第70話 屋敷の設計図
国月十日。
商人ギルドから使いがやってきた。商人街の二つの屋敷を取り壊し、道を潰して土地を繋げたらしい。
ルクスはベネディクトゥスと共に使いに案内されて、その土地にやってきた。肩にはマスコットキャラクターである使い魔のソルを乗せて。
《《あること》》をすべく。
「【浄化】【浄化】【浄化】……」
そう、光属性魔法の浄化だ。
元々は元神殿長が使っていた土地だ、悪い運気があるかもしれないと、徹底的に浄化したのだ。
「ふぅ。いい仕事した」
ルクスはそう言って、呆然としている使いと通常通りのベネディクトゥスと共に商人ギルドにやってきた。
使いの職員がルクスとベネディクトゥスに「少々お待ちください」と伝え、奥の部屋に入ると、すぐにアルノーがやってきた。
「お待ちしておりました、ルクス様」
「こんにちは、バルテルさん」
「どうぞ、こちらへ。お付きの方もどうぞ」
ルクスとベネディクトゥスはアルノーに付いて行き、応接室に案内された。
「書類をお持ちしますので少々お待ちください」
「はい」
アルノーは部屋から出た。
「書類か……新築の設計図かな?」
「恐らく、そうでしょうね」
ルクスとベネディクトゥスが話している間に、アルノーが羊皮紙の束を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちら、新築の構想を建築士に練っていただいて作り上げていただいた設計図です。三人の建築士にお願いしまして、三案あります」
「ありがとうございます。拝見します」
一つ目はハーフティンバー様式の屋敷。
二つ目は赤レンガと白い石のルネッサンス風の屋敷。
三つ目はルネサンス様式の屋敷だ。
アルヒ王国の建築様式は勇者の影響で、地球のヨーロッパと同じ様式が採用されているようだ。
ハーフティンバー様式の屋敷は木の構造材を利用した温かみのある雰囲気の屋敷になるだろう。
赤レンガと白い石のルネサンス風の屋敷は、ルネサンス様式を取り入れつつ、できた最近流行りの建築様式らしい。街でも時々見かける。
ルネサンス様式の屋敷は、石材でできた床や円柱、シンメトリーが特徴的な建築様式となっている。
「このルネサンス様式って神殿と同じ様式では?」
「はい、ですが、貴族街にもルネサンス様式の宿屋や屋敷がありますから、問題ないですよ」
「そうですか……」
ルクスはルネサンス様式の四階建ての屋敷の設計図に目を通す。
この屋敷の設計図には地下があり、訓練場として記載されている。
訓練場と倉庫を地下にすることで、屋敷の面積は他の二つの設計図よりも、断然広くなっていた。
一階はエントランスと水属性の魔石をふんだんに設置した大浴場がある。
二階には大きな食堂と、調理場、食糧庫、作業部屋、鍛冶部屋、調薬部屋、使用人の四人部屋が二十部屋ある。
三階には、客室が三十部屋、広い談話室、寝室が三十部屋ある。
四階には、大きな寝室が二十部屋、広い談話室、厳重な金庫室がある。
各寝室や客室には魔導トイレとシャワーがつく予定。
外には広々とした厩舎と庭がある。
「このルネサンス様式の屋敷にします」
「ありがとうございます。建築期間はおよそ五ヶ月は掛かります」
「五ヶ月ですね、分かりました。お代は以前お渡しした大金貨五十枚で足りますか?」
「勿論です。完成次第、費用を計算して、余ったお金は返金致しますので」
「あ、はい、分かりました。よろしくお願いします」
「はい、お任せください」
ルクスとアルノーはしっかりと握手をした。
商人ギルドの玄関ホールまでやってきた三人に声を掛ける人物がいた。
「ルクス様!」
ルクスを見つけてやってきたのは、特許部の部長であるディーター・バルテルだった。
「兄さん、ルクス様に何か用事でも?」
ルクスを庇うように前に出たのは、ディーターの弟であるアルノーだった。
「あ、ああ、ルクス様から特許の申請をいただいていたんだが、昨日、特許が降りたんだ」
「特許を申請されているんですね、ルクス様、すごいです」
アルノーはきらきらした目でルクスを見る。
「あはは……ありがとう。バルテルさん、それで、どうしますか?」
「私のことはディーターとお呼び下さい、ルクス様。では、会議室を取ってありますので、こちらへどうぞ」
ディーターに案内され、ルクスとベネディクトゥスは会議室にやってきた。
「少々お待ちください」
そう言って部屋を出て行ったディーターは、しばらくすると、書類を持って戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちら特許権の証明書である、特許証の原本です。商人ギルドでは写しを保管させていただきます。原本は失くさないようにしてください」
「はい」
ルクスは特許証をアイテムポーチに入れるふりをしつつ、アイテムボックスに入れた。
「それと、使用許諾契約、ライセンス契約とも言いますが、こちらの契約に相応しい商会を選出しましたので、契約を結ぶか考えていただけますか?」
「分かりました」
ディーターは、二つの商会の詳細が記載された案内書をルクスに渡した。
「あと、黒鉛の採掘権は問題なく取れるようです。もし、この二つの商会と使用許諾契約を結んでいただけるのであれば、採掘権は二つの商会にて共同で持っていただくこととなります。いかがでしょうか?」
アルヒ王国では、鉱山の採掘権は結構なお金を積めば持つことが可能だ。
「そうですね、二つの商会で鉛筆を作るのであれば、採掘権は二つの商会で持った方がいいですね」
「そうですね、そこは追々詰めていきます」
「よろしくお願いします。まずは、商会の案内書を持ち帰り、確認して、決めますね」
「お願いします。引き続きよろしくお願いします」
ディーターはルクスに片手を差し出した。
「こちらこそ」
ルクスはしっかりとその手を握った。




