第34話 神の工房
自由の羽とついでに虹の雫を魔法商店で購入した翌朝、ルクスはベネディクトゥスの授業を受けて自室に戻った。
そして、創造の神の工房への入場権を使った。
[神域へ移動します]
ルクスは光に包まれた。
次の瞬間、ルクスはとても広い作業場のような場所にいた。
[試練を開始します]
[試練達成条件︰創造の神の工房にある素材を使って【初級治癒ポーション】を作ること]
ルクスは工房内にある薬師が使うような作業場所にやってきた。
周囲にある棚には、様々な素材が瓶に詰められて、収められている。
(机の上に初級治癒ポーションの作り方が載った羊皮紙が置かれてる……親切な試練だな)
と思いつつ、ルクスは棚にある素材を鑑定して、初級治癒ポーションに必要な素材を取り出した。
初級治癒ポーションの素材は、ヒール草の葉っぱ五枚と魔石の粉五g、綺麗な水三百mlだ。
作業場には水瓶があり、机の上には薬研や、天秤、ビーカー、試験管、スポイトなどの器具も置かれている。
近くには火を扱うための場所があり、石造りの竈があり、幾つかの大きさの釜が置かれている。
ルクスは三百ml入りそうな釜に、百mlが入るビーカーで測った水を釜に入れていく。
三回で三百mlが入った。
ルクスは気になって水を鑑定した。
【神水】
神域の泉の水。
あらゆるものを清め、浄化する効果がある。
ポーションの素材としては最高の水。
ルクスはそっと鑑定結果を閉じて、気にせず作業することにした。
竈に薪を入れて、火属性魔法で火をつけた。
しばらくして燃え上がった炎を見たルクスは、薪をくべ、少ししてヒール草と魔石の粉の処理に向かう。
まずはヒール草だ。
瓶から、乾燥したヒール草の葉五枚を薬研で細かくする。
細かくしたヒール草を乳鉢で更に細かくし、粉末状にした。
机の上に置かれた引き出し付きの棚に収納されていた油紙を取り出したルクスは、油紙の上にヒール草の粉末を置いた。
そして、もう一枚の油紙を取り出し、天秤に目を向けた。
天秤の近くに置かれている五gと書かれた金属の重りである分銅を一方の皿に載せ、もう一方には、匙で取り出した魔石の粉を置いていく。
皿が水平になったのを確認したルクスは、魔石の粉の入った皿を天秤から取って、油紙の上に魔石の粉を流し込む。
皿を元の場所に戻したルクスは、水に目を向けた。
水は丁度、沸騰したところだ。
水は一度沸騰させ、中火にして少し温度を下げる必要があると作り方に書いてあるので、ルクスは中火にすべく、薪を三本程抜いた。
しばらくして火は中火くらいになり、湯の温度は少し下がった。
温度計で確認したルクスは、まず、ヒール草の粉を入れてかき混ぜ棒でかき混ぜる。
湯が薄い緑色になったところで、魔石の粉を入れた。
魔石の粉に含まれる魔力によって効果をかなり高めることができる。
この工程は、錬成と呼ばれる工程だ。錬金術師にも同じ用語があり、間違えられることが多いが、薬師の錬成は、薬効を高めたり、あるいは昇華させたりするという意味で使われることが多い。
錬金術師の場合、物質を全く違うものに変質させる場合を指すので、両者で言葉の意味は少々違う。
(さっきよりも鮮やかで少し濃い緑色になった)
釜には、緑色の鮮やかな液体が入っている。熱を加えた為、水分が蒸発して、三百mlよりも少ない量になっている。
およそ二百五十mlだろう。
空のポーション瓶に百ml程入れて、蓋をした。
ルクスが鑑定すると、【初級治癒ポーション】と表示された。
[スキル【調薬】を取得しました]
[最高ランクで試練を達成しました]
[宝箱を開けてください]
とても豪奢な宝箱が現れた。
ルクスが宝箱を開けると、中には黄金色に輝く液体の入った美しい瓶が置かれていた。
まさか、と思いつつルクスは鑑定した。
【エリクサー】
あらゆる傷と病、状態異常・精神異常・呪いを治すことができる。
蘇生もできる。
買取価格:不明
ルクスは困惑したような表情を浮かべた。
(お前、ゲーム終盤に出てくるアイテムだよな……)
大盤振る舞い過ぎませんかね、とルクスはぼやいた。
