第78話 願書と受験票
屋敷に戻ったルクスは書庫に向かった。
広い書庫には、ラエティティアとバート、ベネディクトゥス、風任せの魔法使いハイノ、人それぞれの魔法使いエマと神官リーナがおり、皆、読書に夢中だった。
ルクスは静かにベネディクトゥスの元にやってきた。
「ルクス様、どうされましたか?」
「お願いがあってね、実は人を雇おうとしているんだ。一週間後の知月六日の十時頃に顔合わせの予定だから、ベネディクトゥスにも同席して貰いたくてさ」
「是非、お供させてください」
「う、うん、ありがとう」
「お父様だけずるいですわ。私も一緒に行っていいですか?ルクス君」
いつの間にか近くに来ていたラエティティアがルクスに問う。
「おお、いつの間に?……うん、良いよ。一緒に行こう」
「ありがとうございます、ルクス君」
「というわけで、当日はよろしくね、ベネディクトゥス」
「かしこまりました。ルクス様」
「ラエティティア、別件で用事があるから、バートと一緒に談話室で待っていてくれるかな?」
「?はい、かしこまりました。ルクス君」
ラエティティアは読書中のバートに話しかけ、共に談話室に向かった。
ルクスは調理場に向かった。
そこでは、ヴォルフとアデリナが忙しく動いて調理していた。アランとクラーラと風任せの斥候カネツグと神官アルバンも手伝っている。
ちなみに、風任せの剣士フランツとゲルトは男物の服を洗濯している。
女物の服は人それぞれの弓使いレーアと斥候で猫獣人アメリーが洗濯している。ここで分かると思うが、人それぞれは冒険者の中で珍しく女性だけのパーティーだ。元は銅級だが、銀級に近い銅級という位置づけで、若い女性ばかりだが腕っぷしは強かった。今はルクスの手助けもあり、更に強くなっている。強くなりすぎて嫁の貰い手がなくなりそうだ、とパーティーメンバーたちは内心心配していたりする。
「ヴォルフさん、アデリナさん、忙しいところ、すみません」
奴隷でなくなった二人をルクスはさん付けで呼び、敬語を使っていた。年下だから、という理由で。
ベネディクトゥスだけは、さん付けも敬語も拒否されてしまって、今まで通りだが。
「大丈夫ですよ、ルクス君」
アデリナが笑顔で応える。
「何かあったか?ルクス君」
「うん、ヴォルフさん、アデリナさん、アランとクラーラをちょっと借りても良いですか?」
「大丈夫だ」
「勿論、良いわよ」
「ありがとうございます。アラン、クラーラ、行こうか」
「おう」
「うん」
ルクスはアランとクラーラを連れて談話室に向かった。
集まった全員でソファーに座った。
「皆、この前、願書を渡したけど、提出した?」
「「まだ(です)」」
「じゃあ、一緒に提出しに行こう。願書に記載はできてる?」
「「できてる(ます)」」
「まだだな」
「アラン……」
バートが呆れたような顔でアランを見た。ルクスも同様だ。ラエティティアとクラーラは苦笑している。
「……とりあえず、今書こうか」
アランはルクスのアドバイスを受けつつ、願書の必要事項を全て埋めた。
「よし、じゃあ、皆で願書を提出しに行こうか」
「「おー(はーい)」」
ルクスたちは外套を羽織って貴族街にある学園に向かった。
王都の学園──王立アルヒ学園は平民も通うことができるが、基本的に貴族たちが通う学園なので、貴族街にある。
最近は平民枠を増やし、優秀な平民の子供を積極的に入学させようと頑張っているらしい、という情報はベネディクトゥスがルクスに伝えていた。恐らくグラジュスの影に聞いたのだろう、とルクスは思っている。
徒歩で十分ほどで貴族街の門の前に着いたルクスたちは門番に話しかけた。
「「こんにちは」」
「こんにちは、どうしたんだ、坊やたち」
「来年、貴族街の学園に通うために願書を出したいのですが、身分証を提示すれば大丈夫ですか?」
「そうだね、身分証を見せてくれるかな?」
「「お願いします」」
ルクスは幻金級、他のメンバーは金剛級の冒険者ギルドカードを提示した。
「!!?幻金級と金剛級……失礼しました!どうぞ、お入りください」
「あはは、ありがとうございます」
「「?」」
ルクスは予想通りの反応に苦笑していた。バートとアラン、クラーラは疑問符を飛ばしている。
ラエティティアはルクスと同様苦笑していた。
とりあえず、彼らは普通に貴族街に入った。
「なあ、ルクス。なんで門番さんはあんなに恐縮?してたんだ?」
「高ランク冒険者は貴族と同等かそれ以上の扱いをされるんだよ。俺たちは高ランク冒険者だろ?」
