第28話 魔族襲来
授かったジョブと新しい装備の話を楽しくしている子供たちと、それを見守る大人たちを連れて、ルクスは帰路に就く。
(懐にまだまだ余裕はあるけど、大分使ってしまったな)
稼がないとな、とルクスは思いつつ、ふと空を見上げた。
そこには空を飛ぶ男がいた。正確には、蝙蝠のような翼と、山羊のような角を持った男だ。
咄嗟にルクスは鑑定し、ステータスを見た。
【NO NAME】
種族:下級魔族
性別:男
年齢:???
レベル:50
???
魔族。
ルクスの現在のレベルは三十六。
一瞬戦うのを躊躇したルクスだが、ストーリー開始前に、魔族が王城を襲うという事件があったことを思い出した。
(確か、事件によって、勇者の父と母である国王と王妃が亡くなってしまうんだよね)
ルクスは思い出すと、ベネディクトゥスに声を掛けた。
「ちょっと用事を思い出した。先にみんなを連れて帰っていて」
「かしこまりました」
ルクスは王城に向かって走り始めた。
(走っているだけじゃ追い付かないだろうな)
路地裏に入ったルクスは風をイメージした。
ドン、と勢いよく飛び上がったルクスは、自分の下に竜巻を出した。
その竜巻に上手く乗れるように、ヘレナが購入した反物の一つを広げた。
(ヘレナさん、すみません)
と心の中で謝りつつ、反物によって舞い上がったルクスは、竜巻を操作して、反物に風を送り、勢いよく王城に向かった。
王城の上部には穴が開いており、中から煙が上がっているのが見えた。
ルクスはその穴から王城内に入った。
中では、魔族が巨大な黒っぽい炎を国王っぽい人と王妃っぽい人に向かって投げようとしているところだった。
(凍らせよう)
ルクスは一か八か、黒っぽい炎を凍らせるべく自分の魔力を通じて大気に漂う魔素を操作した。
(外側から急速に内側に侵食、支配する……)
そして、大量の魔素を使って、黒っぽい炎に干渉し、炎を転換して凍らせて、ルクスの支配下に置いた。
ルクスはこの時代で誰も成し得ていないことを、成した。
「お前は何だ」
魔族の言葉は違う言葉の筈なのに、ルクスには不思議と分かった。言葉の指輪の効果だろう。
ルクスは何も応えずに、国王たちの前に立って、魔族と対峙した。
ミスリルの剣に魔力を通したルクスは剣術を使うことにした。
「【刺突】」
ルクスは魔族に向かって走り、剣で貫こうとした。
「ふん、そんな剣では傷一つ……がっ、ば、馬鹿な」
ミスリル剣は魔族の腹部に吸い込まれるように突き刺さった。
ルクスは反撃を警戒して、すぐに剣を抜き去り、距離を取った。
「我、下級だけど、魔族なのだが……?な、ぜ……」
魔族は今の攻撃が致命傷となったようで、暫くすると砂のようになって消えた。
そして、沢山のホログラムウインドウが現れた。
[レベルアップしました]
[創造の神エヘイエーが貴方の創意工夫に注目し、貴方を称えています]
[【創造の神の工房への入場権※回数制限有り(30/30)】を得ました]
[叡智の神ヨッドが貴方の発想力に注目し、貴方を称えています]
[【叡智の神の書庫への入場権※回数制限有り(30/30)】を得ました]
[美の女神エロハが貴方の魔法の芸術的な美しさに注目し、貴方を称えています]
[【美の女神の工房への入場権※回数制限有り(30/30)】を得ました]
[勝利の女神アドナイ・ツァバオトが貴方の勝利に注目し、貴方を称えています]
[【勝利の女神の訓練場への入場権※回数制限有り(30/30)】を得ました]
ルクスは目を瞬かせた。
(入場権……ゲームでは一回限りの入場券だったような……)
【Sefirot Chronicle】でも、特定のクエストを達成すると、神々の持つ領域に入れる券を貰うことができた。そこで試練を経ると宝箱を得ることができた。だが、権利を貰った者は誰一人いない。
(回数制限有り……30/30って書いてあるから、もしかすると30回入れるのかな?ま、行ってみれば分かるだろう)
ルクスは視線を感じる方へ振り返った。