[退出しますか?はい/いいえ]
ルクスは「いいえ」を選択した。すると、淡い光の玉が現れた。
「こんにちは、ルクス。私は【創造の神の工房】の案内精霊を務めるリジーだよ。よろしくね」
「あ、うん、よろしく」
光の玉にしか見えないリジーに戸惑いつつも、ルクスは会釈した。
「ルクスは残る選択をしたけど、何かやりたいことがあるのかな?」
「ああ、【簡易蘇生薬】を作りたいんだ」
「じゃあ、レシピを用意しないとだね」
調薬の為の作業台の上に載っている『初級治癒ポーション』のレシピが光に包まれ、『簡易蘇生薬』のレシピになった。
「これで、どう?」
「ああ、凄いな、リジー。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして。じゃあ、帰るときは私を呼んでね。地上に送るから」
そう言うと、リジーは空気に溶けるように消えた。
「よし、簡易蘇生薬でも作るか」
ルクスはレシピを確認して、六人分の簡易蘇生薬を作るべく、アイテムボックスから素材を取り出した。
素材は乾燥させたヒール草の葉三十枚、乾燥させたワイバーンの心臓三つ、魔石の粉三十g、妖精の涙九滴だ。
妖精の涙は瓶に入った状態だ。九滴取り出すのは、後で良いだろう。
ルクスは、水瓶から水を九百ml掬って、釜に注ぎ、火をつける。
薬研でヒール草の葉とワイバーンの心臓を細かくして、乳鉢で磨り潰す。
やがて、粉になったヒール草の葉を沸騰させてから中火にした釜に入れた。
かき混ぜ棒でかき混ぜ、均等な緑になった湯にワイバーンの心臓の粉を入れた。
混ざると赤の強い茶色っぽくなった。
妖精の涙の入った瓶を傾け、九滴注ぐ。
そこへ魔石の粉を入れて、かき混ぜ、錬成する。
反応して淡い光を放った液体は、濃い赤色になった。
ルクスは空のポーション瓶に百mlくらいずつ注いだ。
合計六本のポーションができた。
ルクスは出来栄えを鑑定する。
【簡易蘇生薬】
ヒール草やワイバーンの心臓などを調合して作るポーション。
死亡して一時間内に飲めば蘇生する。HPを10回復する。
品質:最良
ルクスはガッツポーズをした。
「リジー」
「はーい。そろそろ地上に帰るの?」
「うん、俺を送ってくれると有難い」
「りょうかーい」
リジーがそう言うと、ルクスの身体は光に包まれた。
次の瞬間、ルクスは自室にいた。
「ふぅ、戻って来たか」
ルクスはベッドに腰掛けた。
(やれることは全部やったから、ダンジョンに潜っても大丈夫だな)
と考えつつ、ルクスは、少し昼寝をすべくベッドに横になった。
すぐに眠気を感じたルクスは、微睡に身を任せた。
翌日のお昼過ぎ。
ルクスと黄金の導の面々は、玄関で忘れ物チェックをしていた。
「防具は身につけた?」
「「はーい」」
「武器は持った?」
「「はーい」」
「ポーションは?」
「「おっけー」」
「自由の羽については?」
「「秘密ー」」
「よし、じゃあ、初めてのダンジョン探索に行くぞ!」
「「おー!」」
黄金の導は元気良くダンジョンに向かった。
本日、ルクスたちが向かうダンジョンは昔、鉄鉱石が産出されていたが産出量が減り、廃坑になった場所にできたダンジョンだ。
廃坑の跡地である人工的に掘られた空間を少し行くと、地下へと続く階段が見えてくる。
階段から下がダンジョンだ。
「みんな、準備は良い?」
「お、おぅ」
「ぼ、僕も大丈夫」
「私は大丈夫ー」
「私も大丈夫です」
アランとバートはびびっているが、女性陣とアスターは問題なさそうだ。
(女の子の方が肝が座ってるなぁ。……アスターは男の子だけど)
と思いつつ、ルクスは口を開く。
「じゃあ、出発!」
ルクスは先陣を切って、階段から降りていく。
カンテラの灯りで階段を照らすが、先は殆ど見えない。
灯りの向こうに広がる闇を見て、ルクスは思う。
(お前が深淵を覗くとき、深淵もまたお前を見ているのだ、って感じかな?)
暫く階段を降りていくと、先の方に漏れ出る光を見い出した。
ルクスと仲間たちは、光に向かって階段を降りていった。




