第2話 お宝はっけーん
決意しつつ、ルクスはマップを開いた。
始まりの街がこの森を抜けた先にあると知り、ガッツポーズをした。
ルクスは木から降りて、マップを見ながら街道に出ると、街に向かって歩き始めた。
(お、街だ)
森を抜けると、街が前方に見えたので、ルクスはほっとした。
(あ、お金がない)
そういえば、とルクスは思ったが、街の外にある遺跡で懐事情が解決することを思い出し、まずは遺跡に向かうことにした。
ウェトゥム遺跡。
古代の帝国の神殿跡地で、モンスターも出なければNPCもいない不人気スポットだったのだが、あるギミックが発見されて、一時期人気スポットになった場所だ。
ルクスは遺跡に辿り着くと、壊れた祭壇の前の床に触れ始めた。
(この辺りかな?)
と、触った石の床を強く押すと、一部が凹んだ。すると、低い音を響かせて祭壇が動いた。
祭壇があった場所に階段が現れた。
ルクスは生活魔法の【照明】を使って階段を照らしつつ、地下に降りた。
広い部屋にでると、人の気配に反応して、部屋の灯りの魔導具が点灯した。
広い部屋つまり隠し部屋には金銀財宝がたんまりあった。
ルクスはアイテムボックスに根こそぎ入れる。
素早く隠し部屋から出ると、ルクスは床に這いつくばって押し始めた。
一つの床に反応があった。
ルクスは強く押し込むと、祭壇がゆっくり元の位置に戻り、押し込んだ床も元に戻った。
(ウェトゥム遺跡最高〜)
序盤の金策の中で最も稼ぐことのできるウェトゥム遺跡は、プレイヤーにとって最高の場所だ。
ルクスは祭壇にお辞儀して、始まりの街アルヒに向かった。
「ん?坊主、身分証はあるか?」
門番がやってきたルクスに尋ねた。
「えっと近くの村から来たので、ないです」
「それだと通行料が掛かるぞ。銅貨一枚だ」
ゲームと同じ通行料に安堵しつつ、ルクスはポケットを探った。
「えっと……」
ルクスは道中でアイテムボックスから取り出しておいた銅貨一枚を門番に渡した。
因みに、この銅貨は金銀財宝に混じっていたものだ。
「ん?これはアルヒ王国の貨幣ではないな、坊主、普通の銅貨は持っていないのか?」
え、ゲームでは使えたけど、と反射で言いそうになったルクスは鑑定を使った。
【ウェトゥム帝国銅貨】
古代にあったウェトゥム帝国の銅貨。
プレミアな貨幣。マニアに高く売れる。
通常買取価格︰500エン
ルクスは目を瞠った。
(そうか!ゲームだとゲーム内通貨で統一されてたけど、此処は現実だ。古代の貨幣と現代の貨幣は違うに決まってる!)
ルクスは少し考えて言葉を紡ぐ。
「えっと、森で狼に襲われたときに、荷物を失くしてしまって、母の形見のこの銅貨しか手持ちが無いんです」
勿論、嘘だ。今生のルクスの母は、父と共にルクスを奴隷として売ろうとしたので、今も健在だ。
門番は呆れたように溜息を吐いた。
「あのな、お母さんの形見を通行料として出すもんじゃない。ここは俺が立て替えてやるから、入りなさい」
「え、でも」
「街に親戚とか知り合いはいるのか?」
「えと、います」
ルクスに親戚と呼べる者はいない。だが、門番を心配させないように嘘をついたのだ。
「じゃあ、その人に借りて後で返しに来なさい。分かったね?」
「はい」
門番のお陰で街に入ることができたルクスはほっと息を吐いた。
(俺、緊張してたのか)
慣れない場所で慣れないことをやるのは緊張するものだな、とルクスは思いつつ、街の中に入った。
ルクスとしては初めての街なので、おのぼりさんのように辺りを見回してしまう。
土の道ではなく、石畳の道を歩くのも今生で初めてなので、新鮮な感覚を持ちつつ、とある店を探した。
(お、あったあった)
表通りから少し路地裏に入った場所にある、小ぢんまりとした店──【ゼンイ商店】。
善良な店主の元、様々な商品が適正価格で売られている。
買取も行っていて、買い叩かれることがない素晴らしい店だ。
この商店とは別に大通りで買取を行っている店があるが、そこは買い叩かれるので、お勧めはできない。
ちなみに、店名は【アクドイ商店】だ。
カランコロン
