第79話 再会
一週間後の知月(十二月に相当)六日の十時前、ルクスとベネディクトゥス、ラエティティアは商人ギルドにやってきた。
入口付近で待機していた受付職員のライナーはルクスを見つけると、すぐさまやってきた。
「ルクス様、お待ちしておりました」
「こんにちは、アーメントさん」
「おお、名を覚えていただけたようで、光栄です。では、ルクス様、皆様、こちらへ」
ルクスたちはライナーに連れられ、会議室にやってきた。
「失礼します」
ライナーはノックして扉を開けた。
扉の向こうには、使用人候補たちが並び立って待っていた。
「お前たち……」
ベネディクトゥスが彼らを見て目を潤ませた。
使用人候補たちはベネディクトゥスを見て目を瞠った。
「「旦那様……!」」
そして、ラエティティアにも気付いた。
「「お嬢様……!」」
使用人候補たちの中には涙ぐむ者が多くいた。
「えっと、事情を聞かせてくれるかな?」
ルクスはベネディクトゥスに向かってそう言った。
「まずは、皆さん、座った方がいいのでは?」
「あ、そうだね」
ライナーのツッコミに頷いたルクスは、席に座った。
他の者たちもルクスに倣って座っていく。
「じゃあ、説明お願いね」
「……はい」
ベネディクトゥスは語り始めた。
「私は元々大陸の西にある魔境に接する領地、人が生活できる領域としては西の端にあるところですね、その領地を治めていた伯爵家の当主でした。スタンピードで多くの領民を失い、多くの冒険者を雇ってなんとかしましたが、家財を売り払って借金をして冒険者にお金を支払いました。借金が返せなかった我々は使用人たちに紹介状を書いて、貴族の身分と領土を返上するため、王都にやってきて、手続きをし、借金奴隷となりました。彼らは、私の屋敷で働いていた使用人たちです」
「そっか……ちなみに、ベネディクトゥスは本当はどんな名前なの?」
ルクスはベネディクトゥスの本名を鑑定で知っているが、何故、名乗らないのか気になっていたので、そう問うた。
「ベネディクトゥス・フォン・ヴィンター=アルノルト……フォンは貴族専用の前置詞なので、今はベネディクトゥス・ヴィンター=アルノルトですね。ですが、我らは領地を手放すことになってしまいましたので、名乗る資格はないと」
「そんなことないよ。それに、名乗らないということは、名を捨てたも同然だ。名には思い出が詰まっているし、領地との絆を示すものでもあるんじゃないか?」
「ルクス様……」
「故郷のこと、大事なんだろう?だったら、堂々と名乗った方が、俺は良いと思う」
「ありがとうございます、ルクス様」
ベネディクトゥスは微笑んだ。一粒の涙が零れ落ちた。
「どういたしまして……じゃあ、使用人候補の皆さんの面接に移りましょうか」
ルクスは使用人候補たちに視線を向けた。
面接は終始穏やかに進み、ルクスは全員の採用を決めた。
「では、皆さん、三日後からよろしくお願いします。今日は積もる話もありますでしょうから、皆さんで話をしていってください。アーメントさん、会議室、もう少しお借りしても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。じゃあ、ベネディクトゥスとラエティティア、よろしくね」
「はい、ルクス様」
「あの、ルクス君……」
「なに?ラエティティア」
「本当にありがとうございます、ルクス君。ルクス君のお陰で、また皆さんに会えました」
「あー、偶然だよ」
「それでも、ありがとうございます」
「……うん、どういたしまして」
そう言ってルクスはライナーと共に部屋を出た。
「世の中、不思議なものですね、まさかお知り合いがルクス様のお仲間にいたとは……」
「びっくりしましたね」
「……私にはそこまで驚いていないように見えましたが」
「俺、ポーカーフェイスはそこそこ得意なんですよ」
ルクスは苦笑した。
「それは羨ましい限りです」
「ははは……」
乾いた笑いを溢すルクス。
(アーメントさんの説明から、もしかしたら、って思ってたからなんだよね……)
没落した貴族に仕えていた使用人。そこで、ルクスはベネディクトゥスを思い出したのだ。
(まさか、予想が当たるとは思わなかったけど……)
再会を喜んでいた彼らを思い出し、ルクスは微笑んだ。
(ま、皆が再会できて本当に良かった)
ルクスはライナーに見送られ、商人ギルドを後にした。




