第43話 旅にトラブルはつきもの
その夜、村長の娘のミアの快気祝いとして、宴が催された。
魔力回路が治り、初級魔力回復ポーションによって、通常通り魔力が回復したミアは、友人らしき子供たちと楽しそうに、おしゃべりしている。
その中には幼馴染の男の子もいた。
その様子を見て、微笑んだルクスは仲間たちの元にやってきた。
「お、ルクス、これ食べるか?」
アランがホーンラビットのもも肉の串焼きをルクスに差し出した。
「うん、食べる」
ルクスは受け取って食べ始めた。
肉汁がじゅわと広がり、旨味が塩味と合わさって美味しい。
「あ、そうだ皆、今日、村長に報酬をもらったんだけど、二つしかなくてさ、どうしたいか意見が欲しい」
「二つ?内容は?」
バートが問う。
「色違いだけどデザインはお揃いの指輪だな」
アルヒ王国では、お揃いの装身具を身につける男女は特別な仲だという証になる。
同性でお揃いの装身具を身に着けている場合も同様だ。
「……難しいね。いっそのこと、ルクスが二つとも装備すれば?」
「それだ!」
ルクスは指輪を取り出して、指に嵌めようとしたが、サイズがブカブカで合わない。
そこで、ネックレス型のタリスマンに指輪を二つ通して身に着けることにした。
「ちょっとガチャガチャした感じになるけど、服の下に入れておけば目立たないから良いね」
「……うん、ルクスがそれで良いなら、僕は何も言わないよ」
「バート、何か言いたいことがあるなら聞くけど」
「じゃあ、ちょっとこっちに」
バートはルクスと仲間たちから離れた場所にやってきた。
「ルクス、ラエティティアさんに指輪を渡さないの?」
バートはルクスに気持ちに気付いていた。
ルクス自身、最近になって、自分の気持ちが恋だと気付いたばかりなので、バートの観察眼は優れている……のかもしれない。
「……あー、その、彼女に惹かれてはいるけど、主人と奴隷の関係だろ?気持ちを伝えるならフェアな関係になってからだと思うんだよね」
「じゃあ、今すぐ奴隷から解放すれば良いんじゃ……」
「それは危険もあるからできない。ベネディクトゥスとヘレナとラエティティアを一緒に解放すれば良いけど、ラエティティアを四六時中守ることはできないだろう?ラエティティアは凄く綺麗だし可愛いから、誰かに攫われるかもしれない。奴隷紋が既にあれば、他の人の奴隷になることはない……だから、ラエティティアが自分の身を守れるくらい強くなるまで解放しないつもりだ。あと一年か二年後には誰も手出しできないくらい強くなってるだろうから、解放するのはその頃だな」
「なるほどね……ま、頑張って、ルクス」
バートは友人として、ルクスを応援することにした。
「ありがとう、バート」
ルクスは微笑んだ。
二人は仲間たちの輪に戻り、食事と談話を楽しんだ。
多くの村人に見送られ、ヒルネ村を出た商隊は三日間の行路を何事もなく終えて、王都から東北の方角にあるアサヒ村で一台分の物資と蜂蜜を物々交換し、その後、二日で王都から西北の方角にあるユウヒ村で一台分の物資と菜種から採れる菜種油を物々交換した。
そして、五日間掛けて王都に戻る最中、事件は起こった。
カンカンカン、と警鐘が鳴り響く。
「大変だ!ワイバーンが群れで来やがった!!」
周囲を警戒していた銀級パーティー『風任せ』の一人、ゲルトが朝食を楽しむ商隊の人々の元にやってきて叫んだ。
ワイバーンは普段山にいるのだが、餌がないと人里まで降りて来ることがある。ルクスの前世的には熊のようなものだ。
通常、ワイバーンは金級冒険者でも苦戦する大物。それが群れを成してやってきたのだから、銀級パーティーだけで戦いを挑むのは無謀だ。
だが、ここにはイレギュラーがいる。
大勢の人々が逃げるための準備に奔走する中、黄金の導は戦闘準備をし、ワイバーンがやってくる方角に視線を向けていた。
「ラエティティア、歌って」
「はい!……すぅ、【夢を追いかけて、どんな困難があっても、忘れないで、あなたには翼があるのだから……】」
この歌は【夢追う人々に翼を】という歌で、歌い手は五分間、その場で歌うこととなる。
歌が聞こえる範囲内にいる仲間たちの全てのステータスを大幅アップし、傷を負っても、歌の効果で癒される無敵に近い空間ができる。
ジョブ歌手の歌の中で最も効果の高い歌だ。
