第53話 大鹿
冒険者ギルドの建物から出た黄金の導は、帰路につく。
「あ」
何か思い出したルクスは声を上げた。
「俺は寄る所があるんだ、皆、先に帰って良いよ」
「俺はもう限界……ダンジョンでまともに寝られなかったし。すまんが、帰る」
「僕も」
「私も」
「私は、ルクス様のお供を」
「だめ、ラエティティアも休むんだ」
「でも、ルクス様は?」
「俺はまだ大丈夫だから」
ルクスも疲れていたが、前世で働いていた頃よりも全然マシだと思っていた。
「……無理しないで下さいね、ルクス様」
「うん、ありがとう、ラエティティア」
ラエティティアたちが帰路につくのを見届けたルクスは、彼女たちが見えなくなってから、商人街に向かった。
「馬貸しの『跳ね馬屋』か……」
ルクスは跳ね馬屋に入った。厩舎のような店内にはズラリとたくさんの馬が並んでいた。
「いらっしゃい、坊や」
ルクスに声を掛けてきたのは店主らしき、中年の男性だった。
「こんにちは。馬について聞きたいのですが……」
「ふむ、何かな?」
「馬はどこで購入できますか?」
「ここらへんなら、ヒルネ村の牧場で購入するね、うちでも馬は売っているけど、坊やの背丈に合う仔馬は仕入れてないから、ヒルネ村で買ってもらうしかないね」
「ヒルネ村……」
この前行ったのに、とルクスは悔しそうに呟いた。
その呟きが聞こえなかった店主は、話を続けた。
「王都からヒルネ村までは四、五日の距離だね。乗り合い馬車も出てるし、道も比較的安全だ。けど、親御さんと一緒に行った方が良いぞ。子供だけで行こうとしちゃいかん」
「はは……、分かりました」
ルクスは気落ちしつつ、跳ね馬屋を出て帰路についた。
屋敷の自室に戻ったルクスは、お風呂に入って汗を流し、光属性魔法の浄化で自身の身体や服やら靴やらを浄化した。
浄化した服と下着と靴下は、念の為、洗濯機にぶち込んで洗う。
ガウンを纏ったルクスはベッドに横になった。
ダンジョンで一日を過ごし、戦ってから戻るという工程は思ったよりも体力を削るらしい。
ルクスは、まだ夕方だが、眠気に負けて、眠りに就いた。
五日後、ルクスたち黄金の導は仔馬を買いにヒルネ村にやってきていた。
「えー、仔馬が三頭しかいない?」
アランが思わず声を上げた。
「すまないねぇ、仔馬三頭しかいないが、子供が乗れる獣はいるぞ」
牧場主はそう言って、もう一つの厩舎に向かった。
そこには馬くらいの大きな鹿がいた。
「三十年前に北の地域から購入してコツコツ増やした大鹿たちだ。こいつらは悪路でも、すいすい進むことができるから、騎乗するなら、大鹿が一番良いぞ。戦馬には勝てないかもしれんがな」
「戦馬?」
「戦争用に強い種同士で交配した馬のことだよ。戦馬ならどんな悪路もすいすい進むし、歩兵も薙ぎ払う力強さがある」
「モンスターには騎乗しないの?」
「あー、東の帝国にはワイバーンに乗る飛竜部隊があると聞いたことがあるな。だが、調教士以外の素人がモンスターを手懐けるのは難しいもんだ、真似しないほうが良いぞ」
「なるほど、興味深い話をありがとうございます。ちなみに、この大鹿の子供は何頭いますか?」
「二十頭だな。坊主たちが乗れそうな子鹿は五頭くらいだな」
牧場主はにかっと笑った。
「では、五頭購入したいのですが」
「金貨五十枚になるな」
ルクスはアイテムポーチから出すふりをしつつ、アイテムボックスから金貨五十枚を出した。
「これで」
「ちょいと待ってくれ」
牧場主はきちんと数えた。
「まいどあり!」
牧場主は金貨五十枚をエプロンのポケットに入れて、良い笑顔を浮かべた。
五頭の大鹿の子に黄金の導たちは別途用意してもらった乗馬用具を付けた。
数日、村で乗馬(鹿?)の訓練をした黄金の導たちは、子鹿(と言ってもポニーくらいの大きさ)に乗って、王都に戻るべく出発した。
悪路もすいすい走れる大鹿の子のお陰で、三日も掛からずに王都に着いた。
「ふふ、いい子ですね。シュネー」
キュン、と鳴いてシュネーと呼ばれた白鹿がラエティティアに甘えるように頭を擦り付けた。
シュネーは突然変異で白くなったらしい。他の鹿は普通の鹿と同じく、茶色っぽい毛を持っている。
ちなみに、この白鹿にシュネーと名付けたのはラエティティアだ。
「ちょ、お前もシュネーみたいに甘えたいのか?シュバルツ」
シュバルツと呼ばれた黒鹿がルクスの背に自身の頭を擦り付けている。
シュバルツもシュネーと同様、突然変異で黒いらしい。
ルクスが名付け親だ。
「よーしよしよし」
某動物研究家のように大鹿の子を撫でまくっているのは、アランだ。
アランの相棒になった茶色の毛並みのホーアンはちょっと嫌そうに顔を背けたが、アランはお構い無しだ。
「うん、アラン、撫ですぎだよ」
と言いつつ、クラーラは相棒になったフーフェを優しく撫でた。
「程々が良いよ、アラン」
と忠告するバートは相棒になったフリーゲンに抱きついて、茶色の毛並みに顔を埋めて、へらっと笑った。
人のことを言えるのだろうか。
屋敷にやってきた黄金の導は、屋敷の前に人影があることに気づいた。
「「おかえりなさい」」
ベネディクトゥス、ヘレナ、ヴォルフ、アデリナが子供たちを出迎えた。
「「ただいま」」
クラーラはアデリナに抱きついた。
ラエティティアは恥ずかしげにヘレナのもとにやってきて「ただいま、お母様、お父様」と言う。ヘレナはラエティティアの頭を撫でて、抱きしめた。
男の子三人組は、ヴォルフとベネディクトゥスに迎え入れられた。
「あの子たちを厩舎に入れないと……」
ルクスが大鹿の子たちを振り返った。
「私たちがやっておきます、ルクス様」
「ごめん……ありがとう、ベネディクトゥス」
ベネディクトゥスはそう言って、ヴォルフと共に大鹿の子たちを厩舎に連れて行った。
「俺たちも屋敷に入るか」
「おう」
「うん」
男の子三人組は屋敷に入った。
その後、話し合いが持たれ、大鹿は全員でお世話することとなった。