ルクスが入店すると、ドアのベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
眼鏡を掛けた優しげな中年男性がルクスを迎えた。
「あの、買い取って欲しいものがあるのですが……」
ルクスはカウンターの上に黄金に輝くとある一品を置いた。
【ウェトゥム帝国金貨】
古代にあったウェトゥム帝国の金貨。
超絶プレミアな貨幣。マニアに高く売れる。
通常買取価格︰500,000,000エン
優しげな中年男性はカッと目を見開いた。
「こ、これは、幻の古代金貨……!ぼ、坊や、この金貨をどこで……?」
「これは、母の形見なんです」
親とも思っていない今生の母ではなく、病で亡くなった前世の母を思い浮かべつつ、ルクスは優しげな中年男性に伝えた。
涙目つきなので、信憑性が高まるだろう。
優しげな中年男性はルクスの話をすっかり信じて、目に涙を浮かべた。
「そうかい、お父さんはどうしたんだい?」
「父は事故で亡くなりました。村で細々と生活させて貰っていたのですが、冷害で作物が取れなくて……街に出れば仕事にあり就けると思ったんですが、なかなか難しいので、生活の為に売ろうと決めたんです」
ルクスの前世の父は交通事故で亡くなった。
冷害で作物が取れなかったのは事実で、トアル村はそれが理由で口減らしをしていた。
街に出れば云々は口から出任せだ。
「そうだったのかい……苦労したんだね、大丈夫。この金貨は相当高く買い取れるから」
「本当ですか?」
「ああ、その代わり、たくさんお金を持ったとしても、ひけらかすことはしないように。足元を掬われるからね」
「はい、分かりました」
「ちょっと待ってね」
優しげな中年男性は掌に金貨を載せて言った。
「【鑑定】」
「!おじさん、鑑定が使えるんですね」
「いや、この鑑定眼鏡を使うことで鑑定できるんだよ」
「そうなんですね……鑑定を使える人って、この街にもいるんですかね?」
「うーん、何人かいるとは思うよ。まあまあ珍しいけどね」
「そうなんですね」
「ところで、鑑定結果だけど……」
ごくり、とルクスは唾を飲んだ。
「本物だから、大金貨五枚。つまり五億エンが買取価格になるよ」
ルクスは内心小躍りしつつ、驚いた表情を浮かべた。
(流石、ゼンイ商店だ!)
内心、拍手喝采をしつつ、ルクスは問う。
「えっと、そんなにするんですか?」
「そりゃあ、勿論!幻の貨幣だし、その上、金貨だからね。普通は銅貨ばかりが出土するらしい。金貨は珍しいんだよ」
「なるほど……」
「大金貨五枚だけど、一部は細かくするかい?」
大金貨は普通の買い物で使う人はとても少ない。細かくしないと、生活に支障が出るだろう。
「はい」
ルクスは即答した。
優しげな中年男性は「ちょっと待っててね」と言うと、店の奥に入っていった。
暫くして、二つの革袋を持ってきた。
「こっちが大金貨四枚で、こっちが大金貨一枚分の細かくしたものだよ」
ルクスは二つの革袋を受け取ると、少し悩んだ。
「うーん、坊やには凄い荷物になるね。何か入れ物を買っていくかい?」
「はい」
「これなんか、どうかな?」
優しげな中年男性は幾つかポーチを持ってきた。
「アイテムポーチ。空間魔法が付与されていて、木箱二つ分くらい入るよ」
「そうなんですか」
「世の中にはアイテムボックスっていう便利なスキルがあるらしい、それよりは劣るみたいだけど、結構便利だよ」
「ソウナンデスネ」
アイテムボックス持ってるわ、とルクスは思いつつ、優しげな中年男性に質問した。
「その、アイテムボックスを持ってる人って少ないんですか?」
「うーん、一定数はいるかもしれないけど、見つかると国に召し上げられることが殆どだから、身近にはいないね」
「アハハー、ソウナンデスネー」
ルクスは冷や汗を流しつつ、アイテムボックスは絶対に人前で使わないと決めた。
「えっと、その黒いポーチを買います」
「金貨三枚になります」
結構高いな、とルクスは思いつつ、大金貨一枚を優しげな中年男性に渡した。
「金貨七枚のお釣りです」
