第55話 クラン設立
黄金の導は、毎週祝福日(日曜日に相当)を休みとしている。
と言っても、ラエティティアはヘレナと一緒に縫い物をしたり、クラーラとアランはヴォルフとアデリナの手伝いで厨房で忙しくしてたり、バートは魔法の勉強のため、書庫にこもっている。
因みにベネディクトゥスは授業の準備や家計管理をしている。
ルクスはといえば、冒険者ギルドの応接室にいた。
対面のソファーにはフリッツがいる。
「それで、ルクス君はクランを立ち上げたいんだね?」
そう、ルクスはクランを立ち上げる。神官テオとの約束を果たすためと、五年後以降に起こるであろう、スタンピードに備えて。
「はい」
「クランを立ち上げるには、最低五人の名前を書いた申請書を冒険者ギルドに届け出る必要があるけど、拠点はどうするの?」
「あ、自分の拠点があるので、そこを拠点にします」
「もう拠点を持ってるの?凄いね。メンバーは黄金の導の皆で良いかな?」
「はい」
「クランの名前はどうする?」
「えっと……『自由の翼』にします」
いずれ使えるようになるだろう、自由の羽をイメージした名前だった。
「団長はルクス君で良いかな?」
「はい、あ、黄金の導以外にもメンバーがいるのですが……」
「冒険者なら、名前で分かるよ」
「えっと、ベネディクトゥスと、他は冒険者じゃないんです」
「うーん、他の人にも冒険者になってもらうことはできるかな?クランメンバーは基本、冒険者であることが必須なんだ」
「分かりました。近いうちに冒険者になってもらいます」
「では、クラン設立の手続きをするね。あ、因みに五年以内にメンバーが十人を超えないとクランは自動的に解散になるから気を付けてね」
そう言って、書類を持ったフリッツは応接室を出た。
しばらくして戻ってきたフリッツは羊皮紙のスクロールを二つ持っていた。
「はい、ルクス君、これが自由の翼のクラン登録証明書だよ。ここに団長のサインを入れてくれるかな?」
「はい」
ルクスはフリッツが示した場所にサインを記載した。
「あとはクランの紋章も決めないとね。専門の絵描きさんに頼むこともできるけど……」
「絵描きさんにお願いします」
「イメージはどんな感じが良いかな?」
「んー……。黄金の翼と杖と剣と盾と音符を入れて欲しいです」
「分かった。それで依頼するよ」
「ありがとうございます」
「料金は掛かるからね。金貨三枚だよ」
「大丈夫です」
ルクスはアイテムポーチから金貨三枚を取り出してフリッツに渡した。
「ありがとう。ルクス君は結構稼いでるから、これくらいなんてことなさそうだね」
「ははは……」
ルクスとフリッツは雑談をしつつ、冒険者ギルドの入口までやってきた。
「じゃあ、クランの紋章ができたら、また声を掛けるね」
「はい、よろしくお願いします」
「またね、ルクス君」
「はい、また」
ルクスは屋敷に帰ってきた。
丁度、お昼ご飯の時間で、皆が食堂や調理場に集まっていた。
「ラエティティア、ただいま」
「おかえりなさい、ルクス様。ご飯、食べられますよね、すぐに準備しますね」
「あ、ありがとう」
ラエティティアはそう言って、お皿に料理を盛ってルクスの席に並べていった。
他の席はアランやバート、クラーラが並べている。
あっという間に全ての席に料理が並べられた。
「では、ルクス様、お願いします」
席についたルクスは祈りの言葉を紡いだ。
「神々の御恵に感謝を」
「「感謝を」」
全員が食事を食べ始めた。
「今日も美味しいな、ヴォルフさんのご飯」
「うん、お父さんの料理は世界一」
娘の言葉に満更でもないヴォルフは満足げに頷いた。
「うむ」
その様子にアデリナは微笑んだ。
「うふふ」
和やかな食卓に、ルクスはちょっとした爆弾を放り投げる。
「あ、そうだ、俺、クランを立ち上げたよ」
「「えぇ!?」」
クランといえば冒険者の大集団を思い浮かべる人も多い。
「え、黄金の導のメンバーだけでクラン作れるの?」
バートの素朴な疑問にルクスは応えた。
「うん、作れる作れる。最低五人で作れるんだって。ま、五年以内にメンバーを十人にする必要があるけど」
「へぇ。というか僕たちに相談してから作ってよね、ルクス」
「うん、事後報告になって、ごめんね」
「……良いよ。何か理由があって作ったんでしょ?」
「よく分かったね、バート」
「顔に書いてあるよ」
「え」
ルクスは両手で顔を触った。
「あはは、ごめんごめん、僕の勘だよ。当たって良かった」
バートはにかっと笑った。