「アスターは俺にバフ。バートは万が一の時の為に魔力温存、俺は先制攻撃、クラーラは無防備になるラエティティアを守って。アランは皆を守ってくれ」
「「了解!」」
アスターはルクスにバフを掛けた。
ルクスは風属性魔法の【飛翔】でワイバーンの元にやってきた。
「美味しそうな蜂蜜とかの臭いに釣られて来たんだろうけど、相手が悪かったね」
ルクスはそう言って、飛翔で飛びながら魔力を通したミスリルの剣でワイバーンたちの間を縫うように斬っていった。
ワイバーンたちは身体を両断され、次々と落ちていく。
ワイバーンの平均レベルは四十五で、ルクスのレベルは六十三。ラエティティアの歌のバフもあるので、余裕だ。
豆腐でも斬っているような感触にルクスは、デザートワームキングとは全然違うな、と思った。
ワイバーンたちを全て殲滅したルクスは、地上に落ちたワイバーンの死体を丸ごとアイテムポーチに入れるフリをしてアイテムボックスに入れた。
その様子をぽかんとした表情で見ていた『風任せ』と商隊の人々は、わっと歓声を上げた。
そして、多くの人々がルクスの周りや黄金の導の周りにやってきた。
「すごいな!ルクス君!」
エーリヒが口火を切ると、風任せや、使用人たちがルクスを賞賛した。
「ワイバーンの群れを一瞬で殲滅するとは恐れ入ったよ、ルクス君」
風任せのリーダーであるフランツが爽やかな笑顔をルクスに向けた。
「レベル差が十以上ありましたので、余裕でした」
「レベル差……ルクス君は何レベルなんだい?」
「えっと、六十三……今の戦闘で六十四になりました」
辺りを一瞬静寂が包んだ。
「「レベル六十四!!?」」
ルクスと黄金の導以外の人々の驚愕の叫びが響いた。
アルヒ王国でレベルを確認するには、神殿の『事実の石板』という神具を借りる必要がある。もしくは、鑑定スキルを持つ人に鑑定してもらって、教えて貰う方法がある。鑑定眼鏡は人に使っても何故か鑑定できないので、この二つの方法しかない。
ルクスは自前の鑑定があるから自分で鑑定している。
ルクスが神殿の事実の石板を借りてレベル六十以上だと分かれば、騒ぎが起こるかもしれない。
それくらい、アルヒ王国の中でレベル六十は高レベルだ。
冒険者で例えると、レベル三十は大体、銀級で、レベル四十は金級、レベル五十は魔銀級、レベル六十は緋金級だろう。ちなみに、現在のアルヒ王国最上位冒険者はレベル七十くらいの金剛級冒険者三名だ。百年程前にレベル八十以上になった幻金級の冒険者がいたが、今はいない。
この場で、その事実を知らないのは、黄金の導の面々くらいだろう。
「ルクス君、すぐに神殿でレベルの証明書を貰って、冒険者ギルドに提出した方が良い。冒険者ランクがかなり上がるだろうから」
エーリヒは真面目な表情で、ルクスに勧めた。
「冒険者のランクが上がると良いことがあるんですか?」
「ああ、魔銀級以上になると、貴族と同等の扱いをされるようになる。具体的には、そこら辺の貴族の命令など聞かなくて良いようになるんだ。それに、大陸で冒険者ギルドのある国の国境を超えるときにお金が掛からないし面倒な審査もいらない。冒険者ギルドの魔銀級以上のカードを見せれば、それで良いんだ」
顔パスならぬカードパスができるんだ、と思いつつルクスはエーリヒの話を興味深く聞いた。
「冒険者ギルドは各国の各地に拠点がある民間団体だから、国の戦争とかに巻き込まれたとき、冒険者たちは逃げても良いことになっている。まあ、戦うも逃げるも本人の自由なんだよね、だから、冒険者は自由民なんだ。まあ、冒険者でありながら、街の市民権を持っている場合は、戦争に参加する義務が発生することになるけどね」
「市民権……ですか」
「うん、市民権がない場合、その街で働いたりするのがちょっと難しくなるね。あと、市民権を持ってる人と結婚することができないな。市民権を持ってる殆どの冒険者が、街娘と結婚する為に市民権を買ったりしてるね」
「そうなんですね……」
「まあ、市民権がなくても家は買えるし、冒険者として活動できるから、困ることは少ないだろうね」
「なるほど……教えてくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
エーリヒは微笑んだ。
一週間後、一行はトラブルもあったが、何事もなかったように、王都に戻ることができた。