そこには玉座があり、国王と王妃、騎士たち、そして文官たちがいた。横には貴族らしき者の姿もある。恐らく、この貴族が謁見に来ていたのだろう。
「えーっと」
「色々と聞きたいこともあるが、まずは礼をさせて欲しい。私たちの命を助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
「此処で話すのは難しいだろう、応接室に案内しよう」
「……はい」
ルクスは後先考えずに助けることを優先したことを、ちょっぴり後悔しつつ、国王と王妃に連れられて応接室にやってきた。
「まず、君の名前を教えてくれないか?」
「ルクスといいます」
「ルクス殿、君はラファル帝国の皇族の方だね?」
「えーっと、俺はこの国の農民の五男です。目の色が金色なだけで、平民です」
国王と王妃は顔を見合わせた。
「しかし、君は尊い血を引いているだろう。そのことを帝国は知らないのかな?」
「知らないと思います。今まで接触は無かったので」
「ふむ……分かった。君が尊い血を引こうが引かまいが、我らの命を救ってくれた。君には大金貨千枚を渡す。それと、名誉元帥に任命し、爵位を伯爵としよう」
「え゛」
「なぁに、名誉元帥はその名の通り名誉なだけで業務はない。伯爵も名誉元帥に付随する爵位だから、特に何もしなくて良い。毎年、役職手当が貰えるくらいだ」
「はぁ……」
ルクスが呆然としている間に、国王は横にいる侍従に手配を任せてしまった。
「さて、私たちの自己紹介もせねばな、私はアルヒ王国の国王で、シリウス・アルヒという。よろしくな」
改めてルクスは国王と目を合わせた。
国王の瞳はシルウェステルと同じ青で、髪は茶色だった。
「わたくしは、王妃を務めております。イザベラ・アルヒと申しますわ」
イザベラはシルウェステルと同じ金髪と、鮮やかな緑の瞳を持つ。
「よろしくお願いします……」
その時、応接室の扉がノックされた。
「ふむ……」
国王は客人がいるのに、と呟きつつ、どうぞ、と声を掛けた。
「父上!」
入ってきたのは、茶髪に緑の瞳を持つ優しげな美青年と、金髪に緑の瞳の美女と、茶髪に青い瞳の美少女、そして、シルウェステルだった。
入ってきた四人は急いで父母のもとにやってきた。
「父上、襲撃されたとお聞きしました。お怪我はないのですか?」
「ああ、この方のお陰で無事だ」
「この方……、あ、失礼しました。来客中だったのですね」
「私たちを心配するのは良いが、時と場所は弁えなさい」
「「はい……」」
しゅん、と落ち込んだ様子の四人。
「まぁまぁ、あのような惨状では、心配になるのは仕方がないと思いますよ?」
ルクスは執り成すように言った。
「ふむ、そうだな、ルクス殿が言うなら仕方がない」
「え、ルクス?」
シルウェステルがルクスにやっと気付いた。
何で此処に、とシルウェステルの口がぱくぱく動いた。
「む、シルウェステル、知り合いか?」
「あ、えっと、先日、私を救ってくれた者です……」
「なんと!ルクス殿は我が息子の命の恩人でもあったか!」
国王は愉快愉快、と笑った。
「これからも縁がありそうだな……そうだ、我が息子娘を紹介しよう。優しいが気が弱そうなのが、長男のシギスムンドゥスだ」
茶髪に緑の瞳を持つ優しげな美青年──シギスムンドゥスは苦笑し、紳士らしくボウ・アンド・スクレープをした。
「父上と母上を助けてくれて、ありがとう。それから、よろしくね、ルクス殿」
「はい、よろしくお願いします」
金髪に緑の瞳の美女が前に出て、見事なカーテシーをした。
「わたくしはアイリス・アルヒ。第一王女ですわ。この度はお父様とお母様を助けて下さり、本当にありがとうございます。どうぞ、よしなに」
「あ、はい、よろしくお願い致します」
シルウェステルは苦笑しつつ、前に出て、ボウ・アンド・スクレープをした。
「僕のことは知っているもんね」
「うん」
「父上と母上を助けてくれて、ありがとう。また、遊びに来てね」
「えーっと、努力するよ」