「そういえば、ルクス様。クランのお名前は何ですか?」
ラエティティアがルクスに質問した。
「ああ、『自由の翼』だよ」
「まあ、素敵なお名前ですね」
「うん、ルクスにしては良いネーミングセンスだね」
バートはうんうん、と頷いた。
「お前、人のこと言えないだろ?」
アランがツッコミを入れた。
「アランこそ、人のこと言えないネーミングセンスしてたよね」
バートは冷ややかな笑みをアランに向けた。
「まあな、この中じゃ、ルクスとラエティティアさんが一番ネーミングセンスがあるってことだな」
「悔しいけど、そうなるね」
「まあ、ルクス様と並びたてるなんて嬉しいですわ」
「ラエティティアが嬉しいなら、良かった」
バートは羨ましそうにルクスを見つつ、いつか綺麗で可愛いお嫁さんを貰うんだ、と決意を新たにした。
翌日の午後、ルクスは冒険者ギルドにやってきていた。
ルクスに気付いたフリッツが手を振ってルクスを迎えた。
「やぁ、ルクス君。君に指名依頼が来てるよ」
「もしかして……」
「うん、エルナさんからだよ。ワイバーンの心臓が欲しいんだって」
「おー(この前、討伐したから持ってるな。さては、エルナさん、どこかから話を聞いたな?)……持ってますね」
「それは丁度良いね。じゃあ、預かろうか……それとも、直接届けてくる?」
「うーん、直接届けます」
「分かった。じゃあ、これ、依頼書だよ。サイン貰ってきてね」
「はーい」
ルクスは依頼書をアイテムポーチに入れて、商人街のフィルツ薬屋を目指す。
いかにもお化け屋敷風の庭を見つつ、ルクスは思った。
(そういえば、なんで庭は草がぼーぼーなんだろう……)
聞いてみるか、と思いつつ、ルクスは中に入った。
「御免下さい」
「ん、おや、ルー坊じゃないか、どうしたんだい?」
ルクスを迎えたのはエルナの祖母アメリアだった。
「エルナさんの指名依頼で」
「おや、そうかい、生憎あの子はポーションを配達しに出かけてるんだ。ここで待つかい?」
「はい。……ところで、気になっていたことがありまして……」
「なんだい?」
「あの、お庭の草が凄い生えているのは、なぜでしょうか?」
ド直球にルクスは聞いた。
「あぁ、あれね、繁殖力の高い薬草を植えたら、あぁなっちゃってねぇ……そのまま、放置してるのさ。お陰で常連しか来なくなってね」
アメリアはそう言って微笑んだ。
「え、良いんですか?お客さん減って」
「商人ギルドに卸してるポーションだけでも生活できるくらいだからね……変な客も来ないし、楽なのさ」
アメリアはカラッとした笑みを浮かべた。
「そうなんですか、まぁ、変なお客さんが来ない方が良いですよね」
そう言って、ルクスは一瞬、前世を思い出し、死んだ魚のような目をした。
「ただいまー!……あれ?ルクス君?」
「こんにちは、エルナさん」
「こんにちは、もしかして、指名依頼の件?」
「はい」
「ありがとー!ワイバーンの心臓があれば、金級の試験に合格できそうだわ」
「金級の試験の練習?」
「そう。次の試験は体力増強ポーションなの。これを作るにはワイバーンの心臓が必要でね……提出期限に間に合って良かったわ」
ルクスはアイテムポーチから出すフリをして、アイテムボックスからワイバーンの心臓を取り出した。
ちなみに、アイテムボックスに死んだ魔物を入れると、勝手に解体されるようになっている。
エルナは用意してあった大きな瓶を差し出した。ルクスは大きな瓶にワイバーンの心臓を入れる。
「ワイバーンの心臓って、やっぱり大きいわね」
「はい」
ルクスはアイテムボックスからワイバーンの心臓を取り出したのは今が初だったので、大きさに少し驚いていた。
「あ、依頼書にサインを」
「うん、分かった」
エルナは依頼書にサインした。
評価はSだ。
「指名依頼を受けるのが少し遅かったからSね。もう少し早かったら三つ付けたけど……まぁ、何はともあれ、ワイバーンの心臓を持ってきてくれて、ありがとね、ルクス君」
「どういたしまして、エルナさん。これこらは、なるべく冒険者ギルドにも寄るようにするよ」
「良いのよ、今回の試験で金級になれば、しばらくは昇級試験を受けないつもりだから、たぶん緊急性の高い依頼はしないと思う……」
「分かった、ありがとう、エルナさん。アメリアさんも、色々教えてくれて、ありがとうございました。では、失礼します」
「気をつけてね、ルクス君」
「じゃあね、ルー坊」
ルクスは二人に見送られ、フィルツ薬屋を後にした。




