第50話 黒衣
ルクスは作戦決行前に屋敷に戻ってきた。
談話室の方が賑やかだったので、ルクスは覗いてみる。
すると、沢山の服が机の上に並べられ、マネキンのような人の身体の一部を模した木の置物が纏っていた。
「ルクス様、お待ちしておりました」
ヘレナに声を掛けられたルクスは中に招かれる。
「えっと、この大量の服は?」
「私がつくりました。ルクス様」
「……作り過ぎ、では?」
「おほほ……手が止まりませんでしたの」
ルクスは服を見て、あるマネキンが着る一着に目が留まった。
「あら、お目が高いですね。この服は私が懇意にしていた服飾店の店主様に頼んで、魔法付与をしていただいた服です。他にも魔法付与を何着か用意しておりますが……」
その服はファンタジーっぽいデザインで、肌を守るためか長袖長ズボンで、口元まで覆えるネックウォーマーがついている。
そのどれもが黒い。
「真っ黒だね」
「ええ、斥候のクラーラちゃんのために作ったのですが……」
クラーラは可愛らしい服に目が釘付けで、この黒衣には目が行かなかった。
「どうやら、興味がないみたいだね」
「ええ、そうなんです……サイズ調節の魔法も付与されていますので、大人でも子供でも性別は関係なく着れますから、夫に着て貰おうかと思っているのですが……」
「ちなみに、これは他にも魔法が付与されているの?」
「え?えぇ、気配遮断の魔法が付与されてますね」
ルクスは微笑んだ。
「ヘレナ、この服、俺にくれるかな?」
「あら、気に入ったのですか?」
「うん」
ルクスはそう言って服をアイテムボックスに収納した。
それから、ヘレナにおすすめされた服を何着かアイテムボックスに入れて、談話室のソファーに座り、皆の楽し気な様子を眺めた。
その夜、ルクスはヘレナが作った黒ずくめの服を纏って、外出し、神殿に忍び込んだ。神殿の三階の窓は経費削減のためか、鍵が付けられていないようで、簡単に忍び込めた。たとえ、鍵が掛かっていたとしても、この世界の窓の鍵は簡単な構造なので、開けるのは苦労しないだろう。
マップに表示されている神殿長の部屋に忍び込んだルクスは、金庫を鑑定した。
【神殿長の金庫】
神殿長の不正の証拠が詰まった金庫。
鍵は執務机の右の二番目の引き出し、二重底の下に入っている。
ルクスは執務机の二番目の引き出しの二重底の下にある鍵を取り出した。
そして、金庫の鍵を開けて、中にある裏帳簿や、手紙や書類を全てアイテムボックスに収納した。
金銀財宝も入っていたが、ルクスは手を付けなかった。
汚い手段で手に入れたものだろうと分かっていたからだ。
ルクスは入ってきたときと同じように、三階の窓から出て、風属性魔法により、空を飛び、屋敷に戻った。
そして、ざっと不正の書類に目を通し、アイテムボックスに収納した。
(明日、ちゃんと確認しよう)
そう思って、ルクスはベッドに横になった。
翌朝、ベネディクトゥスの授業を受けて、ルクスは不正の書類全てに目を通した。
人身売買や、金品を賄賂として貰った記録、貴族とのやり取りの手紙などなど。王都の神殿の神殿長ともなれば、色々と貴族に賄賂を貰うことも多いのだろう、証拠の手紙は山のよう。
見るのも苦痛なくらいだったが、ルクスは全て確認した。
神殿長と最もやり取りが多かったのは、アルヒ王国の財務長官だった。
(財務長官の屋敷に忍び込むのもありだけど、これは、陛下に丸投げしようかな)
優秀な部下が多いであろう、国王陛下ならば何とかしてくれるだろう、と思いつつ、ルクスは不正の書類をアイテムポーチに入れた。
(クリスタたちはまだ神殿の地下牢に閉じ込められた状態だから、すぐに救助してもらうように言えば、大丈夫だろう)
とルクスは丸投げする気満々で王城までやってきた。
騎士に元帥のブローチと国王に以前貰ったメダルを見せたルクスは「国王陛下にお会いしたい」と伝えた。
もう一人の騎士がすぐさま確認に向かい、暫くして戻ってきた。
ぜえぜえと息を吐きつつ、ルクスに「国王陛下から許可が下りました」と騎士は言った。
ルクスは騎士が可哀相だったので、最初にブローチとメダルを見せた騎士に案内を依頼した。
騎士に連れられ、ルクスは王城の中に入り、国王の執務室に案内された。
因みに、王城はゴシック様式のような建築様式で、壁はベージュ、屋根は紺色となっている。結構年季が入っていて、何箇所か補修の跡がある。
何年前にこの城が造られたのか気になったルクスは騎士に聞いてみた。
「この王城はアルヒ王国が建国してから十年後に造られたと聞いております。今から約千年程前のことですね。それから、補修や改築をしつつ、現在まで受け継がれております」
「わぁ、そうなんですね、教えてくれてありがとうございます」
ルクスはヨーロッパの代表的なゴシック様式の建造物たちを思い出した。
(まあ、ヨーロッパにも千年くらい建っているゴシック様式の建造物もあるし、普通か……。この国はあまり地震が来ないのかな?)
と思いつつ、ルクスは国王の執務室の前までやってきた。
騎士は、執務室をノックして、声を掛けた。
「陛下、フォルティス様をお連れしました」
「入りなさい」
「失礼します」
ルクスは騎士と共に執務室に入った。
「ルクス殿、一週間ぶりだな。何かあったのか?」
国王シリウスはルクスに座るよう勧めつつ、ルクスの対面のソファーに座った。
「はい、陛下。アイテムポーチから書類を出しても?」
「勿論、構わん」
ルクスはシリウスの前に神殿長の不正の書類を全て出した。
「これはとある筋から手に入れた神殿の神殿長の不正の証拠です。そして、その証拠の中には、財務長官との手紙のやり取りが含まれています」
「……ふむ、この証拠、タダでくれる訳ではないのだろう?」
「はい、代わりに、神殿の地下に閉じ込められている修道女と子供たちを助けて欲しいのです」
シリウスは目を丸くして笑った。
「ははは!それではルクス殿に何の旨味もないではないか!……まあ、頼まれずとも、我が民を救うのは王の仕事。だが、財務長官に悟らせるわけにはいかぬな……。影よ、おるか?」
ぬっと、壁から現れたように、姿を現したのは、黒い騎士服のような服を纏い、口元を黒い布で覆った男だった。
「ここに」
「おお、話は聞いていただろう?神殿の地下に閉じ込められた修道女と子供たちを助けにいってくれるか?」
「御意」
男は再び姿を消した。
「陛下、今のは?」
「王家の影の組織という感じだな。それ以上は国家機密だ」
「はぁ……凄い組織もあるんですね」
高レベルのルクスでさえ見抜けなかった隠蔽技術、ルクスは身につけたいと思ったくらいだった。
「ルクス殿は強いな」
「え?」
「普通の貴族たちならその存在を知ったら、恐れるだろう」
「うーん、俺は元々平民ですから。それに貴族っていう自覚も薄いですし」
あっけらかんとしたルクスにシリウスは微笑みを向けた。
「そなたのような貴族が多ければ良いのだがな」
「?」
シリウスの小さな囁きが聞こえなかったルクスは首を傾げた。
「……ルクス殿、一つ頼みがあるのだが」
「はい、何なりと」
国王シリウスはルクスに一つの依頼をした。




