第103話 海の怪物
三泊四日の修学旅行も最終日を迎え、皆、帰り支度をしたり、土産物を購入したりと、慌ただしい。
すでに土産物を購入してあるルクスとラエティティアは海の女神亭の一階レストランでお茶を楽しんでいた。
そのとき、一階エントランスに駆けこんできた男が叫んだ。
「大変だ!!リヴァイアサンがやってきた!!」
その言葉に一階は騒然とした。すぐに逃げなければと荷物を纏めて出て行く者も多く、パニック状態だ。
リヴァイアサンはアルヒ王国の御伽噺に出てくる海の怪物で、国民なら誰もが知っている。
「ティア、みんなを探して貰える?」
「はい、ルカ君は?」
「リヴァイアサンを拝んで、倒せそうなら倒そうかな?」
「お気をつけて、ルカ君」
「ありがとう、ティア」
ルクスは海の女神亭を出て、空へと舞い上がった。
すると、海の向こうから巨大な何かが陸地へと近づいてきていることに気付いた。
ルクスはその何かがいる方に飛んでいった。
何かはとても大きな蛇のような姿をした怪物だった。
「海の怪物だーー!!」
「逃げろーー!!」
地上で人々が叫び逃げ惑っている。
「ふむ、大変なことになってるようだな、ルクスよ」
ルクスのアイテムボックスからひょっこり顔を覗かせているのはアルブムだった。
「アルブム!?なんでここに……お留守番してたんじゃ……」
「それではつまらぬからの、付いて来たのだよ」
「我もいるぞ、主」
ひょこっとルベウスがアイテムボックスから顔を出した。
「えーっと、二人とも、どうやってアイテムボックスに入ったの?」
ルベウスとアルブムは顔を見合わせた。そして、首を傾げた。
二匹とも可愛らしいので、首を傾げると更に愛らしい。
「「なんとなくできたな」」
ルクスよりも相当年が上だろうその二匹の言葉にルクスはずっこけた。
「我らの助太刀は必要か?ルクス」
「いや、二人ともまだレベリングしてないし、五十レベルだろう?相手はたぶん百はある筈……」
「ふむ、では見物させてもらおうかの」
「我も、見物する」
アルブムとルベウスはアイテムボックスから顔を覗かせた状態のまま見物するようだ。
ルクスは溜息を吐いた。
「分かった。危ないと思ったら、アイテムボックスの中に入ってなさい」
「「分かった」」
ルクスは飛び上がり、蛇のような巨大な怪物を鑑定した。
【嫉妬の魔王】
最下層のダンジョンボス。邪神の眷属にして、七つの大罪の一つ【嫉妬】を持つ魔王の分身。スタンピードにより地上へ出てきている。
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ルクスは目を丸くした。
(魔王……スタンピードで出てくるとはね。分身で良かったな)
ルクスは詳細を確認した。
【嫉妬の魔王(分身)】
種族:邪蛇
性別:雄
年齢:???
レベル:100
???
(前世ではレヴィアタンをリヴァイアサンとも言ったから、この嫉妬の魔王が、ベルムマレの住民たちが叫んでたリヴァイアサンのことだろうな)
ルクスはそう思いつつ、巨大な雷の槍を幾つも宙に出現させた。
「行け」
その一言で雷が物凄い速さで嫉妬の魔王の身体に突き刺さっていった。
ギュアアアア!!
嫉妬の魔王の叫び声が辺りに響く。痛みを堪えつつ、嫉妬の魔王は元凶を探した。
上空のルクスを見つけた嫉妬の魔王は、自身の身体が届く場所ではないことを知ると、口をがっと開いた。開いた口の前に巨大な水球が生成されていく。
そして、激しい勢いで水が噴射された。
向かってきた水を華麗に避けたルクスは、海上の異変に気付いた。
嫉妬の魔王の叫びによって呼び起こされたのか、巨大な津波がベルムマレに向かっている。
サンゴ礁があっても、あの津波を防ぐことはできないだろう。
街の方に目を向けたルクスは、仲間の姿を目にした。
無属性魔法の拡張音声でルクスは声を仲間に届ける。
「ティア、バート、シルウェステル君、レヴァナさん、エクトル君!津波対策よろしく!」
「「はい!」」
微かに聞こえた返事と、彼らが頷いたのを見たルクスは嫉妬の魔王の元に向かった。
ラエティティアたちは近づいてくる津波に向かって、魔法を使った。
「【凍てついた世界】」
ラエティティアが氷属性の神級魔法を使った。海は津波含めて一面凍てついた。
「バートさん、レヴァナちゃん、シルウェステルさん、エクトルさん」
「うん」
「「はい」」
バート、レヴァナ、シルウェステル、エクトルが前に出た。
「「【審判の炎】」」
バートとシルウェステル、レヴァナが同じ火属性の超級魔法を放つ。
三つの巨大な白い火柱が凍った津波を蒸発し尽くした。
「【深淵の虚】」
エクトルが闇属性の超級魔法を使った。
