウァヌスはウインクした。
「さて、本題に入ろうか。今日、君たちを呼んだのは、《《飛び級》》をしないか?というお誘いをするためなんだ」
「「飛び級?」」
「ああ。君たちはとても優秀だ。優秀な君たちにより相応しい授業を受けて貰うためだね」
「「……」」
ルクスたちは顔を見合わせた。飛び級という選択肢を想定していなかったためだ。
「すぐに決める必要はない。考えたり、話し合ったりすると良い」
「分かりました」
「では、この話はお終いだ。世間話でもしようか」
えっ、とルクスたちは内心戸惑いつつ、学園長と休みの日の話や、趣味の話などをすることになった。
理月二十日。夏休みを前に、ルクスたちは結論を学園長に伝えるべく、学園長室にやってきた。
「「失礼します」」
「どうぞ」
入ってきたルクスたちを見て学園長は微笑んだ。
「この前の飛び級の件かな?」
「はい、僕たちの結論は、飛び級すべきだ、となりました」
シルウェステルが代表して学園長に答えた。
「なるほど、個人個人で理由が違うと思うけど、聞いても良いかな?」
「えっと、僕はより高度な授業を受けたいと思ったためです」
シルウェステルはそう答えた。
「私も同じ理由です」
レヴァナはそう言って、シルウェステルの傍に控えた。
「俺は早く卒業して世界中を旅したいと思ったからです」
ルクスは堂々と答えた。
「私はルクス君の旅にお供したいからです」
ラエティティアも堂々としている。
「僕は、もっと魔法も魔術も優れた人になりたいからです」
バートは胸を張ってそう言った。
「ふむ、ちゃんと理由も教えて貰えたので、飛び級の手続きを進めようか」
学園長は補佐官を呼んで、ある書類を受け取り、サインした。
「はい、これが君たちの飛び級証明書。来年から君たちは四年生だからね。関係各所にも連携しておくから安心して」
「「はい」」
ルクスたちは飛び級証明書を受け取り、頷いた。
「「失礼します」」
ルクスたちは学園長室から去っていった。
「もっと私と話をしていっても良いのに……」
「偉い人と話したい者はあまり多くはありません」
補佐官の慰めは学園長に響かなかった。
「えー、シルウェステルだって王子様だよ?私より偉いじゃん」
「学園では学園長が最も権力を持っていますから……」
「まあ、そういうことにしておこう。これ以上掘り下げたら、もっと悲しくなりそうな気がする」
「賢明なご判断ですね」
「……」
学園長は補佐官をジト目で見つつ、仕事に戻った。
冠月(八月に相当)五日。夏休みに入ったルクスたちの耳に入ってきたのは、不穏な話だった。
「え、昨日、人それぞれのエマが襲われたの?」
談話室で寛いでいたルクスたちは、人それぞれのリーダーのアガーテからその話を聞き、驚いていた。
「はい。夜、酒場で飲んでいたそうなのですが、その帰りに」
「大丈夫なの?怪我は?」
「すぐに魔法で応戦したそうで、掠り傷程度で済んだそうです」
「良かった……誰が襲ってきたのか分かる?」
「はい……恐らくですが、最近、自由の翼に何かと難癖を付けてくるクランがありまして……」
「なんてクラン?」
「魔銀級クラン『暴れ馬』です」
「暴れ馬か……ならず者が多いクランだって聞いたことがある」
「はい、ならず者でも強い冒険者を引き入れているそうで、実力はあるクランだそうです」
「で、僕たち『自由の翼』を目の敵にしている、と」
「まあ、そうですね」
ルクスの目が据わった。
「潰すか」
「団長!?」
ルクスは黄金の導や追い風のメンバー以外からは大体『団長』と呼ばれている。
クランのリーダーだからだ。
「大丈夫大丈夫、自由の翼の仕業だってバレないようにするから」
「いや、でも、もう少し穏便にできませんかね」
「んー、バレないように、こっそり潰す方向で、なるべく穏便にやるよ」
「結局、潰すんですね」
「だって、残ってたら、また難癖付けられるでしょ?」
「え、ええ、まあ……」
善は急げだー、と言って、ルクスは何やら準備をすると言って出かけて行った。
「大丈夫、ですかね?」
談話室にいる面々は笑顔で頷いた。
「ルクス君なら大丈夫です」
ラエティティアは微笑んでいる。
「まあ、ルクスなら大丈夫」
「うんうん」
「ルクスなら解決できるよ」
アラン、クラーラ、バートも笑顔でそう言った。
「……まあ、信じて待つしかありませんね」
アガーテはそう言って、談話室を出た。




