第86話 王城に行こう
厳月(一月に相当)五日。ルクスの元に国王からの手紙が届いた。
内容は一言で言うと「戦争も終わったし、時間があるときに、自由の羽の件、話そうか」という感じだ。
ルクスは用事はさっさと終わらせたいタイプなので、手紙を貰ってすぐに礼装に着替えて、馬丁に馬車を準備してもらい、御者を呼んで王城まで向かってもらうことにした。
御者なんて雇っていなかっただろう、と気づいた者もいるだろう。実は、ベネディクトゥスやラエティティア、ヘレナのために元伯爵家で雇っていた全ての使用人を雇ったのだ。
その中には御者もいた、というわけだ。
ルクスを乗せた馬車は王城に向かった。
馬車を牽くのは馬だ。大鹿も馬車を牽けるが、アルヒ王国では見慣れないので、馬の方が良いとベネディクトゥスがルクスにアドバイスしたためだった。
王城の前にいる門番に国王のメダルを見せると、騎士がやってきて、ルクスを案内し、国王の執務室に連れて行った。
「よく来たな、ルクス殿」
「こんにちは、陛下」
国王シリウスに勧められ、ルクスはソファーに座った。
「早速だが、自由の羽について話そうか」
「はい」
「結論としては、自由の羽を民に公開するのは少し先延ばしになる」
「!」
「実はな、勝手に入られては困る場所にも行ったことがある者なら入れることが分かってな、それでは困ると、人避けの魔導具を開発しているのだ。その開発ができ次第の公開となる」
「なるほど……確かに自由に入って来られても困りますからね」
「うむ。それでな、王都内では自由の羽が使えなくなるように結界も改良しているのだ。……結界の改良と魔導具の開発が終わるのが来年の美月になる。それまではルクス殿にも自由の羽を秘密にして欲しい」
「大丈夫ですよ」
「そうか!すまないが、よろしく頼む」
「かしこまりました。ご説明いただき、ありがとうございます。……ところで、今回の戦争には王子様方も参加されたと聞きました」
「ああ、シギスムンドゥスとシルウェステルが参加したな。シギスムンドゥスは第一王子だから、前線近くで指揮を執らせた。シルウェステルはまだ十歳だからな、後方支援に従事してもらった」
「へぇ、そうなんですね……(王と王妃が生きているから、ストーリーと違う展開になっているな)」
ルクスの記憶の中のゲームシナリオでは、王と王妃が亡くなった王国に対して隣国が戦争を仕掛けてきて、シルウェステルも前線で戦うこととなるのだ。そして、誰も血を流さない、平和な世界を目指したいと思うのだ。
(この世界ではレヴァナも王も王妃も生きてる……シルウェステルの性格が大分違うことになっているかもしれない)
ルクスはゲームシナリオとは違う勇者というイレギュラーがどのように作用するのか皆目見当もつかない。
(否、そもそも俺の存在自体がイレギュラーだし……気にするだけ無駄な気がしてきた!)
開き直ったルクスは国王シリウスに笑顔で聞いた。
「すみません、シルウェステルに会いに行きたいのですが……」
「おお、勿論良いぞ。騎士に案内させよう。……ルクス殿、自由の羽のこと。了承してくれてありがとうな」
「いえいえ。気にしないでください」
「すまぬな」
ルクスはシリウスに見送られ、執務室を出て、騎士によってシルウェステルのいる訓練場に案内された。
訓練場は王城の外にある野外訓練場だ。
むさ苦しい男たちが木剣などで汗を流して鍛えている中に、シルウェステルの姿もあった。
自分よりも少し大きな浅黒い肌の少年兵士と練習試合をしているようだ。
「勝負あり、シルウェステル殿下の勝ち!」
審判がそう言うと、ほっと息を吐いたシルウェステルは、倒れ込んでいる対戦相手に手を差し伸べた。
「やー、強くなりましたね、シルウェステル殿下」
「そうかな?もっと強くなったらレヴァナに褒めて貰えるかな?」
「殿下って、いつもレヴァナさんしか見えてないっすよね……」
少年兵士と気安いやりとりをするシルウェステルの元に騎士に連れられたルクスはやってきた。
「あ!ルクス君じゃないか!」
「こんにちは、シルウェステル殿下」
「やだなー、ルクス君。僕のことはシルウェステルで良いって言っただろう?」
