第66話 死を呼ぶ鷲
三日間に渡って行われた冒険者のための相談会では、十五組の冒険者パーティーがルクスたちに相談に来た。
その内、三組はルクスのクラン【自由の翼】に入ることとなった。
三組というのは、金級パーティー【自由気まま】、銀級パーティー【風任せ】、銅級パーティー【人それぞれ】だ。
それ以外のパーティーはヘレナのセット装備貸し出しに留まった。
冒険者ギルドの筋骨隆々とした厳つい冒険者や、ガラの悪そうな冒険者たちがモーニングを纏っている光景は宛ら地獄絵図のように見える。
「ルクス君、クランの紋章が出来上がったよ」
「本当ですか?」
冒険者ギルドに寄ったルクスはフリッツからクランの紋章が掛かれた羊皮紙を貰った。
そこには、金色の翼とその周りに楽譜の譜面のような金色の三本線が円を描いていて、所々に音符が小さく描かれている。
翼の中央には黄金の剣と杖が交差するように描かれ、妖精の羽が描かれた大盾がその中央に鎮座している。
「綺麗な紋章ですね……」
「うん、紋章作りのプロにお願いしたからね。商標登録も済んでるから、ルクス君のクランのメンバーは自由に使えるよ」
「絵描きさんにお礼を伝えていただけますか?満足のいく仕事をありがとうございます、って」
「分かった。伝えておくよ」
ルクスはクランの紋章をアイテムポーチに入れるふりをして、アイテムボックスに入れた。
大事なものはアイテムボックスに入れるようにしているからだ。
「あと十分くらいでギルドマスターとの稽古の時間だね」
「はい。今日が初日なので、緊張します」
「そこまで緊張しなくても大丈夫だよ。ギルドマスターは金剛級でルクス君と同じランクだし、殺気は出すだろうけど、殺すつもりはないから」
「全然、大丈夫に聞こえないのですが、フリッツさん?」
「大丈夫、だいじょーぶ」
時間ぴったりにギルドマスターは一階にやってきた。
「おう、ルー坊、行くぞ」
「あ、はい」
「頑張ってね、ルクス君」
「ありがとうございます、フリッツさん」
ギルドマスターに連れて行かれたルクスは地下の訓練場にやってきた。
「よし、試合《殺し合い》を始めようじゃねぇか!」
ギルドマスターが拳を地面にぶつけると、たくさんの岩が地面から突き出て、ルクスに向かって弾丸のような速さで飛んでいった。土属性魔法の【大岩弾丸】だ。
ルクスは風属性魔法の飛翔で縫うように避けたが、岩が頬と左手を掠め、血が滴る。
「ちっ」
舌打ちしつつ、ルクスはミスリル剣をぶん投げてギルドマスターの足元に突き刺した。
「狙いが荒いな」
ルクスはにこっと笑った。
「どうかな?」
いつの間にか、ルクスの頭上、天井付近に巨大な暗雲の塊が発生していた。天井が高いのが災いして、ギルドマスターは気付かなかったのだ。
ゴロゴロゴロゴロ、と不吉な音がした。
「轟け雷鳴よ【千本霹靂】」
暗雲から千本の雷が渦を巻いて一本の巨大な雷となってギルドマスターの足元にあるミスリル剣に向かって降り注いだ。
近くにいたギルドマスターも巻き添えを食い、服も身体も焼け焦げた。ミスリル剣もボロボロだ。
それでも立っているのは、高レベルだからだろう。
「参った……」
と言い残して、ギルドマスターは倒れた。
「うわ、やば」
ルクスは急いでアイテムポーチから上級ポーションを取り出し、ギルドマスターにかけた。
みるみるうちにギルドマスターの怪我は治り、服以外は元の状態に戻った。
「うーん、フリッツさんに丸投げしよう」
ルクスはそう言って、一階に戻り、フリッツに事の次第を伝えた。
フリッツは他のギルド職員と共にギルドマスターを回収した。
「ルクス君って、すごく強いんだね。今度は手加減してあげてね……」
とフリッツは苦笑しつつ言った。
「あ、訓練は終わりで良いですよね?」
「勿論。ギルドマスターが使い物にならないし、大丈夫だよ」
「では、失礼します」
ルクスは冒険者ギルドを後にした。
次の日、新しいミスリル剣を購入したルクスと仲間たちは一日ほど掛けて五十層にやってきた。
五十層の階層ボスはデスイーグル。別名、死を呼ぶ鷲。
バートがとても怖がっていた即死技の使い手だ。
「死防ぎのタリスマンも死防ぎのミサンガもあるし、大丈夫だよね?ルクス」
「大丈夫、大丈夫、心配無用だって」
ルクスはバートを宥めつつ、五十層の草原の雑魚である食虫花を倒していく。ちなみに、この食虫花も厄介な攻撃をしてくる。状態異常の麻痺にさせる粉を撒くのだ。遠距離から火属性魔法で攻撃すれば問題ないが。
唐突に雰囲気が変わったのを感じたルクスは上を見上げた。
「来るよ」
巨大な鷲が急降下してきて口元から黒い波動を出してきた。
黒い波動は触れれば即死する代物だ。
「避けろ!!」
ルクスは左腕でラエティティアを抱き、右手でバートの首根っこを掴んで飛翔した。
「ぐえ」
バートは蛙が潰れたような声を出した。首元が苦しいのだろう。
ルクスはすぐに安全な場所に二人を下して、アランとクラーラ、シルウェステルとレヴァナと戦っているデスイーグルを見据えた。
「ラエティティア、歌を」
「はい」
「バート、ラエティティアを守ってね」
「うん、分かった」
バートは自分たちの周囲を土属性魔法【岩壁】で囲んだ。
それを見て暫くは大丈夫そうだ、とルクスは判断し、飛翔で飛んだ。
「「ルクス!」」
ルクスに気付いたアランとクラーラ、シルウェステルとレヴァナは片手剣と短剣、両手剣と大鎌をデスイーグルに突き刺さんとするが、デスイーグルは避けた。
避けた先に、ルクスがいることも気づかずに。
「任せて!」
ルクスは背後からミスリルの片手剣でデスイーグルを剣技【上段斬り】で斬った。
深手を負ったデスイーグルは、地面に落ちて倒れ伏し、光の粒となって消えた。
「やったな!ルクス」
「ああ!」
アランはルクスの肩に腕を回して、喜んだ。
「私もがんばった」
クラーラがアランの腕に抱きついた。
「う、クラーラ……」
やっとクラーラのスキンシップに慣れてきたアランはどもることはなくなったが、頬を真っ赤に染めた。
ラエティティアとバートもやってきた。
「ルクス様、私も頑張りましたの」
さり気なくラエティティアはルクスの腕に自身の腕を絡めた。
「うん、頑張ったね」
ルクスはラエティティアの頭を撫でた。
離れたところではシルウェステルとレヴァナもイチャイチャしている。
「……(いつか、美少女と恋仲になってやるんだ!)」
バートは血の涙を流さんばかりに、悔しげだった。
即死のことはもう、頭から消えているようだ。
そんなバートをバートのフードの中にいるアスターとシアーシャ、そしてルクスの使い魔のソルが憐れんでいた。




