第33話 その羽は自由を授ける
一週間後。
ベネディクトゥスの授業を終えたルクスたちは、いつものように冒険者ギルドで依頼を受けて、ゴブリンたちを討伐し、薬草を採取し、いつものように冒険者ギルドに戻ってきた。
だが、今日はやけにフリッツがにこにこしている。
今日の報酬を受け取ったルクスたちはフリッツに引き留められた。
「皆さん、今日は良いお知らせがあります。皆さんと皆さんのパーティのランクアップが決まりました」
フリッツはいつもと違って敬語を使っている。
後ろに威厳のありそうな厳ついお爺さんがいるからだろう。
「「おお」」
「「わぁ」」
黄金の導の面々は歓喜の声を上げた。
「通常であれば、あと三回クエストを受ける必要があるのですが、皆さんの勤務態度が良いことと、皆さんの実力が申し分ない為、ランクアップとなります。ギルドカードを新しくするので、古いギルドカードをご提示いただけますか?……ルクス君はすでに銅級なので、今回のランクアップの対象外になります。ごめんね」
「いいえ、大丈夫です」
ルクス以外の黄金の導のメンバーたちはギルドカードをフリッツに渡した。
そして、銅の新しいギルドカードを受け取った。
「これが、皆さんの新しいギルドカードです」
「「わぁ」」
ラエティティアも、アラン・バート・クラーラも全員、新しいギルドカードを眺めて目をキラキラさせている。
すでに銅級のルクスは微笑ましそうに眺めていた。
「皆さん、銅級になりましたので、ダンジョンに潜れるようになりますが、くれぐれもご注意ください。ダンジョンでは、同じ冒険者も敵になり得ることがありますので」
「え?同じ冒険者が?」
「どの業界にも、タチの悪い者はおります。冒険者も良し悪しがあります。見た目に騙されることもあります。……兎に角、初対面の人を信じてはいけませんよ。良い人に見えても悪人だということがありますから」
「……肝に銘じます」
「ルクス君なら大丈夫でしょう。黄金の導となって、皆さんを導いてくださいね」
「ハハ……ガンバリマス」
パーティー名の由来に因んで、応援されたルクスは乾いた笑いを溢した。
「では、俺たちは帰りますね」
「はい、帰りも気を付けてくださいね」
「「はーい」」
黄金の導が去った後、フリッツは振り返って、厳つい老人に声を掛けた。
「ギルドマスター、いかがですか?」
「いかがも何も、儂には普通のガキどもにしか見えなかったな」
「ギルドマスター……確かに、彼らはまだ子供ですが」
「否、一人だけ突出した才を持った奴がいたな」
「……ルクス君ですか」
「ほう?なんだ、お前のお気に入りか?」
「お気に入り……そうかもしれませんね、彼はとても良い少年ですから」
「良い悪いは儂には関係ないな。強いか弱いかだ。あれは強い。将来はバケモン並みになるだろう」
是非とも戦ってみたいものだ、とギルドマスターは呟いた。
「今、戦うとか言わないでくださいよ?」
「勿論だ。儂と同じくらい……否、それ以上に強くなった頃に戦ってみたいな」
早く強くなってくれんかな、と言ってギルドマスターは獰猛な笑みを浮かべた。
フリッツはギルドマスターから僅かに漏れる殺気を感じ、鳥肌が立つ。
怯みそうになる自分を叱咤し、言葉を紡いだ。
「今はダメですからね、頼みますよ……」
「勿論だ」
ギルドマスターは先程の殺気が嘘のように、穏やかな微笑みを浮かべた。
「今はな」
そう言って、ギルドマスターは二階の執務室に向かった。仕事を片付ける為に。
「はぁ……」
フリッツ含むギルド職員たちは何事もなかったかのように、仕事に戻った。
ギルドを出た黄金の導の彼ら。子供だけのパーティーは珍しく、見慣れていない者は物珍しそうにジロジロ見てしまう。
既に見たことがあり、見慣れている者は普通に通り過ぎるが。
「あ、みんな、俺、寄るところがあるから、先に帰ってて」
「まあ、因みに、どこに寄られるのですか?ルクス様」
