第13話 目が~目が~
結果的に、ルクスたちは職人街の小さめの屋敷に決めた。
決め手はとても清潔な魔導トイレだった。
スライムが蠢く音もせず、常に清潔なので、全員が気に入った。
六人にとっては少し広い屋敷なのだが、魔導トイレがある屋敷は滅多にないというアルノーの言葉に後押しされた。
商人ギルドに戻ったルクスたちは、すぐに職人街の小さめの屋敷を購入する旨をアルノーに伝えた。
「かしこまりました。大金貨四枚と金貨三枚……五億三千万エンになります」
ルクスはアイテムポーチから大金貨四枚と金貨三枚を取り出してアルノーに渡した。
「丁度ですね、では、こちら、物件の鍵が五本と、購入証明書、不動産所有証明書と、物件概要書と、土地所有証明書になります。不動産所有証明書は不動産である建物の所有を証明する書類です。物件概要書は物件の所在地、面積、価格、構造、設備など、不動産に関する様々な情報が記載された書類となります。土地所有証明書は国から発行されたもので、土地の所有を証明する書類です。ただ、土地は王国の所有物ですので、税金を納める必要がございます。本日までの税金は商人ギルドにて支払いますが、本日以降の税金はルクス様のご負担となりますので、ご了承下さい」
「分かりました。税金ですが、事前に納めることは可能ですか?」
「はい、可能です。役所にこの書類をご提示いただいて、前納する意思を伝えていただければ、大丈夫です」
「分かりました」
「他に何かご質問はありますか?」
「大丈夫です」
「かしこまりました。私からも以上となります。お買い上げ、ありがとうございました。何かありましたら、また、商人ギルドまでお越し下さい」
「ありがとうございました」
ルクス一行は職人街の小さめの屋敷──自分たちの家にやってきた。
「る、ルクス、本当にこの家が俺達の家になったのか?」
「え、なったよ。やり取りしてたの見てなかったの?」
「いや、何だか実感が湧かなくてさ……でも、本当に俺達の家なのか……探索してくる!」
アランは「いやっほーい」と笑いながら屋敷の中を走り始めた。
「ちょっと、アラン!走らないの!」
バートはアランを注意しつつ、その後を追った。
「あーっと、じゃあ、俺たちは談話室にでも行きますか」
「「はい」」
屋敷の中央辺りにある談話室は絵画こそ飾られていないが、まるでとある魔法魔術学校の獅子の寮にある談話室のようだ。
温かみがある赤を基調とした内装とソファー、家具は焦げ茶のシックな色だ。
ルクスはソファーに座ってのんびり寛ぎ始めた。
「ベネディクトゥス、ヘレナ、ラエティティアも自由にしていいよ」
ベネディクトゥスたちは戸惑いつつも、ソファーに座った。
眠気が襲ってきたところで、ルクスは思い出した。
「あっ」
「?どうされました」
「いや、明日から冒険者活動をしようと思ったけど、攻撃系の魔法を習得してなかったな、って思ってね」
「魔法を習得、ですか……最低でも一年は掛かると思いますよ」
「うぇ、まじで」
大金貨がまだ残っているし、古代金貨は腐るほどあるので、一年魔法の習得に掛けても問題ないが、ルクスは早く冒険したかった。
「一応、魔導書があるから、魔法を教えて欲しい。基礎も何も分からないから、まず、基礎からかな?」
「分かりました。基礎であれば、口頭でもお伝えできます。まずは、魔法と魔術と魔導の違いから。魔法は体内魔力を使って現象を起こします。これは想像力だけでできることです。魔法言語を詠唱して発動させる人が多いですが、本来は何も言わずに魔法を使うことができます。次に魔術。魔術というのは、魔法陣を地面に描くか、紙に描くか、空中に描いて、大気に漂う魔素を利用して現象を起こします。もしくは、魔法言語での詠唱によって魔法陣を呼び出し、現象を起こすことを指しますが、詠唱魔術は時間も掛かりますし、間違えたらやり直しになるので、人気はあまりないです。そして、魔導というのは、魔法使いおよび魔術師を導くことを意味する単語です。魔導書は魔法使いの育成のための書物なので、魔導という単語が付きます。魔導具にも魔導という言葉が使われておりますが、厳密には魔術具と呼ぶのが相応しいでしょう。しかし、大昔に魔導具を発明した方が魔導具と呼んだ為、この言葉が使われております」
ルクスはベネディクトゥスのマシンガントークにぽかんとしていた。
だが、子供の柔らかい脳のお陰で大体理解できた。
「えっと、魔導書は何冊か持ってるんだけど、これで魔法を覚えられるかな?」
ルクスはアイテムボックスから魔導書を取り出した。
「拝見します」
ベネディクトゥスは魔導書をぱらぱらと捲って確認する。
「ちゃんとした魔導書ですね。では、ルクス様。魔導書を読みつつ、魔法を使えるように、私が講義をさせていただきたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「……お手柔らかにお願いします」
ベネディクトゥスは微笑んだ。
屋敷には、講義室のような部屋があったので、その部屋で講義が粛々と行われた。
ルクスの隣には、ラエティティアが座り、一緒に講義を受けている。
魔法とは、体内の魔力を用いて、現象を起こす方法。
人々の身体には、見えない魔力を生み出す臓器──魔臓があり、それを血管のように身体中に行き渡らせる魔力回路というものがある。
魔力はまず感知できなければならない、それを魔力感知と言い、魔力を魔力回路に行き渡らせ、操作することを魔力操作という。
身体強化という魔法があるが、それは、魔臓から魔力を魔力回路から放出し、身体に纏わせて筋肉を強化するという。
身体強化は魔力操作の進化形と言われている。
魔法もそうだ。
魔法は魔力を放出して、現象を起こす。
本人に備わっている属性に左右されると言われているが、想像力が魔法に一番影響を与える。
つまり、想像力があればどんな魔法も使えるのだ。
しかし、理論的にはできると言われているが、実際に成功した魔法使いはいない。
やはり、本人に備わっている属性に左右されるのは否めない。
「では、まず魔力を感知するところから始めましょう」
ベネディクトゥスはルクスの手を取って、魔力を流し始めた。
「何か感じますか?」
「ああ、ぽかぽかする」
「では、そのぽかぽかしたものを身体に巡らせて下さい」
「うん」
ルークは魔力を操作し、身体に巡らせた。
そして、自身の魔力が物凄く濃く凝縮されていることに気付いた。
(セフィラを強化した所為かな?)
