第17話 まあまあまあ
屋敷はぴっかぴかになっていて、美味しそうな匂いが厨房から漂ってきていた。
ルクスは屋敷に入って一番最初に出会ったバートに尋ねる。
「なんか、屋敷が凄い綺麗になってるけど……」
「ああ、アデリナさんとクラーラさんが張り切って掃除をしてくれたんだ。勿論、僕とアラン、ベネディクトゥスさんとヘレナさんとラエティティアさんも手伝ったんだ」
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして~」
じゃあ箒を片付けてくるよ、と言って、箒を手に持ったバートは奥の部屋に向かった。
ルクスは少し休むべく、談話室に向かった。
談話室には、先客がいた。
「あ、ルクス様。おかえりなさい」
「ただいま、ラエティティア」
ラエティティアは白いエプロンを身に纏い、雑巾で家具を拭いていた。
妖精のような雰囲気のラエティティアが掃除をしている。
ルクスはなんだか申し訳ない、という気持ちが湧き上がった。
「あ、すぐに終わらせますね」
「気にしないで、俺も手伝うよ」
ラエティティアの近くに置いてある水の入った木桶には、もう一枚、雑巾が引っ掛かっていた。
ルクスは雑巾を水に浸して、しっかり絞り、ラエティティアが拭いている家具とは別の家具を拭き始めた。
「ルクス様、私がやりますので……」
「二人でやった方が早く終わるからさ、手伝わせてよ、ラエティティア」
「はぁ、分かりました」
談話室の家具を二人で綺麗にし、箒で床を掃いた。絨毯を洗えたら良いが、子供の力でどうにかできないので、箒で掃くだけに留まった。
ぴっかぴかまではいかないが、大体は綺麗になった談話室。
二人はやり切ったと満足げだ。
「綺麗になったね、ラエティティア、ありがとう」
「いいえ!こちらこそ、本当にありがとうございます、ルクス様。ルクス様が手伝ってくださったから、早く終わりました」
「そっか、良かった」
ルクスはそう言って、微笑みを浮かべた。
「きゅん」
「きゅん?」
ルクスの微笑みにラエティティアはときめいたようだ。
「な、なんでもありません、ルクス様。良ければ、お掛けください」
「うん、じゃあ、ラエティティアも一緒に座ろうよ」
「ふえ……。かしこまりました」
ルクスがソファーに座ると、ラエティティアはその横に座った。
「ラエティティアって今は幾つなのかな?」
「えと、九歳ですね、慈月の十五日が誕生日ですので、あと一ヶ月くらいで十歳です」
「へえ、俺は美月の五日が誕生日だったから、今、十歳なんだ」
「まあ、では、祝与の儀を行われましたの?」
祝与の儀というのは、神官に祝福の祈りを捧げて貰い、その祈りによってジョブを与えられるという儀式のことだ。
「あー……ジョブは祝与の儀をしなくても貰えるから、俺は別の方法で貰ったんだ」
「!まあ、まあまあまあ」
ラエティティアは驚いたのか、まあを繰り返していた。
「それは、どういった方法ですか?」
ラエティティアは興味津々でルクスに問う。
「うん、えっとね、まずはなりたいジョブを選ぶことから始めないとね」
ルクスはラエティティアになれるジョブを羊皮紙に書き出した。
「農家、酪農家、漁士、錬金術士、薬士、木工士、建築士、裁縫士、彫金士、調理士、魔法使い、死霊術士、呪術士、歌手、踊り子、神官、挙士、美術家、剣士、槍士、弓士、銃士、戦士、斥候、召喚士、従魔士、精霊使い、騎士、占者、遊び人。一次ジョブ?というものはそんなにあるのですね……」
「うん、好きなジョブを選ぶと良いよ」
「えっと、どんなジョブがおすすめでしょうか?」
「そうだなぁ、魔法使いは遠距離アタッカーで、歌手・踊り子はバッファー兼ヒーラーで、神官はヒーラーで、剣士とかは近距離アタッカーで……」
「ちょ、ちょっと待ってください。あたっかーとかばっふぁーとかって何ですか?」
