第64話 ダンジョンでレベリング
風を切って走る仔馬に乗るシルウェステルは、シルクハットが全然飛ばされないことに驚いていた。
セット装備には、サイズ調節以外にも魔法が付与されていて、固定と温度調節、清潔の効果がある。
シルクハットが飛ばされないのは、固定の魔法が付与されているためだ。
シルクハットを手で押さえていないにも拘わらず、シルクハットが飛ばされていない光景は、傍から見ると奇妙な光景だろう。
結構な速度で走る小鹿と仔馬の背に乗る騎乗者をよく見ることができる者は少ないだろうから、心配は無用だろうと、シルウェステルは思った。
王都を出発して、半刻程でダンジョンのある廃坑に到着した。
黄金の導は、廃坑前で、小鹿や仔馬から降りた。
そして、ルクスは小鹿や仔馬をアイテムボックスに収納した。
「「えっ」」
シルウェステルとレヴァナが驚いたように声を上げた。
「あ、言ってなかったね、小鹿と仔馬はアイテムボックスに収納したよ。ちなみに、人族とか亜人は収納できないから安心して。あと、アイテムボックスは内緒ね」
「……はぁ、わかったよ、ルクス君」
シルウェステルは頭を抱えつつ、頷いた。
「分かりました、ルクス様」
レヴァナは素直に、頷いた。
「ありがとう。さ、廃坑ダンジョンに潜ろう」
ルクスは、そう言って先頭に立ち、廃坑ダンジョンに潜っていく。
ダンジョンの構造は入るたびに少し変化する。
まるで誰かが操作、あるいは、ダンジョンが生きているかのように。
そんな不思議現象について、ルクスは深く考えることはしない。
考えても意味がないからだ。
「シアーシャさん、バフお願いします」
「はい」
「ソルもお願い」
ルクスは、レベルが一番低い神官のシアーシャと使い魔のソルにバフを掛けてもらって、一層から九層の雑魚敵を蹴散らした。
シアーシャとソルはルクスにバフを掛けたことで、経験値を得、レベルが十になった。
「さて、選手交代だ。ここからは、シルウェステル君とレヴァナさん、シアーシャが協力してレベリングするんだ」
「「了解」」
十層からシルウェステルとレヴァナが前衛。シアーシャが後衛として戦う。
「シアーシャさん、それからソル殿、バフを僕とレヴァナに」
「はい。【聖なる願い】」
両手を組んでシアーシャは祈るように神聖術のキーワードを紡ぐ。
すると、シルウェステルとレヴァナの頭上から光が降り注いだ。
聖なる願いは熟練度に応じ、対象の全てのステータスを補正する効果がある。
ソルはぴよよー!と鳴いた。すると、シルウェステルとレヴァナは淡い光に包まれた。
「よし、レヴァナ行こう!」
「はい!シルウェステル様」
十層は東京ドームが入るくらいの広さの森が広がっている。
森の奥にボス部屋ならぬボスエリアがあり、階層ボスのウルフキングがいる。
それ以外の場所にはウルフがポップする。
「はぁっ!」
シルウェステルはミスリル剣でウルフを貫いた。剣技【刺突】を使ったのだ。
アーツというのは、武器を扱うジョブのスキルに内包される技のことを指す。
剣士の場合は、剣術に内包される剣技のことだ。
ちなみに、魔法使いの場合は、スキル属性魔法に内包される呪文が剣技に相当する。
きゃいん、と鳴いたレベル九のウルフは光の粒となって消え、ドロップアイテムを残した。
「せいっ!」
レヴァナは血操術で、アイテムポーチから取り出した瓶に入ったワイバーンの血を操り、ウルフたちを拘束した。
そして、レヴァナは身の丈以上の大きさの大鎌を振り回しながら踊る。
舞踏【戦舞】だ。効果は力・知恵・素早さを上げる効果がある。
戦舞を舞いながら、レヴァナは大鎌を振り回してウルフたちを一掃した。
血操術でワイバーンの血を回収したレヴァナはシルウェステルに笑みを向けた。
「シルウェステル様、たくさん殲滅しましょうね!」
「あ、ああ、レヴァナ。楽しそうだね」
「久々に身体を動かせて、凄く楽しいです!」
「うん、良かった」
会話しつつ、二人はウルフを倒していった。
すぐにボスエリアにやってきた二人の前に、ウルフキングが現れた。
ウォォオオーーン、という遠吠えをするウルフキングの周りにウルフたちが集まってきた。
「雑魚は俺たちが片付けるから、シルウェステル君たちは、ボスを殺って!」
ルクスはそう言いつつ、アランやクラーラと共にウルフたちを瞬殺した。
「ありがとう、ルクス君。……行こう、レヴァナ」
「はい」
シアーシャが聖なる願いをシルウェステルとレヴァナに掛けた。
血操術でレヴァナはウルフキングを拘束する。
だが、キングと付くモンスターだからか、完全に拘束できず、ウルフキングは藻掻いている。
「……シルウェステル様、同時に殺りましょう」
「ああ!」
シルウェステルは剣技【剣閃】を、レヴァナは鎌技【鎌閃】を同時に発動した。
剣閃は剣から覇気を飛ばして相手を攻撃する。鎌閃も同様だ。
二人の覇気は合わさってウルフキングを両断した。
ウルフキングは光の粒となって消えた。
「……ドロップアイテムは、『ウルフキングの魔石』と『ウルフキングの牙』、『ウルフキングの毛皮』か」
シルウェステルはウルフキングの魔石と牙と毛皮を持って、レヴァナの元にやってきた。
「レヴァナ、この中で欲しいものはあるかな?」
「特には……」
「じゃあ、全部ギルドで売ろう。とりあえず、僕が持っておくね」
「はい」
二人の元にルクスがやってきた。
「さあ、二人とも、どんどん下に行きましょう」
「えっと、ルクス君。今日は何層まで行くつもりかな?」
「そうですね、三十層くらいは潜りたいですね」
「三十層……それって、ベテラン冒険者くらいの強さの人が潜る層だって聞いたことがあるんだけど」
「俺たち最近は三十層あたりでレベリングしてますから、安心してください」
「……うん、分かった」
黄金の導がベテラン冒険者並みの強さを持つことを察したシルウェステルは苦笑しつつ、頷いた。
その日、ルクスの宣言通り、一行は三十層まで潜り、ボス部屋の魔法陣に乗って地上に戻った。




