第65話 相談会
シルウェステルとレヴァナが黄金の導に期間限定で入ってから約一ヶ月。
黄金の導は四十層まで潜れるようになっていた。
ルクスはレベル七十。ラエティティアとクラーラ、アラン、バート、アスターはレベル四十五。シルウェステルとレヴァナ、シアーシャはレベル四十まで上がった。
レベル証明書を発行してもらい、ルクスは金剛級、他の面々は金級になった。
金剛のカードは鈍い虹色の光沢がある黒い金属で出来ている。
「かっこいいカードだね」
「いずれ、シルウェステル君もこのカードを手に入れると思うよ」
「そう、かな?」
現在は王子であるシルウェステルは国王が許可を出さないとレベリングも難しい。将来的には、外交を担うつもりであったシルウェステルにとって、金剛級のカードは遠い存在だった。
ルクスは将来、シルウェステルが勇者の称号を得て、勇者の紋章が現れ、レベル七十をも超えて強くなることを知っている。
だから、シルウェステルが金剛級のカードを手に入れると言った。
「今は無理かもだけど」
「そう、だね」
ルクスとシルウェステル、そして、黄金の導たちの周りには、いつの間にかやってきた冒険者たちが群がっていた。
「ちょっと、何の騒ぎですか?」
ギルド職員のフリッツがやってきた。
「こんにちは、フリッツさん、いやはや、みんな、どうしても黄金の導の強さの秘訣が知りたいようでして……」
冒険者たちを代表して口を開いたのは、金級の冒険者パーティー【自由気まま】のリーダーであるエトヴィンだった。
茶髪に明るい茶目を持つ彼は温和そうな相貌だが、鍛えられた身体には幾つもの古傷が刻まれている。
「はぁ、秘訣は秘密だから、秘訣なのでは?」
「そこを何とか知りたいのです。行き詰っている俺たちにとっては死活問題なんです」
切実な表情のエドヴィンを見て、ルクスは頷いた。
「いいですよ。相談会を開くのはどうでしょう?」
「相談会?」
「パーティーごとに時間を決めて相談に乗るんです。相談料として銀貨一枚は貰います。いかがですか?」
おおー、と冒険者たちは歓声を上げた。
「ルクス君、いいの?」
「はい、その代わり、冒険者ギルドの会議室を借りても良いですか?」
「うん、それは大丈夫。冒険者ギルドでサポートすべきなのに、何もできてないんだし、僕が申請しておくよ」
「そんなことないですよ、フリッツさんいつも忙しそうですし、俺たちのために色々してくれているの分かります」
「ルクス君……ありがとう。それで、相談会はいつからやるの?」
「今日からですね。少しでも早くレベリングに戻りたいので」
「分かりました。ちょっと待ってね」
フリッツがカウンター内に戻っていった。
ルクスは冒険者たちを見渡した。
「では、冒険者のみなさーん。今日の相談会は一組一時間を予定してます。今日の十九時まで行いますので、今から六時間相談に乗ります。六組選出してください」
「「おう」」
冒険者たちは話し合いならぬ睨み合いを始めた。
それをエドヴィンが上手く纏めて六組を選出した。金級が四組、銀級が二組だ。
「じゃあ、まずは【自由気まま】からでお願いします」
「行こうか」
エドヴィンはパーティーメンバーと共にルクス一行の元にやってきた。
「ルクス君、準備できたよ」
丁度良くフリッツが戻ってきた。
「ありがとうございます。では、行きましょう」
黄金の導と自由気ままは冒険者ギルドの二階にある会議室にやってきた。
「お掛けください」
黄金の導と自由気ままは席に着いた。
「まずは、自由気ままの皆さんのお名前を教えてください」
「分かりました。俺は、自由気ままのリーダーで野良騎士のエドヴィンです」
エドヴィンは右隣に座る剣士に目配せした。
「俺は自由気ままの剣士ギュンターだ」
その隣の魔法使いの少女は緊張しつつ、自己紹介する。
「私は自由気ままの魔法使いベルタです」
エドヴィンの左隣に座る斥候の少女は不愛想に一言。
「斥候のイルマ」
その隣の神官らしき優し気な女性が口を開いた。
「自由気ままの神官リーザと申します」
全員の自己紹介が終わると、ルクスは口を開いた。
「では、皆さんが感じているボトルネックつまりはレベルアップの障害となる要因はありますか?」
リーダーのエドヴィンが真っ先に手を上げた。
「どうぞ」
「お金ですね。生活費や、武器と防具の新調および手入れに掛かる費用、ポーションなどの消耗品に掛かる費用……お金が足りません」
斥候のイルマが声を上げた。
「時間。ダンジョンの三十層の行き帰りに掛かる時間が問題」
「そうね、三十層でボスを倒して得たドロップアイテム売るよりも、同じ時間をかけて討伐や採取依頼を十数件熟した方が儲かるもの」
神官のリーザが補足するように言葉を紡いだ。
「なるほど……」
「あと武具の性能だな。俺たちは鉄の武器や防具を使っている。三十層のボスを倒すのも苦労するくらいだ」
剣士のギュンターが苦い顔で伝えた。
「ふむ……まずは家計簿を付けてはいかがですか?収入と支出がはっきり可視化されると、どこが無駄なのか自ずと分かります」
「ふむ……」
エドヴィンは一考に値する、と感じた。しかし、もう少し大きな助言なり助力が欲しかった。
「か、家計簿だけでは抜本的な解決はできないと思います……何か他にありませんか?」
魔法使いのベルタが声を上げた。
(でかした、ベルタ)
とエドヴィンは内心喝采を送る。
「そうですね……皆さんは羞恥心を捨てる覚悟はありますか?」
「羞恥心……?」
「この礼装。冒険者ギルドでかなり浮きますけど、着る覚悟はありますか」
「それを着れば問題がなくなると?」
エドヴィンは疑問を口にした。
「いいえ。でも今よりは強くなりますよ」
「強く……」
エドヴィンは戸惑い、パーティーメンバー全員の表情を伺った。
皆、あの礼装を着て戦う自信がなさそうだった。
「これ以外にも我々が提示できる改善案があります」
「何でしょう」
エドヴィンは食い気味にルクスに聞いた。
「俺たちのクランに入るという改善案です」
「?」
「クランに入れば、俺たちのサポートが受けられます。金銭的にはまぁ、大金貨十枚くらい無利子で貸し出します。そして実戦でも手を貸します。いかがですか?」
「入ります!」
エドヴィンは一も二もなく即答した。
「エドヴィン、おい」
剣士のギュンターは止めようとする。
「こんな機会、二度と来ないかもしれないんだよ、ギュンター。止めないでくれ」
エドヴィンは懇願するようにギュンターの目を見た。
ギュンターは溜息を吐いた。
「分かった、俺も入るからな」
「ギュンター……ありがとう」
「他の皆は……入りたそうだね、よし、全員で入ろう」
斥候、魔法使い、神官の女性たちはクランのサポートを聞いてから、具体的には大金貨十枚のあたりで目の色を変えていた。
「クランに入ってもらうのは、相談会が終わってから。冒険者全員をクランに入れる訳にもいきませんから、しばらくは内緒ですよ」
「「了解」」
「では、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ルクスとエドヴィンはがっしりと握手した。