「あはは、分かったよ、シルウェステル君」
シルウェステルとルクスは握手した。
「誰っすか?殿下」
ひょこ、とシルウェステルの後ろから顔を覗かせたのは、先程の少年兵士だった。
「ああ、彼はルクス。フォルティス伯爵にして、名誉元帥だよ」
「もしかして、魔族を打ち倒したっていう、あの?」
「うん」
「それは凄い方っすね!俺は騎士見習いのバルトルト・フォン・アルムホルト=バウムガルテンと申します。南の方の辺境にある小さな領地を持つ子爵家の次男っす」
よろしくっすー!と陽気な笑顔を浮かべた茶髪に茶目のバルトルトはルクスの手を握ってぶんぶん振った。
「う、うん、よろしく」
ルクスは元気だな、と感心しつつ、微笑んだ。
バルトルトはルクスの微笑みを見て、目を瞬かせた。
「シルウェステル殿下も相当美人っすけど、フォルティス卿も相当美人っすね。神秘的な雰囲気もありますし、将来はモテモテっすね」
「モテモテじゃなくても良いかな。モテたいのは一人だけだし。あと、歳も近いし、敬語なしで大丈夫だよ。それとルクスって呼んで。フォルティスは聞きなれてないから」
「あはは、面白いっすね、ルクスは」
「バルトルト程じゃないかな」
あはは、と二人は笑い合った。シルウェステルは仲の良くなった二人を見て少し複雑そうな表情を浮かべている。
「あ、そうそう、シルウェステル君。戦争に行ったって聞いたけど、大丈夫だった?」
「え?うん、大丈夫だよ。後方支援だし、特に危ない目には遭ってないね」
「……その、誰も血を流さない、平和な世界を目指したいとか志が芽生えたりとか」
「ん?ルクス君は変なこと言うねー。僕はレヴァナ命だよ?レヴァナが最優先で、他の人はついでだから。レヴァナが安全なら、ルクス君とかバルトルトたちを助けてあげてもいいかな」
「流石、殿下。ぶれないっすね」
バルトルトは感心したように言った。
(やっぱり、シナリオみたいな人助けが大好きで世界平和を目指す勇者じゃないな)
ルクスは困ったような表情を浮かべた。
「まあ、王子だし、国民のことは少しは助けられるようになろうとは思ってるよ?」
「疑問形だし」
あはは、と三人は笑い合った。
「さてと、俺は戻るよ」
「もう戻るのかい?一緒に訓練していけば良いのに」
「いや、俺もうレベルが百以上だから、レベル差があって訓練にならないと思うんだよね」
「レベル百以上!?」
バルトルトは驚いた。シルウェステルも驚いている。
「もうレベル百を超えたんだ。凄いね!僕はまだレベル七十七なんだ」
「殿下も凄いっすけど、ルクスは規格外っす」
「でも、シルウェステルと試合できてるバルトルトも凄いよね」
ルクスはバルトルトを褒めた。
「俺は……一応、レベルが五十五なんで、まだ付いていけてます」
「普通の人よりは全然レベル高いじゃん、バルトルト」
「そうっすか?南の方は魔物が結構強いんで、不可抗力っすよ」
「不可抗力。そんなに南は強い魔物がいるんだ……」
「や、ルクス君みたいにレベル百を超えてる魔物はいないっすからね。期待しないでくださいっす」
「分かった。まあ、いつか行ってみたいね」
「砂漠とか荒野ばっかりっすよ?」
「へえ、そうなんだ。砂漠にしかいない魔物か、デザートワームとかかな?」
「デザートワームもいますけど、デススコーピオンとか出るっすよ」
「へえ!楽しそう」
「わあー、絶対、この人、魔物を蹂躙してそうっす」
「人聞きの悪い……」
そのやり取りを聞いていたシルウェステルはぶはっと吹き出し、笑い出した。
「わ、殿下?大丈夫っすか?」
「シルウェステル君?」
「いや、可笑しくて……二人とも、本当に初対面かい?」
「「勿論」」
「や、仲良すぎでしょ」
「少し波長が合うんっすかね?」
「どうだろう?」
バルトルトとルクスは首を傾げた。
「今度こそ、俺は帰るよ?」
「うん、大丈夫、また遊びに来てよ」
「歓迎するっすー」
「うん、分かった。じゃあねー」
シルウェステルとバルトルトに見送られ、ルクスは訓練場を出た。
騎士に案内してもらい、王城を出たルクスは待たせていた馬車に乗って、屋敷に戻った。