惚気を聞かされるのは嫌だから、あまり行きたくないルクスだった。
「あ、あの、わたくしはイレーネ・アルヒと言います。お父様とお母様を助けてくれて、ありがとうございます」
茶髪に青い瞳の五歳くらいの美少女がおずおずと礼を言った。
ルクスは微笑ましく思った。
「どういたしまして」
ルクスは微笑みを浮かべた。
「ルクス殿、晩餐を共にしないか?」
「あ、えっと、家族が家で待っていますので……」
「そうか、では、これを」
国王はルクスに金のメダルを渡した。メダルには、一本の剣と王冠を被った獅子が刻まれ、獅子の目に青い宝石がはめ込まれている。
「これがあれば、私の執務室にいつでも来ることができるだろう。いつでも、遊びに来なさい」
「あ、はい」
「丁度、準備も整ったようだ」
扉がノックされ、羊皮紙の書類や何かが詰まった革袋などを持った侍従が入ってきた。
「陛下、渡しても宜しいですか?」
「ああ」
「では、ルクス様、こちらが伯爵の任命書です。家名は王族の命の恩人に相応しいものを付けさせていただきました」
受け取った羊皮紙に記載されたルクスの名は『ルクス・フォン・シュトラウス』だった。
「因みに、シュトラウスという苗字の由来は『花束』です」
「えっと、考えてくれたんですか?」
「いえ、元帥になられる方には予め、用意された苗字がいくつかあり、その中から選ぶだけですので……」
「なら、選んでくれたんですよね?ありがとうございます」
「とんでもないです……」
侍従は恐縮しつつ、次の書類と小さな木箱をルクスに渡した。
「これは、名誉元帥任命書です。そして、この箱に名誉元帥を示すブローチが入っています。公式の場では必ず身につけて下さい」
「あ、はい」
ルクスは受け取りつつ、公式の場には行きたくないな、と思った。
「印章については、後日、お届けします。それから、こちらが大金貨千枚です」
ルクスは大きな革袋を渡された。
「ありがとうございます」
お金はいくらあっても困らないものだから、ルクスは有り難く受け取り、アイテムポーチに入れた。
「名残惜しいが、もう日が暮れる。ルクス殿、騎士を付き添わせるが良いかな?」
「はい」
「エッシェンバッハ卿、ルクス殿をしっかり送りなさい」
エッシェンバッハ卿は近衛騎士団の騎士団長だ。
「はっ」
ルクスは王族たちに挨拶して、騎士団長に付いていった。
「父上」
「なんだ、シギスムンドゥス」
「あのように幼い子供が本当に魔族を倒したのですか?」
「本当だ。儂も王妃も宰相も見ている」
「あの歳で魔族を倒せるとなると将来が恐ろしいのですが……」
「今は素直で良い子供だ。彼が真っすぐ育つように王家の影も付けるつもりだ。心配するな」
「……はい」
「そうですわ。お兄様は心配のし過ぎです」
「兄上の心配性は生まれつきでしょうから、仕方ないですよ」
「……お兄様、かわいそう」
弟妹から散々な言われようだ。
「お前たち……」
シギスムンドゥスは怒りに震えた。
「「きゃー、お兄様が怒ったー」」
わー、と言いながら、弟妹たちは、ぱたぱたと小走りで部屋から出ていった。
「はぁ、まだまだ、落ち着きがないですね」
「くく、そうだな」
「私は妹と弟たちの元に向かいますが、父上、母上は?」
「私は王妃と謁見に来ていた貴族の対応に戻る。謁見の間があんなだから、客間で行うことになるだろう」
「かしこまりました。では、失礼します」
シギスムンドゥスは退出した。
「ふぅ、それにしてもルクス殿は、凄まじい実力を持っていたな」
「ええ、味方であればこれ以上、心強い方はおりませんわ」
「そうだな。味方であって貰えるよう、努力せねばな」
「あら、でしたら、まずは、その余計な贅肉を減らす努力でもしたらいかがですの?」
国王はちょっと肥満気味だった。
「うぐ、そろそろ騎士団の訓練に参加するか……」
「今日から参加されたら?」
「……はい」
まずは、貴族との謁見を済ませてからね、と国王は王妃にドナドナされていった。




