第46話 お呼ばれ
ベネディクトゥスの背後からぬっと前に出てきた白い騎士服を纏った騎士がしゃがんでルクスに目を合わせた。
「初めまして、貴方が名誉元帥になられたシュトラウス伯爵ですね」
「えっと、はい」
シュトラウスという苗字を聞きなれていないルクスは戸惑いつつ、頷いた。
「国王陛下がどうしても早くお話を聞きたいということで、お迎えに上がりました。シュトラウス伯爵のご予定は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。登城します」
「ありがとうございます。では、ご乗車ください」
「はい。ベネディクトゥス、あとはよろしくね」
「お任せください」
ルクスはよく見ると王家の紋章が刻まれた馬車に乗り込んで、屋敷を離れることとなった。
豪奢な馬車に乗っていると否が応でも人の注目を浴びる。
ルクスはできるだけ顔を出さないようにするため、自分を鑑定してステータスを確認した。
【ルクス・フォン・シュトラウス】
種族︰人族
性別︰男
年齢︰10歳
レベル︰64☆
ジョブ︰剣士
スキル︰アイテムボックス マップ 鑑定 生活魔法 剣術 剣の心得 全属性魔法 調薬
称号︰転生者
装備︰ミスリル剣 ワイバーンの革鎧 守りの指輪 布の服 丈夫な半長靴 死防ぎのミサンガ 言葉の指輪 黄昏の指輪 死防ぎのタリスマン 黒檀の指輪 白檀の指輪
ついでにセフィロトも確認する。
セフィラとパスは全て強化完了しているが、アレイは強化が進んでいない。
アレイも虹の雫で強化するのだが、夜明けの魔法商店にある虹の雫は全てルクスが買い取って使ってしまったので、もうない。
あとは夜明けの魔法商店に補充されるのを待つか、ダンジョンの深層に潜れるようになるまで、お預けといったところだろう。
余談だが、クラーラとラエティティアのセフィラは虹の雫でMAXになっている。
ルクスがステータスやセフィロトを眺めている間に、馬車は王宮にやってきていた。
王城前に停まった馬車から降りたルクスは、騎士に連れられ、国王の執務室までやってきた。
「久しぶりだな、ルクス殿」
「お久しぶりです、陛下」
「さあ、ルクス殿、掛けてくれ」
ルクスは執務室にあるソファーに腰掛けた。
国王シリウスも対面に座った。
「さて、早速本題だが、ルクス殿が発見された羽、あれを軍務の主要な品として取り扱おうと思っている。一年後には民間に開放する予定だが、この一年はルクス殿も使用しないでいただきたい」
「(えー、まじか……なんか理由があるのかな?)一年というのは、何故でしょうか?」
「実は、三ヶ月後に隣国が戦争を仕掛けてくるという情報を掴んでいてな。戦争は一年くらい続くだろうと踏んでいる。今までの軍部であったなら、という前置きがつくが」
ルクスはゲームのことを思い出した。
(確か、勇者が勇者として覚醒する前に起こった過去イベントだったな。覚醒していない勇者でも初陣で敵軍を一網打尽にしたとゲームで見た記憶がある)
そんなことを思い出しつつ、ルクスは口を開いた。
「今は自由の羽がありますからね」
「ふむ、自由の羽があれば、戦争はあっという間に終わるだろうよ。恐らく、三か月あれば問題ない」
「では、戦争が終わったら、国民も使えるように開放されるのですね?」
「まあ、そうそう手の届かない値段でな……売るときは身元が保証されている人物でないと売らないようにするつもりだ」
「なるほど……ずっと王国……軍部のものにはしないのですか?」
「人の口に戸は立てられぬ。それに、転移するときや、した後に見られる可能性も高い。自由の羽はダンジョンから産出されるのだろう?冒険者なら気付く者も出るだろう。いずれは広まる。ならば、此度の戦争の間、独占するくらいが丁度良い」
「そうですね、いっそ、開放するときは王国公認のマークがないと売れないと定めてしまうのも良いかもしれません」
「おお、それは良いな。……おっと、そうだ、肝心なことを忘れていた」
シリウスは手を叩いて入口の方で待機している騎士の一人を呼んだ。
「なんでしょうか、陛下」
シリウスは騎士に何かを耳打ちする。すると、騎士は頷いて部屋から出て行った。
「陛下、肝心なこととは?」
「まあ、今に分かる」
暫くして、部屋に入ってきた騎士はとても大きな革袋を抱えていた。
そして、ルクスの前にある机の上に置いた。
「陛下、これは?」
「大金貨三千枚だな。ちょっとばかし、重いだろうが、ルクス殿はアイテムポーチがあるだろうから、今渡そう」
「えっと……こんなに、良いんですか?」
「勿論だ、自由の羽の情報はそれだけの価値があるということだよ。戦争中の口止め料も含まれている。受け取ってくれ」
「はい」
ルクスは大金貨三千枚の入った革袋をアイテムポーチに収納した。
「さて、私はこれから謁見の間で客人と会うのだが、ルクス殿はどうする?」
「え?」
「シルウェステルに会っていくか?」
「(惚気話を一時間も聞きたくないし)大丈夫です。シルウェステル殿下のことですから、また市井に降りて来られるでしょう。その時に会えれば良いと思います」
「うむ……分かった(王族が街に遊びに出るのは、あまり褒められたことではないが、民の暮らしを理解するには必要だろう)」
「では、私はこれで失礼します」
ルクスはシリウスに向かって一礼して、退出した。
退出後は騎士に連れられて馬車に乗り、屋敷に戻った。
因みに、ルクスは、貴族の礼儀をベネディクトゥスに教えてもらっている最中なので、作法にぎこちなさはあるが、年相応の礼儀は身についているだろう。
まだまだ教えることは山ほどありますよ、と言って目を光らせたベネディクトゥスを思い出したルクスは背筋が冷やっとした。
玄関でルクスを出迎えたのは、悲壮な表情をしたアスターだった。
目には涙が浮かんでいる。
「ルクス!助けてよ~」
と言ってルクスのジャケットの中に入って内ポケットに潜り込んだ。
「どうしたの?」
「ヘレナが凄い可愛らしいドレスを僕に着せようとするんだ!僕は男なのに……」
「そうか……(美少年だから、ドレスを着ても違和感なさそうだな)」
「今、とてつもなく失礼なことを考えたでしょ?」
「いや?考えてないよ?」
「そぉ?」
「ルクス様」
ひ、と漏れ出そうになった悲鳴をアスターは押し殺した。
ルクスの近くまでヘレナがやってきたのだ。
「アスターさんを渡していただけませんか?」
「……ドレスを着せないと約束してくれるなら」
アスターの望みを叶えてやろう、とルクスは言った。
「それは……しばらくは約束を守りましょう」
「えー(どんだけドレスを着せたいんだ)」
「約束をしばらく守る代わり、ルクス様に着ていただきたい服があります」
「……女の子が着るような服以外なら大丈夫だよ」
ルクスは防衛線を張った。
「大丈夫です。ささ、こちらへ」
ルクスは不安になりつつ、ヘレナの後に付いて行った。




