第82話 廃坑ダンジョン八十層
アルヒ王国軍が勝利を収めた。
その一報は行商人たちから齎された。
王都は明るい雰囲気に包まれ、王国軍の凱旋式を今か今かと待っていた。
そうして迎えた知月(十二月に相当)二十五日。王国軍が王都に戻ってきた。
凱旋式は盛大に行われた。
王国軍の大将はアルヒ王国第一王子のシギスムンドゥスだ。普段の優しい雰囲気が嘘のように堂々と威厳ある雰囲気を纏っている。
その後ろに続くのは、第三王子のシルウェステルと王国軍の騎士たちだ。
第一王子や第三王子は出迎えた民衆たちに手を振って応える。
歓声を上げる民衆たち。皆、王国軍の騎士たちを賞賛し、称えるような言葉を叫んでいる。
熱狂的な民衆たちがいる表通りに目を向けたルクスは、しばらくは表通りは通れそうにないな、と思いつつ、大鹿の子であるシュバルツを繰り、他の大鹿の子たちを繰る仲間たちと共に王都から出て、廃坑ダンジョンに向かった。
平原や森を越え、廃坑ダンジョン前にやってきた。廃坑ダンジョン前で大鹿の子たちをアイテムボックスに入れたルクスは仲間と共にダンジョンの深層に向かった。
出てくる魔物を打ち倒し、どんどん奥へ進んでいく。
五十一層の安全地帯に泊まった黄金の導は、明くる日から五十一から五十九層までのデスイーグルたちの即死魔法を掻い潜って魔法などで倒しつつ、六十層の階層ボスであるデザートワームキングをぶちのめして、七十層の毒や石化魔法が得意なバジリスクを乗り越えた彼らは、七十九層の安全地帯に泊まることになった。
「次の層で出てくる階層ボスは『デュラハン』だよ」
「「デュラハン?」」
「うーんと分かりやすく言うなら首なし騎士だね」
「首なし……え、首がない?」
ルクスに問うたのは、アランだ。
「うん、と、手に首を持ってるな」
「ええ?こわ……」
アランはぞぞぞと鳥肌の立った腕を摩った。
「八十レベルだから気を付けて行こうね」
ルクスは既に九十一レベルで、ルクス以外の黄金の導の面々は八十五レベルだ。
「はい、気をつけます、ルクス君」
ラエティティアはそう言って微笑みを浮かべた。
「いつも通り、やれることを精一杯やるよ」
バートが握りこぶしを胸に当てた。
「怖くても、俺、頑張るからな」
「アランが怖さで殺られないように、私が頑張るよ」
「クラーラ……俺、負けないよ、頑張って倒すからな」
「うん、無理せずね?」
クラーラはアランの頭をよしよしした。アランは男のプライドにより複雑そうな表情を浮かべている。
「とりあえず、夕飯食べて、身体を浄化して、休もうか」
「「はーい」」
ルクスはアイテムボックスから机や人数分の椅子を取り出して、同じくアイテムボックスから取り出した料理を並べて、全員で食卓を囲んだ。
「神々の御恵みに感謝を」
「「感謝を」」
食前の祈りを捧げ、ルクスたちは料理に舌鼓を打つ。あっという間に平らげてしまったルクスたち。お皿はルクスが光属性魔法の浄化で綺麗にして、アイテムボックスにしまった。
「いつもありがとうございます、ルクスくん」
「ん、どういたしまして。光属性持ってるの俺くらいだし」
二人の元に小妖精のアスターとシアーシャがやってきた。
「僕たちが小妖精魔法でやってあげても良いのに~」
「良いのに~」
ルクスは二人にジト目を向けた。
「二人ともまだ制御が甘いだろう?この前なんて、小妖精魔法で洗い物をして、お皿とか全部割ったの忘れた?」
「あー、でも、レベル上がる前はピカイチの制御だったんだよ?」
「レベルが上がる前の話だろう?制御できるまで小妖精魔法で洗い物禁止」
「「はーい」」
アスターとシアーシャは自身のアイテムポーチから寝袋を取り出した。
「あ、ルクス。浄化して欲しいなぁ」
「私は自分でやるー」
光属性魔法の浄化は白い光が特徴だが、神聖術の浄化は金色っぽい光が特徴的だ。シアーシャは神官なので、神聖術の浄化で自分や女子たちを浄化していった。
ルクスは男子たちを浄化した。
皆、寝袋を取り出して寝る準備をする。
「じゃあ、灯りを消すよ」
「「はーい」」
ルクスはランタンの光を消した。
「「おやすみ」」
皆、隣にいる仲間に挨拶をし、眠りに就いた。
翌朝、浄化したり、寝ぐせを整えたり、朝食を食べたり、歯だけ浄化したりと、色々準備した彼ら。
