第59話 アスターの幼馴染
模造紙のような和紙を仕舞い、黄金の導が一旦解散した丁度そのとき、ルクスの元にやってきた影がいた。
「ルクスー!」
「アスター?」
アスターは一人ではなかった。
「え、もしかして、連れてきちゃったの?」
アスターの背後には、女性の小妖精がいた。
「父上には許可を貰ってあるよ。本人の許可も」
「……アスターの言う通り」
女性の小妖精──半分瞼が閉じているが、美少女だ。毛先がピンクになっている白い髪と淡い桜色の瞳を持っている。
「私はシアーシャ。アスターの幼馴染です」
眠そうに見えるシアーシャはぺこりとお辞儀した。
「あ、俺はルクスです。アスターの相棒?みたいな感じです」
「そこは言い切ってよ。疑問符はつけないで」
「ん、ごめん」
「……馴染んでるみたいで、良かった。アスター」
「ちょっと、保護者ぶらないで、シアーシャ。君は僕と同い年でしょ」
「そうだったかな?」
「そうだよ、しかも僕の方が先に産まれたし」
「……ふむ、年齢は関係ないものだよ、アスター」
アスターは、ぐぬぬと唸ったが、言い返すことはなかった。
「そうだ、シアーシャさんは服とか興味ありますか?」
アスターがヘレナへの生贄(笑)としてシアーシャを連れてきたことを感づいていたルクスは、せめて、シアーシャが服に興味があれば、被害が少ないだろうと思ったのだ。
「もちのろん。服とか裁縫は大好き」
「アスター……」
「なに、ルクス」
「逸材だな」
「うん、シアーシャは逸材だよ」
「私、凄い?」
「「すごい」」
「ふふん、なんだか、いい気分」
これなら、ヘレナと意気投合するだろう。
アスターはシアーシャをヘレナの元に連れて行く、と言って、シアーシャと共に飛んでいった。
「アスター、よかったね」
ルクスは女装させられそうだったときのアスターの悲壮な表情を思い出しつつ、目に浮かんだ涙を拭った。
その夜、新設された服飾部屋でヘレナとシアーシャの服飾トークが止まらず、深夜まで作業していたそうな。
流石に遅いからと、ベネディクトゥスとアスターが二人を強制的に部屋に戻して寝かしつけたそうな。
ちなみに、シアーシャはラエティティアと同室になっている。ヘレナとは違う部屋にするためだった。
翌日の夕方、ルクスは黄金の導の面々と冒険者ギルドで、討伐と採取依頼の報告をし、一旦解散して自由行動をしていた。
商人街にやってきたルクスは、甘い匂いに誘われて、路地裏のとある店の前までやってきた。
店内に入ると、食堂のような雰囲気の内装が広がっていた。
「いらっしゃいませ!」
ルクスに気づいてやってきたのは、長い茶髪をおさげにした女性だった。
「えっと、ここは食事処ですか?」
「んーと、甘いお菓子と紅茶を出す喫茶店ですね。『子猫の喫茶店』っていう店名です」
「教えてくれて、ありがとうございます。此処で紅茶を楽しんでも?」
「勿論です。こちらへどうぞ」
ルクスは女性に案内されて、カウンターの席に案内された。
「ここは厨房がよく見えるので、菓子職人の調理を間近で見れますよ」
「へぇ、そうなんですね」
菓子職人は、オーブンからお菓子を取り出し、作業台の上に載せた。
菓子職人の顔を見て、ルクスは驚いたように声を上げた。
「テオさん?」
自身の名が呼ばれたことに気付いたテオがルクスの方を見た。
「ルクス様……!」
テオはルクスの顔を見て感極まり、ぶわっと涙を溢れさせた。
「きゃ、ちょっと、テオさん、涙がお菓子についたら大変よ?」
と言いつつ、おさげの女性がテオの涙を拭く。
「ああ、すみません……」
何とか涙がおさまったテオは、ルクスに深々と頭を下げた。
「ルクス様、クリスタたちを助けて下さり、本当にありがとうございました」
テオがそう言うと、おさげの女性ことクリスタは驚いたように目を瞠った。
「まぁ、貴方がルクス様……本当に助けていただき、ありがとうございました」
クリスタも深々と頭を下げる。
「わわ、頭を上げて下さい。お礼を言われるような大層なことはしてません」
「しかし、助けて下さった騎士団長様が、ルクス様のお陰だと大層褒めておられましたよ」
「あー……まぁ、俺が陛下に依頼しましたね」
「やはり!」
「でも、直接助けに行けませんでしたよ」
「それでも、ルクス様がいなければ、我々は今、此処にいないでしょう。御礼をしたいのですが……」
「?」
「実は、我々は神官を止めて、この店を経営することになったんです」
「ほぉ」
「孤児をルクス様のクランに斡旋することは少々難しいかもしれません。昔なじみの神官に取り計らうようにお願いはしてありますが……」
「それだけで十分ですよ。しかし、急に店をやることになったんですね」
「はい……実は、私たち、夫婦になるんです」
「おお、おめでとうございます」
「神職は独身でいることが決まりなので、思い切って辞めて、この店を立ち上げたんです」
二人は見つめ合って、頬を染めた。ラブラブだ。
「あはは、お熱いですね」
「いや、それほどでも……」
「もう、恥ずかしいです」
ルクスは二人の門出を祝いつつ、子猫の喫茶店名物のガレットを味わった。