熱さはベネディクトゥスと同じだが、濃さが全然違う。
(なんとか、動かせる、な)
ルクスは魔力をゆっくりと動かし、身体中に巡らせる。
やがて、スムーズに巡らせられるようになった。
「!もう、魔力操作をものにしたようですね。では、魔力の属性を確認しましょうか」
と言って、ベネディクトゥスは植物紙らしき、小さな紙を取り出した。
「魔法使いの家ということで少し家探ししたら、魔紙が出てきたので、これを使わせていただきましょう」
魔紙とは、特殊な素材で作られた紙で、魔力伝導率が高く、この魔紙に魔法陣を描いて魔力を通せば現象を引き起こせる優れものだ。
「何も描かれていない魔紙に魔力を通すと、属性によって、違う反応になります。まずはラエティティアから、やってみましょう」
ラエティティアは魔紙に魔力を通した。すると、魔紙から葉っぱが生えて、小さな竜巻が発せられ、紙が湿り、水が滴り、凍った。
「……木と風、水、氷の四属性、か」
「わぁ、四属性ってあまりないですよね、お父様」
「ああ、とても凄いことだよ、ラエティティア。……では、ルクス様、どうぞ」
ベネディクトゥスは少し動揺しているようだった。
貴族であったなら、ラエティティアの四属性は結婚に有利に働いた筈なので、やるせなさを感じているのだろう。
「ありがとう」
ルクスは魔紙に魔力を通した。
魔紙から火の鳥のようなものが生まれ、紙が光り、闇が生まれ、雷の鳥が飛び出し、土が生まれ、その中から木の芽が生えて、小さな竜巻が生まれ、紙が湿って、水が滴り、魔紙が氷に包まれ、全ての現象が元に戻り、魔紙が空間に空いた穴に消えた。
「「全属性!?」」
ベネディクトゥスは白目だ。放心している。
「わぁ、ルクス様って、とっても凄いのですね」
美少女であるラエティティアに褒められて、ルクスは気分良さそうに「……まぁね」と言って微笑む。
ベネディクトゥスのことは一旦放置することにしたのだ。
「素晴らしいです!ルクス様!まるで、伝説の勇者のようです!」
復活したベネディクトゥスがルクスを褒め称えた。
「あはは、勇者ではないから」
「ですが、とても素晴らしいことです。ジョブを魔法使いにすれば、将来は宮廷に仕え、賢者として活躍することも……」
「それはないかな。俺のジョブは剣士だから」
「剣士……」
ベネディクトゥスは残念そうに呟いた。
(まあ、魔法を使える剣士になれば良いことだし、二次ジョブになれば、よりこの属性を活かせるだろう)
ルクスはそう思いつつ、ベネディクトゥスを見上げて言う。
「次は魔法の使い方を教えて」
「かしこまりました」
ベネディクトゥスは恭しく頭を垂れる。
三人は庭に出ると、庭にある木を的として、魔法の訓練を始めることとした。
「魔法は、魔力を身体から放出するときに属性を持たせて現象を起こすことです。お手本を見せましょう」
ベネディクトゥスは掌から魔力を放出して、水の球を作り出し、木に向かって発射した。
水球は木にぶつかって弾ける。
「二人共、生活魔法を使うことはありますよね?生活魔法は少ない魔力でも魔法が使えるように体系化された魔法で、神殿で生活魔法を授かるか、各地を旅する神官に授けて貰うことで、そのスキルを得ることができます。生活魔法はほんの少しの魔力しか消費しませんので、属性魔法を使うときより遥かに簡単に使えてしまいます。二人がこれから使うのは属性魔法です。魔力操作の応用だと思って、頑張ってみて下さい」
「「はい」」
「魔力は基本的に掌から放出します。指先や身体の他の部分から放出することができる人もいますが、二人は、掌から放出することを意識するように」
「「はい」」
ルクスはとりあえず、身体中を巡っている魔力を右手に集めることにした。
右手の掌から思った以上に魔力が放出される。
(え、ちょ、とりあえず、属性を持たせないと)
ルークは何でも良いのでイメージすることにした。
[【光属性魔法】を取得しました]
脳裏に閃いたのは電球だった。
手から飛び出た光のあまりの明るさに、ホログラムウインドウが表示されたことに気づくことすらできなかった。
ピカーーー!!
という効果音が似合いそうなくらいの、どでかい光の球がルクスの手から上空に向かって放たれた。
まるで、もう一つの太陽のような明るさで、屋敷の近くを通った人々がざわめいていた。
「ルクス様……」
「はい……」
「今度から魔法の練習は、街の外でしましょう」
「はい……」
後で王都の憲兵が事情を聞きにやって来て、ルクスは室内でもう一度、同じ魔法を使うことになる。
暫く、ルクスたちは目がちかちかすることになるのだった。