ちなみにトイレ事情だが、実は浄化をすると何故か小便も大便も出ない。浄化にて消去されているらしい。
この事実を最初に彼らが知ったときは反応が分かれた。
男子たちは面倒がなくなるなぁ、程度だったが、女子たちは狂喜乱舞した。普段から浄化したい!と言うほどだった。ルクスもシアーシャも浄化マシーンになりたくないので、ダンジョン内限定ということになっている。
八十層に入ったルクスたちはバジリスクたちを蹴散らし、階層ボス部屋の前にやってきた。
ルクスはアイテムボックスから、とある道具を取り出した。
【不死鳥の灯火】
不死鳥を模した明かりの魔導具。
不死鳥の胸元の空魔石に魔力を込めると火が着いて明かりになる。
破邪の結界を張る効果もある。
ありったけの魔力を魔石に込めたルクスは火の着いた不死鳥の灯火をバートに任せた。
「これ破邪の結界を張る効果があるから、デュラハンが近づけないと思う」
「ありがとう!ルクス。これなら魔法に集中できると思う」
「バートはラエティティアと一緒に後ろの方にいてね」
「うん!」
「じゃあ、行くよ、皆!」
ルクスは皆に声を掛けた。
「おう!」
「「おーけー」」
「「はい!」」
上からアラン、バート、アスター、ラエティティア、クラーラ、シアーシャがそれぞれ声を上げた。
ルクスは頷いて、両開きの扉を開けた。
ゴゴゴ、という重い音を響かせつつ、荘厳なデザインの扉が開いた。
黄金の導のメンバーが全員入ったところで、ボス部屋の壁に付けられた灯りが全て着いていく。灯りは青い火だったので、部屋は全体的に青い光に照らされている。
中央に佇んでいるのは、首のない馬に跨った、騎士だ。よく見ると騎士には首がついていない。
左手に自分の首を抱えており、右手には両刃の長剣を持っている。
「行こう!」
「ああ!」
ルクスが駆けだすと同時にたくさんの雷の槍がルクスの周囲に生成される。槍を先頭にして、ルクスはまっすぐデュラハンの元に駆けた。
ルクスの後ろを走っているのは、アランとクラーラだ。バートとラエティティアとデュラハンの間にアランが立って、盾を構える。
「【幻影の盾】!!」
盾の前に巨大な幻影の盾が天井付近まで広がる。どんな攻撃もこれで一度は防ぐことができる。ちなみにこの盾、アランの闘気と呼ばれる力を消費してできている。
この盾を維持できるのは三十分くらいで、クールタイムは一時間だ。
多様できないのが難点だが、強力な防御手段だ。
クラーラは幻影の盾の後ろ辺りからデュラハンの弱点を看破すべく、スキル【看破】を使う。
「ルクス!デュラハンの弱点は首だよ!!」
「ありがとう!!」
ゲームと同じように首が弱点だということにほっとしつつ、ルクスは雷の槍をデュラハンにぶつけようとした。だが、避けられた。
かと、デュラハンが思った矢先、雷の槍は方向転換をし、デュラハンに迫った。デュラハンは逃げるが、全ての雷の槍がデュラハンを追尾し、逃がさない。
壁際に迫ったデュラハンは壁にぶつかるぎりぎりで方向転換して、壁に雷の槍をぶつけさせようとしたが、雷の槍はそれにも対応し、デュラハンにぶつかった。
ビリビリビリ、とデュラハンの全身に雷が何度も走る。
雷は首にもダメージを与え、デュラハンは呆気なく光の粒となって消えた。
「ええ、これからもっと面白くなるのに……」
「ルクスっていつも思うけど、戦闘狂だよね?」
「え、違うよ」
ルクスは胸ポケットにいるアスターと話しつつ、ドロップアイテムをアイテムボックスに収納して、仲間の元に戻った。
「皆、結構潜ってるし、そろそろ帰る?」
ルクスは仲間たちに問う。
「「帰りたい」」
アランバート、クラーラは素直にそう言った。
「私は眠い……」
「シアーシャ、まだダンジョン内だから、寝ちゃダメだよ」
シアーシャは眠たげに目を擦る。アスターがラエティティアのフードの中にいるシアーシャのところまで飛んでいき、揺り動かした。
「ラエティティアは?」
「私も帰った方が良いと思いますわ」
「うん、じゃあ、皆オッケーということで、帰還の魔法陣に乗ります」
ルクスたちはボス部屋の奥にある地上に帰るための魔法陣──帰還の魔法陣に乗って、地上に戻った。