巨大な闇が現れ、海を呑み込んだ、かのように見えたが、水が戻っていき、しばらくして、海は何事もなかったかのように凪いでいた。
五人の仲間が津波をどうにかした頃、ルクスは嫉妬の魔王をぼっこぼこにし、交渉するため、話しかけていた。
「ねぇ、これ以上痛い思いはしたくないよね?」
「うん……」
「じゃあ、俺が君をテイムしようとしても拒絶しないでね?」
「……うん」
「【テイム】」
嫉妬の魔王の身体は眩い光に包まれた。
[【嫉妬の魔王】が邪神の眷属ではなくなりました]
[神蛇(幼体)を従魔にしました]
[【深海ダンジョン】を攻略しました。報酬として、【紫陽剣】を贈ります]
[神々が貴方に歓声を送っています]
ルクスはホログラムウインドウを見て、目を丸くした。
(深海ダンジョン行ってないのに、攻略したことになってるし……というか、ゲームでは深海ダンジョン自体無かったような……)
困惑気味のルクスだが、とりあえず、自分の従魔になった元魔王を探した。
幼い白い蛇のような姿になった元魔王が、海に浮かんでいる。
ルクスは幼い白い蛇を抱き上げた。
「気分はどう?」
「すっきりしてる」
「良かった。鑑定してもいい?」
「うん」
ルクスは幼い蛇を鑑定した。
【NO NAME】
幼い神蛇。ルクスの従魔。
(嫉妬の魔王だったが、ルクスが従魔にしたことにより、その権能は邪神に返還され、邪神の眷属ではなくなった。邪蛇ではなく、本来の姿になった。長らく、神々から離れていたため、力を失っているので、幼い)
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ルクスは詳細を確認した。
【NO NAME】
種族:神蛇(幼体)
性別:雌
年齢:???
レベル:50
???
ルベウスと同じような鑑定結果にルクスはほっとし、幼い蛇に目を向けた。
「名をつけても良いかな?」
「うん」
「じゃあ、君の名前は『ヴィオラ』。古代ウェトゥム語で紫の花という意味があるんだ」
「素敵な名前だね、いいよ」
幼い蛇──ヴィオラの身体は淡い光に包まれた。
ルクスが鑑定すると、名前がヴィオラに変わっていた。
「じゃあ、ヴィオラ、みんなとアイテムボックスの中で大人しくしていてくれる?」
「うん、私の最初の任務は大人しくする。がんばる」
「……アイテムボックスの中にある果物は食べても良いからね」
「了解した。果物……じゅるり」
ヴィオラは果物が食べたいようで、すぐにアイテムボックスの中に入っていった。
「あはは……、さて、俺は街に戻ろうか」
ルクスが街に降り立つと、人々が口々に叫んだ。
「街を救った英雄が戻ってきたぞーー!」
「ここだ!ここーー!」
えええーー!?と内心叫びつつ、ルクスは集まってきた人々に握手をせがまれて、握手しつつ、海の女神亭に戻った。
海の女神亭の中も凄い人だ。
レストランには席についているラエティティアとバート、シルウェステル、レヴァナの姿があった。
「ルカ君!こっちです!」
ラエティティアの隣が空席になっている。ルクスを待っていたのだろう。
「ティア、みんな、津波を止めてくれてありがとう」
「いいえ、ルカ君がリヴァイアサンを討伐してくれたことに比べれば、些細なことです」
「討伐?」
ルクスの疑問に答えるべく、ラエティティアは和紙を取り出して、鉛筆で記載していく。
和紙には『リヴァイアサンをテイムしたことは黙っていた方がいいでしょう』と書かれている。
「どうして?」
ラエティティアは、和紙に続きを書く。『もし、リヴァイアサンが生きていると民が知れば、脅威に思うでしょう。それは避けた方が良いです』と。
「なるほど、ありがとう。ティア」
「どういたしまして、ルカ君」
「……そういえば、なんでレストランにいるの?」
ルクスの素朴な疑問にラエティティアは応えた。
「その……ルカ君がリヴァイアサンを討伐したのを見た皆様がお祭り騒ぎになりまして、私たちは先にレストランで待つようにと、連れて来られました」
なるほど、とルクスは頷く。
「それで、街中の人が今、このレストランに食材を持ってきてくれているんだよね……」
シルウェステルが困ったような表情でレストランに食材を持ち込むためにレストラン前で並んでいる人々を見た。
ルクスもその様子を見て、顔を引きつらせた。
「うわぁ……」
「まぁ、みんなでお祭り騒ぎになれば、僕たちがいなくなっても気にならなくなるだろうから、それまで待とう」
「そうだね……」
そのとき、給仕たちがルクスたちの机に近づいてきた。
「街の英雄様方、どうぞ」
と言って、山のように豪華な食事を並べていく。
「「ごゆっくり」」
給仕たちは厨房に戻っていった。
「……ゆっくり食べようか」
「「……はい」」
ルクスたちは、豪華な食事を少しずつ、食べていった。




