第22話 王城と王子さま
中心地に向かいながら、ルクスは思う。
(冒険者活動したいけど、その前に行かなきゃね)
ルクスは貴族街を囲む外壁の向こうに見える王城を見上げた。
(勇者様とあの子はどう過ごしてるかな)
いちゃいちゃしてたら揶揄ってやろう、と思いつつ、ルクスは貴族街に向かった。
「すみません、これを」
ルクスは貴族街の門の前にいる門番の一人に王子シルウェステルから貰った金のメダルを見せた。
「む、これは……!殿下の紋章の付いたメダル、すみませんが、王城に確認しますので、名前をお聞かせください」
「ルクスです」
「ルクス様ですね、少々お待ちください」
門番はもう一人の門番に警備を任せ、中に入って王城の方へ走っていった。
ルクスは残されたもう一人の門番──茶髪に茶目の中年兵士を見上げて、にこっと笑った。
中年兵士は戸惑いつつ、へらりと笑った。
(色々教えてくれそうな、おじさんだな)
と判断したルクスは問いかけた。
「ねえ、門番さん。どうして貴族街の周りには壁があるの?」
「外壁か。あれは王族と貴族の皆さんを守る為に設置されているんだぞ、坊や」
「そうなんだ。因みに、貴族街の建物は平民街とか商人街の建物とは違うの?」
「そうだなぁ、貴族街と言っても、実際は三区に分かれているんだ。真ん中は王族が住まう王城とかがあって、王城の周りに城壁がある。その外側に王城に勤めている貴族たちの住まいとかがある区画になっていて、その周りにも外壁がある。さらにその外側には王族や貴族向けの店舗が並ぶ区画がある。その三区を総称して、貴族街と呼ばれることが多い。本当は中央区って呼び名があるんだがな」
「そうなんだ~。もし、貴族とか王族の方と面会するときは、どんな作法が必要なんだろう?門番さん、教えて欲しいな」
ルクスは無邪気な子供を装って、門番から作法を聞き出す。「わぁ、そうなんだ!」とか、「色々知ってるんだ、凄いね!門番さん」とか、おだてながら様々な情報をルクスは引き出し、シルウェステルとの面会で最低限のマナーを保てそうな状態になったと判断できたところで、もう一人の門番と騎士らしき人物が戻って来た。
「ルクス様…ですか?」
騎士らしき男が問う。
「はい」
ルクスは返事をしつつ、メダルも見せた。
「確認が取れましたので、王城に向かいます。案内しますので、どうぞこちらへ」
「はい、ありがとうございます。あ、門番さん、ありがとう!」
「どういたしまして」
ルクスは門番に挨拶してから、迎えに来た騎士のすぐ後ろを歩くようにして付いていく。
ルクスの格好は貴族か豪商の子息が着ていそうな礼装なので、貴族街で浮くことはなかった。
やがて、中心地である王城に辿り着く。
騎士はルクスを城の一室──応接室らしき部屋に通した。
「少々お待ち下さい」
ルクスは大人しく下座に座ってシルウェステルを待つ。
待つ間、ルクスはマップで王城内を見ることにした。
王城内に三人他国のスパイがいた。
洗濯女に一人。
庭師に一人。
文官に一人。
マップによると、どのスパイも見習いらしい。
(……一応、勇者に聞いてみよう)
と、ルクスが心に決めた丁度その時、扉がノックされた。
ルクスは立ち上がって、ソファーの横に控えた。
「失礼する」
騎士を伴ったシルウェステルと侍女の格好をしたレヴァナがやってきた。
「ルクス殿、座られよ」
「はっ」
ルクスとシルウェステルは対面に座った。
「まずは、此度、私の命を救ってくれたこと、礼を言う」
ルクスは首を傾げそうになったが、シルウェステルの眼力に気圧され、留まった。
シルウェステルは、目に力を込めて何かを訴えるような表情をしている。
「……はい」
シルウェステルに合わせるべく、ルクスは肯定した。
「褒美として、感謝状と、アルヒ王国の宝物庫から好きな宝物を一つ選ぶ権利を与える。勿論、これは私の父──国王陛下も許可されている」
これが感謝状だ、とシルウェステルが羊皮紙のスクロールをルクスに渡した。
そこには感謝の言葉と、権利についての内容が記載されている。
ルクスは懐に仕舞うフリをしつつ、アイテムボックスに仕舞った。
この感謝状、あるのとないのとでは大違いだ。
もし、感謝状もなく、宝物庫から宝を受け取った場合、王家の宝を盗んだのではないかとされて、もしかしたら捕まるかもしれない。その時、許可を出した国王もシルウェステルもいなければ、ルクスは最悪処刑される。
なので、何時何時誰々が許可を出したのか分かる資料があるということは、リスクを軽減することができる要素になる。
「さぁ、宝物庫へ行こうか」
シルウェステルに案内され、ルクスは宝物庫にやってきた。
ここには、王族と招かれた者しか入れない。
レヴァナと騎士はお留守番だ。
「はぁーー、王子ってかったるいよね」
「え」
「レヴァナと結婚できれば何でも良いから、王子じゃなくても良いかもしれない……」
「えぇっと?」
「ああ、ごめんね?自分の世界に入ってしまって……」
「いいえ」
「そうそう、なんで、僕の命の恩人って言ったのかといえば、父上にそう伝えてしまったからなんだよね」
「はぁ……って、ええぇ!?」
「ごめんごめん。そう言っとかないと君にお礼できそうになかったからさ」
「いや、俺はお礼無くても別に」
「受けた恩は返す。レヴァナが受けた恩も僕の恩だから、僕が返す。それが僕の矜持なんだよ」
「殿下はレヴァナさんのことが凄く好きなんですね」
「愛していると言っても過言ではない」
「はは……」
「まあ、その話は長くなるから今はしない。君は宝物庫の中から好きなものを選ぶと良い」
「はい」
ルクスは宝を探しに行こうとして立ち止まった。そして、シルウェステルの方を振り返った。
「?どうした」
「少し、疑問があって……」
「なんだ、言ってみろ」
マップスキルのことを伝えたらシルウェステルはルクスのことを危険視するかもしれない、とルクスは思ったので、言い淀んだが、良心に従おう、とルクスは決めた。
「スパイが三人いるようですが、大丈夫ですか?」
「ふむ、父上も私も把握している。だが、ルクス殿はどこでそのことを知ったのだ?」
「(やっぱり警戒されてるーー)スキルです」
「ほぅ?便利なスキルがあるものだな」
シルウェステルの目が鋭く光った気がして、ルクスは冷や汗を掻く。
が、一拍置いてシルウェステルの顔が少し緩んだと思ったら、破顔した。
「ははは、焦らずとも良い。そのようなスキルをルクス殿が持っていても気にはせん。レヴァナを救ってくれたルクス殿には大恩があるからな」
そう言うシルウェステルの目には感謝の色が確かに浮かんでいる。
「それに、ルクス殿はスキルを悪用する御仁ではないと分かっている。現に、私に忠告してくれた。これは、信頼に値する」
シルウェステルは右手を差し出した。
「ルクス君。私、いいや、僕と友だちになってくれるかな?」
「いいよ、友だちになろう」
ルクスはシルウェステルの右手を自身の右手で、ぐっと掴んだ。
握手した二人は談話しつつ、宝物庫を巡ることにした。




