第37話 神話
今日も講義室にやってきたルクスはベネディクトゥスの授業を受ける。
「昨日までは文字と算術の授業でしたが、今日からは歴史の授業をさせていただきます」
そう、昨日までルクスは文字と算術の授業を受けていた。
因みに、アルヒ王国の数字は、アラビア数字によく似ているが、アラビア数字に少し装飾を施したような数字となっている。呼び方はアルヒ数字だ。
「今日は神話です」
ベネディクトゥスは神話について書かれた神書と呼ばれる本を開いた。
そして、神話を読み始める。
一日目、神々と混沌が産まれた。
二日目、神々は宙を作った。
三日目、神々は世界を創った。
四日目に、世界を管理する精霊。
五日目に、世界を守護する龍を。
六日目に、
虫、動物、魚、鳥、ありとあらゆる生命。
最後に自分たちの子供と言える存在を創った。
土塊から人をつくり
石塊からハーフリングをつくり
溶岩からドワーフをつくり
獣達から獣人をつくり
草木からエルフをつくり
海水から人魚をつくり
川水から魚人をつくり
夜霧から吸血鬼をつくり
朝霧から鬼人をつくり
吹雪から雪人をつくり
竜から竜人をつくり
子供たちと友だちになれるような存在も創った。
自由気ままな小妖精、気まぐれな幻獣、気高い神獣。
ある日。
外なる一柱の神とその眷属たちがやってきた。
彼らは破壊の限りを尽くした。
神々は地の底に外なる神と眷属たちを封印した。
だが、眷属たちに対する封印は外なる神に対してのものより弱く、壊れてしまうことがあった。
眷属たちは再び地上に現れた。
神々は自分たちの代理として人の中から勇者を立て、その眷属たちと眷属たちの王……魔物と魔族たち、そして、魔物と魔族たちの王、魔王を打ち倒した。
しかし、魔王は何度も復活してきた。
魔王は外なる神と繋がっている為、外なる神を倒さなければ復活してくるのだ。
いつか、外なる神を倒す者が現れることを願わん。
(外なる神……ゲームだと邪神としか言われてなかったんだけど、そんなことベネディクトゥスに聞けないし、別の事を聞くか)
ルクスは話を聞きつつ、そう思った。
「以上です。何か質問はありますか?」
「はい」
「ルクス様、どうぞ」
「俺が知ってる神話よりも今教えてくれた神話の方が長いのはなんでかな?」
「そうですね、民の間に一般的に知られる神話は、外なる神の存在を民が認知しないように短くしているのです」
「認知しないように?」
「間違っても外なる神を信仰しないようにする為ですね。外なる神は邪神ですので」
「ふぅん、つまり邪神を崇拝する集団がいるんだ」
「……(やはりルクス様は天才か)左様でございます。邪神教が古代より続いているようです。あまり知られてはおりませんが」
「そっか……(ストーリーの最後には邪神教も滅ぶから放置で良いかな……)」
「では、次に我々がいる場所を古代、支配していたウェトゥム帝国の歴史を勉強していきましょう」
「……はい」
難しい授業になりそうな予感がしたルクスは真面目な顔で頷いた。
授業を終えたルクスは暫く部屋でスキルについて思案していた。
|Sefirot Chronicleでは、スキルはクエストクリアの報酬や、ストア(課金専用)で売られているスキルスクロール。
もしくは、ジョブの獲得および昇格によって得られる。
ゲームが現実化した今、ストアは何処にあるのか、ルクスは気になっていた。
元々、ゲーム内にあったメニュー画面もルクスは呼び出せない。
プレイヤーとしてストアを利用することは、メニューが呼び出せないルクスには土台無理な話だろう。
(やっぱり、各地でクエストを消化するしかないか)
各地のクエストをクリアすると、報酬として稀にスキルスクロールを貰える。
ルクスが各地の情報を収集しているのは、スキルスクロールを得るクエストを断定する為でもある。
有用なスキルを得れば、ボスモンスターを倒す確率が増えるので、ルクスは手に入れる気満々だった。
(まだ身体が小さいから、身につけられる装備が限定されてる今のうちに、スキルとか収集できるものは収集して、未来に備えなくては)
そんなことを思いつつ、談話室に向かったルクスは、呼び鈴が鳴ったのを感知した。
談話室は玄関に比較的近いので、ルクスは玄関の方に向かった。
そこで、ベネディクトゥスが来客の対応をしているのを見た。
ベネディクトゥスなら大丈夫だろう、とルクスは引っ込もうとした。
「!ルクス様」
どこか緊迫感のある声色でベネディクトゥスはルクスを引き留めた。
ルクスは踵を返して、ベネディクトゥスの元にやってきた。
「えっと、どうしたの?ベネディクトゥス」
「ルクス様に王城からお客様です」
王城、と言われ、ルクスは「はて」と首を傾げた。
何かあったのだろうか、とルクスは王城からの使者らしき軍服っぽい礼装を纏った茶髪に茶目を持つ青年を見上げた。
「どちら様ですか?」
「ああ、俺は元帥の一人で、第三席のコンラートという。名誉元帥の坊主に印章を届けに来た。ついでに手合わせしたいんだが……」
「えっと、名誉元帥はここにはいないですね」
「さっき、こちらの御仁から、君が名誉元帥だと聞いている」
「……」
逃げようとしたルクスの首根っこを青年は掴んだ。
「まあ、良いじゃないか。手合わせくらい。手加減するからさ!」
「嫌です」
「ええー」
コンラートの隣で大人しくしていた文官風の男が口を開いた。
「コンラート様、陛下に言われたこと、お忘れになっておりませんよね?」
言われたコンラートは笑みを引き攣らせた。
「お、おう」
「では、シュトラウス様に印章を渡してください」
「はい……」
コンラートは文官風の男の言葉に従い、掌サイズの豪奢な箱をルクスに渡した。
「中には指輪型の印章と、印璽をセットで入れてあります。元帥および伯爵としての身分証明書のようなものですので、是非、大事にしてください」
「あ、はい」
「では、《《我々》》はこれで、失礼いたします」
文官風の男はコンラートの腕を掴んで強制的に豪奢な馬車に引っ張っていった。
「いつか手合わせをー!」というコンラートの叫びを聞かなかったことにしたルクスは、談話室に戻った。
そして、豪奢な箱を開いた。
印章と印璽はどちらも金で出来ていた。因みに、印璽はシーリングスタンプのような形だ。
そして、紋章が掘られている。
光が輝くようなマークと、その下に剣と杖が交差するようなマークが描かれた紋章だ。
箱には羊皮紙のメモが挟まっていた。
『ルクス殿へ。紋章はルクス殿の名前の意味が古代ウェトゥム語で【光を齎す者】だったので、それを参考に作った。剣と杖は、ルクス殿が剣と魔法を使えることから入れさせて貰った。いつかこの印章と印璽が役に立つことを願う。アルヒ国王シリウスより』
ルクスはメッセージを読み、シリウスの気遣いに感謝した。
自由の羽について陛下に手紙を書こう、と、ルクスは印章と印璽を机の上に置き、羊皮紙とインク壺、羽根ペンを取り出して手紙を書き始めた。




