第38話 トアル村
黄金の導はいつものようにダンジョンに潜って、収集した魔石やドロップアイテムを買取カウンターで買い取ってもらった。
現在、黄金の導は二十層まで潜っている。
ダンジョン二十層で出る魔物は二十レベル。
ルクス以外の平均レベルが三十なので、安全マージンは取れている。
二十層のボスを倒しても得られる経験値が少なくなってきたので、ルクスたちはそろそろ、もっと下の層へ潜ろうとしていた。
「あ、ルクス君」
「こんにちは、フリッツさん」
「久しぶりだね」
「そうですね。冒険者ギルドのクエストを受けてないからかもしれません」
「ああ、ダンジョン関連のクエストは殆どないからね。仕方がないけど。それで、今は何層まで潜ってるのかな?」
「二十層ですね」
「!凄いね……中堅パーティー並みじゃないか。ルクス君たちは、そろそろ護衛依頼を受けても良いかもしれないね」
「護衛依頼、ですか」
「そう。銀級ランク及び銀級パーティーになる為に護衛依頼を受ける必要があるんだ。銅級パーティーでも、実力がないと受けさせないんだけど、君たちは申し分ない。僕から上に話しを通しておくから、ちょっと待ってね」
「ありがとうございます、フリッツさん」
「どういたしまして」
「あの、全然関係ないんですけど、質問しても良いですか?」
「なんだい?」
フリッツは首を傾げた。
「ダンジョンの洞窟って、いつも、白っぽい結晶がいくつも壁に埋まっていて、それが、灯りになってるじゃないですか、あの灯りってなんでしょう?」
「ああ、あれは灯石って呼ばれているね、ダンジョンにしか生成されない石で、取り出すと灯りが消えてしまう不思議な石だよね……ダンジョンの不思議としか言い様がないんだけど……こんな回答でも良いかな?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました、フリッツさん」
「どういたしまして、じゃあ、ルクス君もみんなも頑張ってね」
フリッツはギルドの事務所に戻っていった。
「ギルド職員さんってみんな忙しそうにしてるね」
バートが事務所にいるギルド職員を見て言った。
「うん、男性職員は受付にいる間は暇そうだけど、事務所に戻ると大変そうだよね」
「うん……大人になったら、あんな風に忙しく仕事をしなきゃいけないのかな?」
「いや、どうだろうね」
ルクスは前世で忙しく働いていたことを思い出しつつ、苦笑した。
「ま、何事も程々が良いよね」
「だね」
「ああ」
「うん」
「ええ」
あくせく働くよりも、適度に働きたい黄金の導一行であった。
「あれ、アスターは?」
「アスター君なら、さっき僕のフードに入ってきたような……」
ルクスとラエティティアがバートのフードを覗くと、小妖精王子のアスターが眠っていた。
「ふふ、帰ろうか」
「ですね、帰りましょう」
アスターを起こさないように、一行は喋り声を小さめにし、帰路についた。
一週間後、二十五層まで進んだ黄金の導が冒険者ギルドに行くと、フリッツに声を掛けられた。
「やあ、みんな」
「「こんにちは」」
「こんにちは、フリッツさん」
「こんにちは、さあ、みんなに護衛依頼が来ているよ」
フリッツはルクスに布の切れ端もとい依頼書を渡した。
依頼人は【バッハ商会】の商人エーリヒ・ベンダーだった。
「バッハ商会?」
「うん、王都でも指折りの商会の一つだね。エーリヒさんは噂によれば、バッハ商会の若手の一人で、真面目で優秀な商人らしいよ」
「「へぇー」」
「今回は王都近郊の村々を回って物資を売ったり、村々の特産品を買い取ったりするんだって。商隊を組むそうだから、護衛の一組として黄金の導に依頼したいってさ」
「えっと、どうして俺たちに依頼されたんでしょう?」
「あぁ、エーリヒさんの知り合いにクラウリーさんという方がいるそうなんだけど、その人に勧められたそうだよ」
アルイスター・クラウリーさんだ、とルクスはすぐに勘づいた。
「どうかな?受ける?」
「受けたい、のですが、その商隊はトアル村にも行きますか?」
「トアル村……」
フリッツは表情を暗くした。
「実はね、最近入ってきた情報によると、トアル村は盗賊に襲われて壊滅したそうなんだ」
「「え」」
ルクスとアラン、バートの三人は目を瞠った。
「盗賊は騎士団によって既に討伐されているらしいけど、痛ましいね……ルクス君、もしかしてトアル村に知り合いとかいたのかな?」
冒険者ギルドカードには出身地の欄があるのだが、記載しなくても良いため、ルクスとアラン、バートの三人は何も記載していなかった。
なので、フリッツは三人の故郷がトアル村だということを知らない。
「あ、いえ、大丈夫です。……あの、護衛依頼、受けます」
「そうこなくっちゃね。依頼人との面会日は、三日後の十時頃を予定しているから、当日は冒険者ギルドに必ず来るように」
「はい」
「じゃあ、僕は仕事に戻るね」
フリッツを見送り、黄金の導は冒険者ギルドを出て、噴水広場にやってきた。
二つ並ぶベンチに彼らは座った。
「アラン、バート、大丈夫?」
「うん……」
「ああ……」
「ちょっと、ショックだよね」
「そうだね、僕を売った親は当然の報いだって思うけど、兄さんたちに恨みはないし、ショックだね」
「俺も、兄貴たちには恨みはないから……」
「うん……(俺の場合、ストーリー以前にトアル村が壊滅してビックリしてる方が大きいけどね……)」
ルクスの前世の記憶によれば、ストーリーが始まってからトアル村は盗賊に襲われて壊滅する。
(ストーリーが早まっている……?否、ここは現実だから、予想外のことが起こっても仕方がない)
ルクスは仲間たちと、噴水広場にいる人々を眺めた。
待ち合わせをしている者もいれば、仲良く並んで座っている老夫婦や家族、恋人たちがいる。
(この平和を守る為にはもっと強くならなきゃいけない。現実だからこそ、もっと、強く……)
ルクスはぎゅっと拳を握って決意した。