「あ、そっか、なるほどなぁ」
「なんで?冒険者なのに?」
アランは納得したが、バートはまだ納得できていないようだ。
「高ランク冒険者は一騎当千の強さがあるよね?機嫌を損ねて他国に亡命でもされたら、魔物暴走のとき、被害が増えるだろうね。少しでも多くの高ランク冒険者を自国で確保しておきたい。だから、高ランク冒険者は尊ばれるし、貴族にも一目置かれるんだよ」
「なるほど……」
「私も納得~」
バートは納得した。横で話を聞いていたクラーラも納得できたようだ。
「ていうか、フリッツさんが前に説明してくれていただろう?」
「あはは、ちゃんと聞けてなかったみたい」
バートが苦笑しつつ、応えた。
「気をつけてね」
と言いつつ、ルクスは思案した。
(いざというときは戦争で頼りになる存在になるかもしれない高ランク冒険者は多いに越したことはない、という事実は言わないでおこう。戦争では人を殺さないといけないし……そんなことを伝えたら、みんな悩むかもしれない。ま、冒険者として活動するなら、どの国でも同じことが言えるから、早く話した方が良いかもしれないけど……俺の方が悩んでどうするんだ)
つらつらとルクスは考えている。そんなルクスの目の前にラエティティアはやってきた。
「ルクス君」
「うわあ」
ルクスはラエティティアの綺麗な顔が眼前に現れたので、仰け反った。
「先程から、皆で呼び掛けていましたが、反応がなかったので……」
「そっか、ごめんね、ラエティティア、皆も」
「問題ないよ」
「大丈夫ー」
「さっさと願書、出しに行こうぜ!」
バート、クラーラが応え、アランは先に行こうと皆を促した。
「うん、行こうか」
ルクスたちは貴族街の中央通り沿いにある王立アルヒ学園にやってきた。
警備員に事情を話したルクスたちは、警備員に案内されて学園内の事務室にやってきた。
事務室の受付にいる女性が願書を受け付けてくれるということだったので、ルクスたちは推薦状をつけて願書を渡した。
国王の推薦状は人数分用意されていたから、全員の願書に推薦状がついた。
「はい、確かに預かりました。皆さん、平民枠でよろしいでしょうか?」
「ルクスは伯爵だから、貴族枠だよね?」
バートはルクスに問う。
「あー、確かに……えっと、お姉さん、指輪型の印章で証明になりますか?」
ルクスはそっとアイテムボックスから指輪型の印章を取り出して、掌に載せ、受付の女性に見せた。
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
受付の女性は暫し、指輪型の印章の紋章を見ていたが、何かに気付いたように顔を上げた。
「ひょっとして、半年くらい前に名誉元帥になった方ですか?」
「あ、はい」
「だから、記憶にない紋章だったんですね……確か通知書が届いていた筈……」
受付の女性は机の上に乗っている資料の山の中から一枚の羊皮紙を取り出した。
「えーっと、伯爵位および名誉元帥に任命されたのはルクス・フォン・シュトラウス様ですね。……願書にも同じ名前が記載されていますし、通知書の印章と指輪型の印章の紋章が一致しました。シュトラウス様は貴族枠の入試を受けていただきます。他の皆様は平民枠でしょうか?」
「「はい」」
「かしこまりました。では、受験票を発行しますね」
受付の女性はルクスに指輪型の印章を返却し、願書と紹介状を持って隣の部屋に入っていった。
しばらくして、受付の女性は五枚の羊皮紙を持って戻ってきた。
「はい、これがシュトラウス様と皆様の受験票です。金色の星の判子が押されている受験票は貴族枠で、赤い星の判子が押されている受験票は平民枠という意味です。確認していただいてもよろしいですか?」
全員、自分の受験票を確認した。大丈夫そうだ、と皆、頷き合って返事をした。
「「大丈夫です」」
「ありがとうございます。では、手続きは以上となります。入試は入試は厳月(一月に相当)十日。合否発表は無限月(二月に相当)十日となっております。……何か質問などありますか?」
「……特にないですね」
ルクスが代表して応えた。
「かしこまりました。皆様、入試頑張ってくださいね」
受付の女性はそう言って微笑んだ。
「「はーい」」
「頑張ります」
「ありがと、お姉さん」
「ありがとうございました」
上からルクスとアラン、バート、クラーラ、ラエティティアの順だ。
彼らは受験票をアイテムポーチにしまい、学園を出て、屋敷に向かった。
入試まで、あと約一ヶ月。