「あ、ロールを説明してなかったね。モンスターとの戦闘では、ロール……つまり役割が重要なんだ。ロールは色々あるんだけど、基本はタンクとヒーラー、アタッカーだね。タンクは仲間を守る盾役、ヒーラーは仲間を回復する回復役、アタッカーは敵にダメージを与える攻撃役だね。基本はこの三役がいないとパーティーが成り立たないんだ。因みに、バッファーは味方の能力を一時的に向上させるよ」
「まあ、そうなのですね、勉強になります」
「生産職は非戦闘員だから、ロールには当てはまらないけどね」
「なるほど……」
「まあ、そんなすぐに決めなくて良いと思うよ。なりたいジョブが決まったら教えて欲しいな」
「はい、ありがとうございます。ルクス様」
ラエティティアは可憐な微笑みを浮かべた。
暫くして、談話室にアランとクラーラがやってきた。
「ルクス様、ご飯できました……よ?」
アランはルクスの肩にラエティティアの頭が寄りかかっていることに気付いた。
ルクスとラエティティアは互いに寄りかかり合って、健やかに眠っていた。
「仕方ないな、もうちょっとして起きなかったら、声を掛けよう」
「うん」
アランとクラーラは頷き合って、暫く待つことにし、近くのソファーに座った。
十分してもルクスとラエティティアは起きなかったので、アランとクラーラは二人を揺り起こすことになる。
「ふわぁあぁ~」
大きな欠伸をしつつ、ルクスはラエティティアとアラン、クラーラと共に食堂に向かった。
食堂には美味しそうな食事がずらりと並んでいた。
「ルクス様、どうぞこちらへ」
ルクスは長い机のお誕生日席のような席に座った。
長い机の右側には、ベネディクトゥスとヘレナとラエティティアが座り、右側には、アランとバートとヴォルフとアデリナとクラーラが座る。
「では、ルクス様」
「うん、神々の御恵に感謝を」
「「感謝を」」
いただきます、と心の中で呟いたルクスは美味しそうな食事を食べ始めた。
今日の食事はコッコのポワルのマッシュルームソース添えがメインだ。
ポワルというのは、アルヒ王国のポピュラーな調理法の一つで、フライパンで肉や魚を焼き上げることを示す。
表面はカリッと香ばしく、中はふっくら柔らかく仕上げるのが特徴。
フランス料理のポワレを元にしているとルクスは思っている。
ルクスはサラダや野菜スープを食し、コッコのポワルのマッシュルームソース添えを口にした。
「!!」
口に広がるマッシュルームの香りとまろやかな口当たりのソースがコッコのもも肉をより美味しく仕上げている。
もも肉はとても柔らかく、美味だ。
あっという間に全て平らげたルクスの前にあった皿が下げられ、デザートが置かれた。
「クリームダンジュのレモン添えです」
ヴォルフがデザートを置く際に一言添えた。
クリームダンジュもアルヒ王国発祥スイーツの一つだが、庶民が口にすることはあまりない。
金持ちが口にすることが多いだろう。それはスイーツ全般に言えることだが。
クリームダンジュはフランス料理のクレームダンジュを元にしているのだろう、とルクスは思った。
「蜂蜜とクリームチーズが手に入りましたので、作りました」
「クリームダンジュは普通の食堂では出さないと思うんだけど……作り方、知っていたんだ」
「はい、昔、貴族の屋敷で料理人として働いておりましたので……」
「なるほど、ありがとう、いただくよ」
「どうぞ、お召し上がりになってください」
ルクスはクリームダンジュを一口食す。
(濃厚なクリームチーズの味が口に広がる……。クリームチーズにレモンが入っているのだろう、爽やかなレモンの香りがあっさりとした後味になる。真ん中に入っているのはレモンのジャムかな?とても美味しい……ああ、生きていて良かった)
あっという間にルクスはデザートを平らげた。
「美味しかった。ありがとう、ヴォルフ」
「いえ、とんでもないです」
他の仲間たちもヴォルフの料理に舌鼓を打ち、あっという間に平らげてしまった。
美味しい、美味しい、と皆がヴォルフの料理を褒め称えた。
ヴォルフはまた料理が作れたこと、美味しく食べてくれたことに感動し、目に涙を浮かべていた。