「魔法商店だね」
「「魔法商店!」」
皆、目を輝かせ、興味津々の様子だ。勿論、ラエティティアも行きたそうにしている。
「……はあ、じゃあ、みんなで行く?」
「「勿論」」
ルクスは苦笑しつつ、全員で夜明けの魔法商店にやってきた。
「これはこれは、ルクス君……今日は大所帯だね」
アルイスターは珍しい光景に目を丸くしている。
「はい……友達なんです」
「ルクス君にお友達がいたんだね」
「え?俺って友達いないように見えてたんですか?」
「単独行動に慣れているようには見えるな」
「ああ……」
生涯独身だった前世を持つからだろうか、とルクスは思い、ちょっぴり納得した。
「たんどくこーどーってなんだ?」
アランは単独行動の意味が分からず、バートに質問した。
「うん、そうだな……一人で行動するって意味だよ」
「へぇ……でも、ルクスって結構俺たちと遊んでたよな?」
「そうだね」
「つーことで、おっさん!ルクスはたんどくこーどーに慣れてないぞ!」
「え、ああ、分かったよ、少年……因みに、俺はまだ三十五歳だから、お兄さんと呼びなさい」
「俺より二十以上も年上なんだよな?おっさんで良いと思う」
「うぐっ」
アルイスターは精神的なダメージを負った。
「アラン……大人になっても心はいつまでも若いまま、らしいからさ」
「でも、身体は歳取ってるだろ?」
「うん、容赦ないね、アラン……」
アルイスターを擁護するバートの言葉をばっさり切ったアラン。バートは苦笑した。
「で、ルクス君はなにをお求めかな?」
「ダンジョン産の白い羽を」
「ああ、あれね。あれも全然、使えないから、冒険者がここをゴミ置き場代わりにしていくんだよね……って、もしかして、ルクス君?」
「そうですね、アレも使い道がありますよ」
「いっぱい譲るから、使い道を聞いても良いかな?」
「勿論です」
ルクスは麻袋に詰まった白い羽を受け取りつつ、笑顔を浮かべた。
どんどんやってくる麻袋をアイテムボックスに収納したルクスは、アルイスターを見上げた。
「この白い羽は鑑定しましたか?」
「鑑定眼鏡で鑑定してみたが、【自由の羽】っていう名前だけしか分からなかった」
「鑑定眼鏡はレア度が伝説でしたもんね」
「レア度、まさか、この白い羽は……」
「ええ、レア度が幻想なんです」
「幻想……実在していたのか」
「ええ」
「待てよ、名前しか分からなかった虹の雫は?」
「あれも、レア度が幻想なんです」
「なるほどな……」
アルイスターは納得したように頷いた。
子供たちが訳が分からないという表情を浮かべているのを見たルクスは、解説を始める。
「あー、みんなレア度を知らないようだから、解説しよう」
ルクスはレア度について説明した。
レア度は普通・希少・英雄・伝説・幻想・神話まであり、普通が一番低く、神話が一番高い。
「例えるなら、冒険者のランクみたいな?」
「そんな感じかな?まあ、レア度は、この世界の仕組みの一つのようなものだから、作り手は違うけど、仕組み的には似ているね」
「なんか、難しいな」
アランは眉間に皺を寄せた。
「私は分かったと思う」
クラーラは挙手する。
「クラーラさん、どうぞ」
クラーラは笑顔で言った。
「レア度はご飯のグレードと同じ。お父さんのご飯は神話級」
「……まあ、そんな感じで良いと思うよ」
ルクスは苦笑しつつ、ラエティティアの近くにやってきた。
「ラエティティアは分かった?」
「はい、ルクス様の説明は分かりやすいですもの」
「そっか、良かった」
照れたように頭を掻くルクスを見て、アルイスターはほほぅ、と興味深そうに発した。
戻ってきたルクスだけに聞こえるよう、小声で話しかけた。
「あの娘とは良い仲なのだね?」
「っ、今は友達です」
「ふぅん?」
アルイスターは若いなぁ、と言いつつ、はっとした。
(このままでは本当におっさん……そして、独身のままお爺さんに……婚活、婚活をしなければ……!)
