第18話 冒険者ギルドの依頼書(布切れ)
翌朝。
「ルクス様、この後、お時間ありますか?」
朝食を食べた後、ベネディクトゥスがルクスに声を掛けた。
「うん、良いよ」
ルクスはベネディクトゥスと共に談話室にやってきた。
「ルクス様とラエティティア、アラン君とバート君、そしてクラーラさんに授業を受けていただこうと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「うん、良いと思う」
「ありがとうございます。それで、授業の時間帯ですが……」
「午前中が良いかな?俺は午後に冒険者ギルドの依頼を受けたいし」
「かしこまりました。午前中ですね。では、来週から始めさせていただきます。時間割は談話室の壁に貼らせていただいても?」
「大丈夫」
「ルクス様は朝九時から一時間の授業です。場所は講義室でよろしいですか?」
「ああ」
「では、私は授業内容をまとめますね」
そう言って、ベネディクトゥスは書庫に向かった。
この屋敷には書庫があり、多くの蔵書が収められている。元々住んでいた魔法使いの老人が「自分にはもう必要ない」と置いていったらしい。
勿論、魔導書も山のように置いてあった。
ルクスが買った魔導書と同じ魔導書もあり、この屋敷を買って気付いたルクスはちょっと悲しんだとか。
「俺も、冒険に出るか」
ルクスは初冒険の為に、冒険者ギルドへ依頼を受けに向かった。
初冒険と言っても、採取など戦闘のない依頼を受けようとルクスは思っていた。
折角、保護者兼護衛としてベネディクトゥスがいるのだから、最初の戦闘はベネディクトゥスがいるときにしよう、と思っているのだ。
冒険者ギルドでは、厳つい男たちが、うじゃうじゃいた。
我先にと、掲示板に群がって、依頼が書かれた布の切れ端らしきものを持って受付に並んでいる。
女性の職員がいる二つの受付が人気で、その受付には長蛇の列ができている。
逆に男性職員がいる受付二つは不人気だ。少しだけ並ぶ人がいるくらいだった。
ルクスは依頼の布切れが張り出されている掲示板の前にやってきた。
冒険者たちは殆どいない。もう、粗方の依頼は取って行かれているのだ。
ルクスは現在の鉄級に合う依頼を探す。
因みに、冒険者ギルドのランクだが、全部で八つある。
一番下が鉄、その上が銅・銀・金・魔銀・緋金・金剛・幻金となっている。
鉄級のルクスに合いそうな依頼は下の方にポツンとあった。
(あ、そういえば、字が読めないんだった)
こういう時は鑑定だ、とルクスは鑑定する。
【ヒール草採取の依頼書】
根っこを含めたヒール草十本の採取依頼書。
依頼達成の報酬︰銅貨八枚
ルクスは依頼書である布切れを引っ張って取った。
因みに布切れは錆びた鉄の釘によって、掲示板に固定されていた。
木の掲示板には打ち付けられた錆びた鉄の釘が幾つもある。
布の繊維が引っかかっていたり、ほんの少し布が付いていたりと様々だ。
布切れ自体はごわごわした感じの手触りだ。
品質は良いとは言えない布を使っているのだろう。
ごわごわした布に文字を書くのは大変だろうな、とルクスは思いつつ、茶髪の優しそうな男性職員のいる受付に向かった。
「あの、すみません」
「え、あ、はい、どういったご要件ですか?」
「この依頼を受けたいのですが……」
ルクスはヒール草採取の依頼書と冒険者ギルドカードを職員に渡した。
職員は依頼書とギルドカードを見比べて頷いて、手元の羊皮紙に羽ペンで何かを書き込んだ。
「はい、依頼を受付ました。ヒール草十本を手に入れましたら、ヒール草十本と依頼書を一緒に、こちらの受付に提出して下さい」
「はい、えっと、質問しても良いですか?」
「なんでしょう?」
「この依頼書はどんな素材でできているんですか?」
「ウール……えっと、羊毛ですね」
「どうしてウールの布を依頼書に使ってるんですか?」
「ああ、羊皮紙は高いからですね。昔は木の板だったらしいんだけど、それじゃ大変だって話になって、トイレでも使うことがある布の切れ端を使うことで経費を削減してるんです」
ルクスはトイレに置いてある布の切れ端の意味を今知った。
前世の記憶を思い出してからルクスはトイレをした時はいつも生活魔法の湧水と乾燥を使って自分の下部を綺麗にしていた。
街の人は全員、生活魔法で何とかしているものだと思っていたのだ。
因みに、ルクスが村にいたときは木の葉っぱで何とかしていた。
「じゃあ、いっぱい布の切れ端が必要になりますね。他の人と競争になりそうです」
「うん、冒険者ギルドは服飾ギルドから安く布の切れ端を仕入れられるように契約を結んでるから、優先的に融通してもらってるんですよ。それと、一般家庭では、木の葉か干し草を使っているので、あんまり競争にはならないですね」
「え?宿屋とかだと布の切れ端だったような」
眠り猫亭には布の切れ端がトイレに置いてあった。
因みに、今のトイレはとても清潔なトレイというだけでなく、浄化機能まであり、トレイに座っているだけで、下部を綺麗にしてくれるので、布の切れ端すらいらない。
「それは、良い宿屋ですね。普通は葉か干し草を使いますよ」
眠り猫亭は高級宿屋だ、トレイに葉っぱではなく布の切れ端を置くのは当然のことだろう。
「あはは、えっと、もう一つ質問があるんですが……」
「大丈夫ですよ、どうぞ」
「依頼書の布の切れ端にどうやって文字を書いてるんですか?」
「木炭だね、ちょっと書きにくいけど」
「木炭」
「うん、木炭は近くの村で作られたものを、とある商会を通してまあまあな値段で融通してもらっていますね」
「そうなんですか……色々教えて頂き、ありがとうございます。また、聞いても良いですか?」
「うん、良いですよ。受付にいるときは時間が空いてますので」
女性職員がいる受付とは違って、この受付は暇そうなので、そう言うのも当然だろう。
「分かりました。では、ヒール草採取に行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
ルクスを見送った男性職員の元に、もう一人の男性職員が近づいてきた。
「なぁ、フリッツ」
ルクスを見送った男性職員もといフリッツは横にいるもう一人の男性職員の方を向いた。
「なんだ?ヨハン」
もう一人の男性もといヨハンはルクスの去っていった方を見ながら口を開いた。
「あの子、この前登録したばかりだろう?ヒール草の絵でも見せてやれば良かったんじゃないか?」
「あ」
時すでに遅し。
ルクスは冒険者ギルドを出てしまっている。
「ま、分からなければ戻ってくるだろうけど」
そう言いつつ、ヨハンは自分の席に戻った。
フリッツは次は気をつけないと、と思いつつ、やってきた冒険者の対応をするため、笑顔で口を開いた。
「いらっしゃいませ、ご要件は何でしょうか?」
頭の片隅で、ルクスのことを心配しつつ。




