第12話 商人ギルドで物件探し
「あ、ベネディクトゥス」
ルクスは眠り猫亭の入り口付近でベネディクトゥスと出くわした。
「ルクス様、お戻りになられましたか」
ベネディクトゥスはほっとした表情でルクスを迎えた。
どうやら、ベネディクトゥスはルクスを待っていたようだ。
「他のみんなは?」
「今、ルクス様の部屋で待っております。行きましょう」
ルクスはベネディクトゥスに連れられ、ルクスの宿泊部屋に入った。
ルクスの部屋では、窓の外を警戒するアランとバートの姿と、ベッドの上で何かを守るように座っているヘレナとラエティティアの姿があった。
「どうしたの?みんな」
「……古代金貨を売って手に入れた大金貨を守ろうと思っているのですよ、ルクス様」
「へ?」
ベネディクトゥスによると、古代金貨五枚はゼンイ商店で大金貨二十五枚。つまり二十五億ルヒになったという。
ベネディクトゥスと妻ヘレナ、娘のラエティティアは大金貨を大事に抱えて眠り猫亭に持って帰り、出迎えたアランとバートを連れてルクス(およびアランとバート)の宿泊部屋に大金貨を置いて、守ることになったという。
四人共、大金を前にして戦々恐々としているようだ。
「うーんと、ヘレナ、ラエティティア、大金貨を仕舞うから、ちょっと、離れてくれると嬉しい」
「かしこまりました。ラエティティア」
「はい、お母様」
ヘレナとラエティティアはベッドから降りた。
ルクスはベッドの上にある大金貨の入った革袋をアイテムボックスに入れた。
「……ルクス様、もしや、アイテムボックス持ちですか?」
「あっ……うん。秘密にしてくれると嬉しい」
「勿論です」
「ありがとう、じゃあ、夕飯を食べに行こうか。アラン、バート、行くよ」
「お、ルクス?……様、いつの間に……」
「ルクス様、帰ったんだ。あれ、大金貨の袋が」
「俺が持ってるから、心配すんな。それより、夕飯だぞー」
「夕飯……そういや、腹減った……」
「僕も……」
ルクスは彼等を引き連れて食堂に降りる。
いつものようにダイニングテーブルっぽい大きめの机がある席に座り、ルクスが代表して注文し、食前の祈りを捧げ、食べ始める。
「皆、明日は家を買うから、商人ギルドに行こうと思う。皆も付いてきてくれるかな?」
「勿論です」
ベネディクトゥスは真っ先に応えた。
「お供します」
妻ヘレナもすぐに応える。
「私も付いていきます」
『わたくし』と言いそうになりつつも、ラエティティアは応える。
わたくし、という一人称は貴族夫人や、令嬢が使うものなので、奴隷になってしまったラエティティアやヘレナは使わないのが正しい。
「俺も付いていく」
「僕も」
アランとバートも頷いた。
全員の色よい返事を貰ったルクスは「ありがとう」と礼を言った。
「じゃあ、明日は朝の鐘が鳴る頃……九時に眠り猫亭の入り口に集合しよう」
「「はい」」
「「はーい」」
ベネディクトゥス一家は揃って返事をし、アランとバートは緩い返事をした。
翌朝。
部屋に用意されている木桶に生活魔法の湧水という魔法で水を作って入れたルクス。
顔を洗って、寝癖を整え、口を濯ぎ、木桶の水をトイレに流した。
トイレの下には汚物を溜める空間があり、そこにはスライムたちがいる。水もスライムが吸収するだろう。
今日は家を買うという一大事なので、ルクスは貴族もしくはどこかの豪商の息子っぽい礼装をアイテムボックスから取り出して、着替えた。
守りの指輪も金持ちっぽさを演出するために嵌める。
「アラン、バート、起きろ」
ルクスはアランとバートを叩き起こして、二人が朝の準備をし始めた頃に食堂へ降りた。
ベネディクトゥス一家は揃っていて、すでに食事を終えていた。
「ルクス様、先に食べてしまい、申し訳ありません」
「謝らなくて大丈夫。約束の時間がもうすぐだから先に食べたんでしょ」
ルクスはそう言って、席に座ると給仕を呼んで注文する。
今日は野菜スープとオムレツ、コッコのささみ、黒パン、牛乳のセットだ。
(牛乳は、ミルクとも言うんだよね……モゥモ乳とかモゥモルクとかにならないのは何でだろう)
ルクスは疑問に思いつつ、食す。
(きっと、ベネディクトゥスに文字を教わったら分かる、筈)
