第20話 お化け屋敷?
冒険者街の西表通り沿いにある冒険者ギルドにやってきたルクスは先程と同じ受付にやってきた。
「あ、ルクス君。じゃなくて、さん」
「はは、君で、あと敬語もなしで大丈夫ですよ。えっと、受付のお兄さん」
「じゃあ、ルクス君。僕のことはフリッツで良いよ」
「フリッツさん、よろしくお願いします」
ルクスはアイテムポーチから二つの麻袋を取り出した。
「こっちはヒール草十本です。こっちはゴブリン五体の右耳です」
「!確かに。ルクス君、ゴブリンはどうしたの?」
ルクスは経緯を話した。
「そうか、薬師の女性を助けられて、偉いね、ルクス君。でも、あまり危険なことはしないように、気を付けてね」
「はーい」
ルクスはフリッツが学校の先生のようだと感じた。
(俺、前世の記憶を持ってるのだし、もっとしっかりしないとな)
と思いつつ、ルクスはフリッツの説明を聞いた。
「ヒール草は丁寧に採取しましたね。折れてもいないし、根っこもちゃんとある。評価段階は『A』で、報酬は銅貨八枚だね」
「評価段階?」
「ああ、説明してなかったね。評価段階は依頼の達成内容を評価するためのものなんだ。下からD・C・B・A・S・SS・SSSの七段階ある普通はBで、悪いとCかD。君の場合は優秀だからAって感じだね。評価段階が優秀だとランクが上がりやすくなるよ」
「そうなんですか、教えてくれてありがとうございます」
ルクスはぺこりと頭を下げた。
「どういたしまして」
フリッツは微笑む。机の下で手がぴくっとなる。
ルクスの頭を撫でたい衝動に見舞われたからだ。
「ゴブリン五体の討伐も確認しました。討伐報酬として銅貨五枚。計百三十エンだよ」
ルクスは銅貨を大事そうにアイテムポーチに仕舞った。
この世界で初めての労働に対する対価だから、だろう。
「今は利用できないけど、いずれ、ルクス君は銀級に上がると思うから説明しておくね。銀級になると、ギルド連盟銀行を利用できるようになるよ。冒険者ギルドを通じて銀貨一枚から預けられるからね。……手数料は毎回取られるから、纏めて預けることをお勧めしておくよ」
「はい、分かりました。銀級になったら、検討します。フリッツさん、ありがとうございます」
「いえいえ。ルクス君はもう帰るのかい?」
「いえ、薬屋さんに寄ってから帰ります」
「へえ、ポーションでも買うのかな?」
「いえ、今日、助けた薬師の女性に寄るように言われてて……」
「ふぅん?ま、遅くならない内に家に帰るようにね」
「はい」
完全に子ども扱いだな、とルクスは苦笑した。
ルクスの身体は十歳なので、当然の扱いだが。
早く大人になりたいな、と子供のようなことを思いつつ、ルクスは冒険者ギルドを出て、商人街に向かった。
薬屋は商人街に集中しているからだ。
マップで気付いたルクスはそのことに疑問を感じてマップに詳細が載っていないか確認したが、なかった。なので、焼き鳥の露店のおじさんに聞いてみた。
「ん?商人街に薬屋が多い理由?そりゃ、王都ができたときから薬屋は商人街って決まってたからじゃないのか?知らんけど」
「そう、ですか……あはは」
乾いた笑いを溢しつつコッコの焼き鳥を頬張るルクス。
(エルナさんに聞いてみるか)
そう決意して、ルクスは商人街に入った。
薬屋は商人街の様々な場所にあり、エルナが働くフィルツ薬屋は商人街で西南端に近い場所にあった。
ルクスがゲームをプレイしていたときは殆ど来たことがない場所だ。通り過ぎはしただろうけれど。
ちょっと古そうな木造二階建ての小ぢんまりとした薬屋で、看板がちょっと傾いている。庭があり、何かの植物がぼうぼうと生えていた。
(薬草?かな……)
ルクスは訝しげに庭を見つつ、看板を鑑定した。
【フィルツ薬屋の看板】
昼間なのに、ちょっと幽霊が出てきそうな雰囲気の店なので、入りたくない気持ちになりつつ、ルクスは扉を開いた。
ぎいい、と音がする。蝶番が古いのか、扉が歪んでいるのか、いずれにせよ、手入れされていないのは明白だ。
だが、店内は掃除がされており、ポーションが整然と並んでいる。
ルクスは試しに一つのポーションを鑑定した。
【初級魔力回復ポーション】
主にマナ草を使って調合されるポーション。魔力が少し回復する。
品質:良
他のポーションも品質が良と表示されるので、この薬屋は良い薬屋だとルクスが判断したとき、奥の扉が開いた。
「おや、どうしたんだい、坊や」
やってきたのは深い緑の瞳の老婆だった。
「あ、えっと、エルナさんに会いに来たのですが……」
