第61話 神の書庫
雨降り続く栄月下旬のある日、ルクスは久々に神々の部屋に入る権利を使いまくっていた。
雨でレベリングができないので、暇つぶしに。
ここまで十数回、神々の部屋に入り、スキル【呪術】【木工】【石工】【魔法付与】【魔法陣作成】【彫刻】【美的感覚】【弓術】などを取得している。
「よし、次は叡智の神の書庫に行くか……」
ルクスはステータス内の詳細に記載されている『叡智の神の書庫への入場権※回数制限有り(25/30)』をタッチした。
[神域へ移動しますか?はい/いいえ]
ルクスは現れたホログラムウインドウの「はい」をタッチした。
[神域へ移動します]
ルクスは光に包まれた。
次の瞬間、ルクスはとても広い図書館のような場所にいた。
[試練を開始します]
[試練達成条件︰叡智の神の書庫にある書籍を調べて美しいと思う数式を机の上にある羊皮紙に書くこと]
ルクスは数学の本がたくさん入っている棚の前にやってきた。
一冊一冊、ルクスはゆっくり読んでいく。
実は、この神の領域にいる間、現実の時間はゆっくり動いているようで、この神の領域に一時間いたとしても、現実では十分しか経過していない。
だから、ルクスは余裕なのだ。
ルクスは本の中から見たことのある数式を選び出した。
それは、前世で見た映画に出てきたことがある数式だった。
eiπ+1=0
前世ではオイラーの等式と呼ばれたその数式は、今世では、オスカーの等式と呼ばれている。
なんだか変だな、と思いつつ、ルクスは羊皮紙にeiπ+1=0と記載した。
[スキル【算術】を取得しました]
[最高ランクで試練を達成しました]
[宝箱を開けてください]
ルクスの前にホログラムウインドウが現れ、とても豪奢な宝箱が現れた。
宝箱の中には、バレーボールよりも一回りくらい小さい白い卵が二つ入っていた。
一つの卵には金色の太陽の模様が描かれていて、もう一つの卵には銀色の月の模様が描かれている。
ルクスは鑑定した。
【陽光鳥の卵】
魔力を込めて大事に育てれば、陽光鳥が産まれる。
魔力を込めた相手を親だと思う。
使い魔契約を結ぶことも可能。
【月光鳥の卵】
魔力を込めて大事に育てれば、月光鳥が産まれる。
魔力を込めた相手を親だと思う。
使い魔契約を結ぶことも可能。
二つの卵をルクスはアイテムボックスに入れつつ、思案した。
(一つは俺が育てるとして、もう一つは……ラエティティアなら大事に育ててくれそうだな)
と思いつつ、ルクスは目の前に現れたホログラムウインドウを確認した。
[退出しますか?はい/いいえ]
ルクスは「はい」を押した。
部屋に戻ってきたルクスは、ラエティティアの部屋に向かった。
コンコン
ノックしているかどうか確認する。
「はーい、少々お待ちください」
扉を開けたラエティティアは可愛らしい白と淡い桜色のワンピースを纏っていた。
「まあ、ルクス様。どうされたのですか?あ、立ち話もなんですから入ってください」
「え、えっと、レディの部屋に俺が入るのは……」
「ルクス様は特別です」
ラエティティアに手を引かれてルクスはラエティティアの部屋に入った。
(なんだか、花のような良い匂いがする……)
どぎまぎしつつ、ルクスはソファーに座った。ラエティティアはルクスの隣に座った。
「ら、ラエティティア?」
「それで、ルクス様、何か用事があったのではないですか?」
ラエティティアが大して気にした様子ではなかったので、ルクスは少し落ち込む。
(俺、意識されてないのかな……)
ラエティティアを直視できなくて、ラエティティアの耳や頬が赤く染まっていることに気付いていないルクスは、アイテムボックスから卵を取り出した。
「その、月光鳥の卵を手に入れたんだ、ラエティティアに育てて欲しくてね」
「まあ、この卵は、どうやって育てるのですか?」
「自分の魔力を注いで育てるらしいよ。産まれたら、使い魔契約もできるみたい」
「そうなんですね、ありがとうございます。ルクス様……大切に育てます」
「じゃあ、俺は用事があるから戻るよ」
本当は用事もなにもないのだが、ラエティティアの部屋にいるだけで何か悪いことをしているような気分だったので、一刻も早く出たかったのだ。
「はい、頑張ってください、ルクス様」
「うん、ありがとう、ラエティティア」
ルクスはそそくさとラエティティアの部屋から出て行った。
部屋に残されたラエティティアはぽつり、と呟いた。
「ルクス様ともっとお話したかったのですが……仕方ありませんわね」
残念そうな表情で、ソファーに座り、机の上に積まれた本から一冊本を取って読み始めた。
タイトルは『恋愛指南本』だった。
部屋に戻ったルクスはソファーに座って、アイテムボックスから陽光鳥の卵を取り出した。
そして、魔力を操作し、魔力を卵に込め始めた。
(……どれくらい込めればいいのかな?)
魔力の操作を止めずに魔力を込めながら、ルクスは悩んでいた。
いつの間にか、卵は光輝いていた。
そして、光が爆発するように部屋を包んだ。
「わっ!」
ルクスの顔に何かもふもふしたものが飛び乗ってきた。
両手を使ってべりっと剥がすと、それは、金色の太陽の紋章の模様を身体に刻んだ白い鳥だった。
ぴよぴよよーー!
と鳴いて、白い鳥は机の上に飛んで着地し、喜びを表すように翼を使って舞っていた。
陽光鳥が落ち着いたのを見計らって、ルクスは陽光鳥に話しかけた。
「えっと、君と使い魔契約を結びたいんだけど、良いかな?」
ぴよっ、と陽光鳥は鳴きつつ、頷いた。
「じゃあ、やるよ」
ルクスはアイテムポーチから短剣を取り出して、掌を傷つけた。血が滴る。
「【我、汝と契約を結ばんとせむ者也。汝、契約を受け入れるか?】」
陽光鳥はぴよっ!と元気よく鳴いた。
「【汝は、我が使いとなることを我が血に誓い、我は汝に対価を支払うと我が血に誓う】」
血が光を帯びて滴り、陽光鳥の頭に一滴落ちた。その血は消えるように陽光鳥の中に沁み込んだ。
「【血の契約】」
ルクスの血は光輝き、消えた。
傷は残っているので、ルクスは初級治癒ポーションを掛けて治した。
ちなみに、この使い魔契約は呪術の一種だ。
ステータスウインドウに陽光鳥が使い魔になっていることが記されているのを確認したルクスは頷いた。
「じゃあ、君に名前を付けようか……お腹に太陽みたいな紋章があるから、ソルはどうかな?古代ウェトゥム語で太陽って意味なんだよ」
ぴよー!と陽光鳥は嬉しそうに鳴いた。気に入ったようだ。
「じゃあ、これからよろしくね、ソル」
ぴよよ、返事をするように鳴いたソルはルクスの肩の上に乗った。今後は、ここがソルの定位置になりそうだ。