という希望的観測を抱きつつ。
暫くしてルクスが食事を終える頃、朝の鐘が鳴る頃にアランとバートが降りてきた。
アランとバートはベネディクトゥスに急かされつつ、朝食を食べ終える。
「じゃあ、行こっか」
そして、ルクス一行は商人街にある商人ギルドにやってきた。
「わあ、神殿ほどじゃないけど、大きな建物だね」
「ええ、商人ギルドは大陸全土にある民間組織ですからね。商人ギルドは殆どの国から商売の権利を得ているので、商人ギルドに登録することで、多くの国で自由に商売ができるという仕組みなんです。まあ、国から直接、商売する権利を得て、独自に商売している商人も偶にいるようですが」
「なるほど……ところで、今の解説は俺達に授業をしてくれているという認識で良いのかな?」
ぽかんとしているアランとバートを横目で見つつ、ルクスはベネディクトゥスに問う。
「はい、僭越ながら、身近なところから知識を取り込むことが身になると思いまして……止めた方が宜しいでしょうか?」
「いいや、これからも宜しく頼む」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。じゃあ、入ろうか」
ルクスはベネディクトゥスたちを連れて商人ギルドの受付らしきカウンターにやってきた。
「いらっしゃいませ。ご要件をお伺いしても宜しいですか?」
受付の男性が、先頭にいるルクスに尋ねる。
「家を買いたいのですが、予算は大金貨五枚です」
「かしこまりました。奥のお部屋にご案内いたします」
受付の男性はルクスたちを奥にある応接室に案内した。
応接室には四人掛けのソファーが机を挟んで二つ置かれている。
ルクス一行は六人。二人余る。
「……」
受付の男性は焦った。見兼ねたベネディクトゥスが助け舟を出す。
「アラン君とバート君は立って、後ろに控えなさい」
「「えぇ!?」」
「ルクス様に敬語を使っていない罰です」
「「はぁーい」」
そうして、アランとバートは壁際で控えることになった。
ソファーには、左からヘレナ、ラエティティア、ルクス、ベネディクトゥスの順で座ることとなった。
ルクスが真ん中なのは、商人ギルドの職員と話しやすくする為の配慮だ。
受付の男性がペコペコ頭を下げつつ部屋を退出した後、暫くして、扉がノックされた。
やってきたのは、眼鏡を掛けた茶髪に茶目の真面目そうな青年だった。二十代くらいだろう。
「お待たせしました、物件を扱っております不動産部のアルノー・バルテルと申します。部長が外出しておりまして、代理で対応させていただきます」
「ご丁寧にありがとうございます。私はルクス、こちらはベネディクトゥスとヘレナ、ラエティティア。奥の二人はアランとバートといいます。早速ですが、私たち六人で住む家を紹介いただければ、と」
「失礼ですが、ルクス様は高貴な御方では……」
「私は身分としては平民ですね。ここには貴族の身分を持つ者はおりません」
「左様でございますか……」
「できれば、貴族街以外の物件を紹介いただきたいのですが」
「かしこまりました。先に身分証明書をご提示いただけますでしょうか?」
「これで」
ルクスは冒険者ギルドカードを提示した。
「確かに。ありがとうございます、ルクス様。では、この書類をご覧ください。六人以上で住まうことができる物件となっております」
アルノーは五つの物件をルクスに紹介した。
三つは商人街の豪商が住んでいたという大きい屋敷。
一つは冒険者街の高ランク冒険者が住んでいたという大きい屋敷。
最後の一つは、職人街の一角にある小さめの屋敷。十の寝室と十の客室、十の使用人部屋、そして、大きめの浴場、幾つか設置されたトイレは最新の魔導トイレだという。
ここには、優れた魔法使いの老人が住んでいた。
「ですが、お一人で住まわれるには余りに広く、魔法使いのご老人は最近、郊外の森に小さな家を建ててお引越しされました」
「そうですか……では、この職人街の物件を見たいのですが」
最新の魔導トイレというのが気になったルクスは、職人街の物件を一度見てみることにした。
「内見ですね、かしこまりました。行きましょう」
アルノーはルクスたちを連れて職人街に向かった。