密かにアルイスターは決意した。
(今は、あのダンジョン産の自由の羽について話をしないとな)
と気を取り直したアルイスターは、ルクスに笑顔を向けた。
「それで、自由の羽の使い道は?」
ルクスはこっそり、自由の羽を自分のスキルである鑑定で鑑定しつつ、言った。
「自由の羽ですね、使い方はとっても簡単。行先を告げれば良いのです」
「行先を……告げる?」
「はい。アルイスターさん、この羽を使って行ったことのある場所の名前を告げてください。あ、帰りはこの羽を使ってください」
ゲームではマップを開いて行ったことがある場所をクリックすると、移動と共に自由の羽が消費される仕様だった。
だが、今、ルクスが鑑定したところ、行先を告げる仕様になっていた。
ルクスはマップを持っているが、他の人は持っていないから、この仕様なのだろう。
「こほん、あー、【海上都市ベルムマレ】」
アルイスターが自由の羽を持って、そう言うと、彼の姿は光と共に消えた。
そして、暫くすると、夜明けの魔法商店の入口の扉が開いた。
アルイスターが戻ってきたのだ。
「驚いたな、店名を告げても良いとは……これは、使い方が知れれば争奪戦になるぞ。貴族は挙って争奪戦に参加するだろうし」
「でも、今は俺たちとアルイスターさんしか知らないですよね?」
「そう……だな、私は君と秘密保持魔法契約を結んでいるから、情報を漏らすことはあり得ないが……」
「俺たちから情報が洩れる可能性もあるけど、実際に使っているところを見られてしまうことも有り得るし……」
「はあ、厄介な情報を……」
「対策なら一応ありますよ」
「……聞こうか」
アルイスターは期待せずに耳を傾けた。
「自由の羽の使い方を教えて売る」
「却下」
「ですよねー」
ルクスは「この手は使いたくないんだけどなぁ」と、溜息を吐きつつ、懐からブローチを取り出した。
「これ、この前、貰ったんですけど」
「は?宝石に獅子の紋章のブローチ……おいおい、俺でも知っているぞ?アルヒ王国の元帥が付けるブローチじゃないか?」
「はい、先日、国王と王妃のお二方の命を救いまして、名誉元帥に任命されました」
「……もしかして、王城に襲撃があったって噂は本当だったのか?」
「はい」
「はぁーー……」
アルイスターは深々と溜息を吐いた。
「まさか、こんな坊やが名誉とはいえ、王国の元帥とは……国王様も思い切ったねぇ。で、君はそれを利用してどうするんだい?」
「名誉元帥として、手紙を書いて、登城して、陛下にこの情報を売ります。いずれは民間に解放してもらうようにお願いします。陛下に情報を売るまでは俺たちがこっそり使おうと思っています」
「はあ、ルクス君ならできそうな気がする……くれぐれも不敬な発言をしないようにね」
「はい。分かりました。ただ、印章を貰ってないので、届いたら陛下に手紙を書こうと思います」
「それがいいね。ちなみに、こっそり利用できる算段はあるのかい?」
「魔法を使います」
「魔法……属性魔法に姿を隠せる魔法はなかったと思うが……闇属性なら幻惑魔法で姿を変化させられるが、流石に姿を隠すのは難しいし……」
アルイスターはさっぱり分からん、と言ってルクスに視線を向けた。
「そこは、秘密です」
ルクスは人差し指を唇に当てて、にやりと笑った。