ルクスは革袋に金貨を入れつつ、アイテムポーチを受け取って、アイテムポーチの中に革袋を入れた。
優しげな中年男性に会釈しつつ、ゼンイ商店を出たルクスは、門番の元に直行して、立て替えてもらったお金を返し、表通りを通って、とある宿屋に向かった。
その宿屋は高級宿【眠り猫亭】。
丸っこい看板白猫がいるお宿で、王都で三番目に高い宿だ。
一番目に高い宿は貴族向け。二番目に高い宿は豪商などの富裕層向け。この三番目に高い眠り猫亭は平民でも手が届くくらいの宿だ。
ルクスは前世、ゲームでログアウトする場所として使ったことがある。
今は現実なのでログアウトはそもそもできないが。
Sefirot Chronicleではログアウトできる場所が限られていて、セーフティエリアである街中でログアウトすることができるが、宿屋以外でログアウトするとお金を盗まれることが多い。
だから、プレイヤーは皆、宿屋でログアウトしていた。
プレイヤーはワープ機能のあるオブジェクトを使用できたので、あまり苦労することはなかったが。
ゲームが現実になった現在は、ワープ機能のあるオブジェクト──魔石が嵌められた猫の彫像(通称ワープポイント)が街中にあるのをルクスは確認している。
猫の彫像は起動していないと普通の彫像に見えるが、起動すると魔石が光輝き、彫像自体も淡い光を纏うようになる。
普通の街の平民が彫像に触れることがあるが、光ることはない。
ルクスはプレイヤーのようなものだから、触れたら光るかもしれない。
普通の彫像がもし、そんなことになったら、注目されるに違いないとルクスは思ったので、触れないようにしていた。
「いらっしゃいませ」
受付にやってきたルクスは言う。
「一番高い部屋に泊まりたいのですが……」
「申し訳ありません、既にご宿泊されているお客様がおりまして……」
「えっと、次に高い部屋は……?」
「そちらでしたら、空いております。大銀貨五枚になります」
ルクスはアイテムポーチの中にある革袋から大銀貨五枚を取り出し、受付の男性従業員に渡した。
「丁度、いただきました。では、こちらにご記入をお願いします」
「代筆って、できますか?」
「勿論です」
ルクスはこの国の文字を知らない。
農民に学習の機会などなかったのだ。
(転生あるある言語理解スキル持ってないし……早急に文字の先生を見付けないと……あれ?でも、会話は普通に日本語っぽく聞こえるんだよね……謎だ)
まるっきり読めない文字で代筆してもらったルクスは鍵を受け取った。
「あの」
「なんでしょう?」
「そこにある食堂はどうやって使えば良いんですか?」
「ああ、ご宿泊の皆様なら、朝晩の食事が無料ですよ。鍵を見せれば入れますので、食堂の入り口にいる従業員にお見せ下さい」
「ありがとうございます」
ルクスは食堂入り口にいる従業員に鍵を見せて食堂に入り、端っこの席を取った。
給仕に声を掛け、お腹に優しそうな野菜スープを頼んだ。
三日は殆ど食べずに逃げ回り、それ以降も湧き水や果物で飢えを凌いでいたため、お腹に優しい食事が食べたかったのだ。
給仕は心配そうにルクスを見たが、ルクスは困ったように微笑むだけだった。
深く聞かれたくなかったので、微笑んで誤魔化したのだ。
「春野菜のスープです」
春野菜と聞いてルクスは思った。
(そういえば、まだ肌寒いけど春だったか。村では輪作のし過ぎで殆ど実らなくて、食糧がなくて大変で売られそうになったから、季節とか考えてなかったな。え、でも林檎に似たアポーが熟してたけど……まあ、異世界だから、林檎の旬も変わるのかな?)
と思いつつ、ルクスは野菜スープをゆっくり味わって頂く。
(五臓六腑に染み渡る〜)
などと思いつつ、暫くしてルクスは野菜スープを平らげた。
食堂から出て、二階にある宿泊部屋に入ったルクスは、従業員が持ってきた桶に入った湯で汚れを落とし、ついでに服も洗って、備え付けられた木製の使い捨てらしき歯ブラシで歯を磨く。
ちょっと大きいガウンを纏ってベッドに入ったルクスはすぐにウトウトし始めた。
一週間まともに寝られていなかったからだろう、ルクスはあっという間に眠りに就いた。