「エルナに?分かったよ、エルナ!エルナ!」
「はいはい、おばあちゃん、どうしたの?」
「お前にお客さんだよ」
「え?あ、ルクス君!さっきぶり」
「えと、はい、さっきぶりです」
「おばあちゃん、今さっき話してた私を助けてくれたルクス君だよ」
「おや、まあ、驚いた。ありがとうね、坊や。孫が面倒を掛けたね」
「いえいえ、助け合いは大事ですから」
「若いのに、ちゃんとしてるねぇ」
老婆はしみじみと言った。
「なに?おばあちゃん、私がしっかりしてないみたいに聞こえるんだけど」
「そうだね。お前はもっとしっかりしなくちゃダメね。もう二十歳だっていうのに、良い相手も見つけられてないし」
「良いんです!いつか運命の出会いがあるんです!」
「その内、本当に行き遅れるよ。この薬屋もあたしの代で終わりかもね」
「もう!そこは私の代で終わりって言ってよ!」
「それだと、あんた、仕事にのめり込んで良い男なんて捕まえられないよ!」
「うええーん。おばあちゃんが虐めるよー、ルクス君ー」
エルナがルクスを盾にするように後ろに回った。
「全く……ごめんよ、坊や。そうだ、エルナを助けてくれた礼をあげようね」
老婆は奥の部屋に入って、一本の鮮やかな濃い緑色の薬液が入ったポーション瓶を持ってきた。
「あげるよ」
老婆はルクスの手にポーションを握らせた。
「え、嘘、おばあちゃん?」
エルナが驚いているので、良いポーションなのだろう、と思ったルクスは言う。
「えっと、このポーションは?」
「超級治癒ポーションだね。欠損も治るくらいだから、本当に困ったときに使うんだよ」
「!」
それは大層な代物だ。ルクスは鑑定する。
【超級治癒ポーション】
ヒール草などを調合して作るポーション。殆どの傷や欠損も治る。
品質:最良
ポーションは鑑定では値段が分からなかったが、とても良いものを貰ったのだと、ルクスは感じ、老婆に頭を下げた。
「ありがとうございます」
「頭をお上げ。あたしの孫を助けてくれたのだから、当然の礼さ」
「すみません、えっと」
「あたしはアメリアさ、ありがとうね、ルー坊」
「ルー坊?」
「ルクスってんなら、ルー坊がぴったりさ。これから、あたしはルー坊って呼ぶからね」
「あはは」
ルクスは困ったような表情で笑った。
「あ、ルクス君、私もお礼用意したんだけど、受け取ってくれる?」
エルナはポケットから鮮やかな緑色の薬液が入ったポーション瓶を取り出し、ルクスに渡した。
「中級治癒ポーションだよ。おばあちゃんのポーションには劣るけど……」
「ありがとうございます、いざという時に使います」
「うん、じゃんじゃん使って!」
ルクスはエルナのポーションをこっそり鑑定した。
【中級治癒ポーション】
ヒール草などを調合して作るポーション。少し深い傷などが治る。
品質:良
「あ、そうだ、エルナさん」
「なあに?ルクス君」
「聞きたいことがあるんです。薬屋さんて、商人街にしかないようですけど、どうしてですか?」
「んー……考えたことなかったな……ねぇ、おばあちゃん」
「仕方ないねぇ。あたしも聞いた話だけど、それでも良いかい?」
「はい」
アメリアは語る。
千年程前のことだ。王都を建設するにあたって、多くの人々がこの地域にやってきたという。
当然、薬師もその中にたくさんいた。
薬師の店舗は職人街に作られる筈だったのだが、鍛冶師や裁縫師、建築士などの職人があまりにも多く、薬師は他の街区に店舗を作ることになった。
白羽の矢が立ったのが、商人街。
薬師の多くは商人を通じてポーションを売ることが多い為、立地としては商人街が最適だった。
という訳で、王都アルヒの薬屋は商人街に集まっている。
「なるほど……勉強になりました。ありがとうございます、アメリアさん」
「どういたしまして、ルー坊は勉強熱心だねぇ」
「勉強熱心というか、色々気になってしまって……」
「気になっても聞かない奴もいる。ルー坊はちゃんと聞けて偉いよ」
「……はい」
ルクスは少し照れたようで、頬を薄ら朱に染めた。
「あ、そうだ、ルクス君、夜ご飯食べていく?」
「えっと、止めておきます。仲間が心配するので」
「そう、じゃあ、遅くならない内に帰らないとね」
「はい、ありがとうございました、エルナさん、アメリアさん」
ルクスは微笑みを浮かべ、お辞儀した。
「いいえ、こちらこそ、ありがとう、ルクス君」
「うちのエルナが迷惑掛けてごめんね、ルー坊」
「もう!おばあちゃんたら」
「あはは、では、失礼します」
ルクスはフィルツ薬屋を後にした。




