第10話 続・占い師と踊る少年
ルクスは、商人街の中心地にある市場にやってきた。
市場の一角で店を出している謎の占い師の元にルクスは向かった。
「げ……いらっしゃいませ。タロットか霊視、どちらにしますか?」
またやるの?という嫌そうな表情を一瞬浮かべた謎の占い師はすぐに営業スマイルを浮かべた。口元が引き攣っているが。
「タロットで」
ルクスは銅貨三枚を謎の占い師に渡す。
「大アルカナ、それとも小アルカナ?」
「小アルカナで」
「……始めます」
謎の占い師は小アルカナのタロットカードを取り出して、シャッフルする。
「一枚引いてください」
ルクスは一枚のタロットカードを引いた。
「ワンドのエースの正位置ですね、このカードには、新しいことへのチャレンジが成功するという意味が込められています。何か新しいことにチャレンジすると良いでしょう」
「アレイ再生をお願いします」
「アレイ再生ねー、分かりました」
「……アレイ再生はやったことがあるんですね」
「ええ、疲れるからあんまりやらないですが、貴方は不思議な魔法が使えるみたいなので、やってあげましょう」
アレイとは、セフィロトのセフィラの周りにある葉のようなもので、小アルカナと深い結びつきがある。
五十六枚あるアレイは活性化しているセフィラの周りのアレイでないと再生できない。
「【数と生命、世界と貴方、全ては神秘の中にある。おお、生命の樹よ、その葉を再生せよ】」
謎の占い師が唱え終わると、ルクスの身体が淡く光った。
アレイが一つ再生された。
「疲れた……で、またアレをやるんですか?」
「勿論です」
ルクスはその場で一回転して、ポーズを決めた。
パス結びの時とは違うポーズだ。
回復した謎の占い師にルークはまた、占いを頼んだ。
「タロット、お願いします」
ルクスのきらきらした目に見詰められた謎の占い師は、深く溜息を吐いて、小アルカナのタロットカードを取り出した。
「ありがとうございました。これで全部再生できました」
「そう、ですか。良かったです」
謎の占い師は引き攣った笑みを浮かべている。五十六回もアレイ再生をさせられたので、精神的に疲れたようだ。
「たぶん、これで終わりだと思いますので、安心してください」
「それは安心しました……。稀なる資質をお持ちのお客様、ご利用ありがとうございました」
謎の占い師はそう言ってお辞儀した。
ルクスは会釈しつつ、その場を後にした。
(五十六回も回ったりポーズ決めたりしたから、少し疲れたな。昼ご飯でも食べるか)
現在は正午を少し過ぎた頃だ。
ルクスは時計を持っていないので、正確な時間は分からないが、どの街にも鐘があり、決まった時間に鳴るので、街の人々は大体の時間を認識できている。
鐘は朝の九時、正午の十二時、午後の十五時、夕方の十八時に鳴るようになっている。
時間は前世と同じで、六十秒で一分、六十分で一時間、二十四時間で一日だ。
一週間は七日で、一ヶ月はどの月も三十日で、一年は十二カ月だが、ルクスの前世よりも短く、三百六十日だ。
月の数え方はルクスの前世と違う。
一年の始まりは春で、四月に相当する月を美月。
草木が瑞々しく、過ごしやすい五月に相当する月を慈月。
雨季で、じめじめとした日が続く六月に相当する月を栄月。
夏の気配を感じ始める七月に相当する月を理月。
夏真っ盛り、太陽の光が眩しい八月に相当する月を冠月。
暑さが残るが、秋の匂いを感じ始める九月に相当する月を勝月。
歓喜の声が響く、実り豊かな秋。十月に相当する月を国月。
秋が深まり、冬の気配を感じ始める十一月に相当する月を礎月。
厳しい冬の寒さに身を寄せ合う十二月に相当する月を知月。
まだまだ寒さが厳しい一月に相当する月を厳月。
冬の終わりが見え始めた二月に相当する月を無限月。
春の気配を感じ始める三月に相当する月を光月。
曜日もルークの前世と違う。曜日は創造の七日間に因んで設定されている。
この世界の創造の七日間は、下記の通り。
一日目、神々と混沌が産まれた。
二日目、神々は宙を創る。
三日目、神々は星を創る。
四日目、神々は一つの星を管理する為に精霊を創った。
五日目、神々はその星に龍を創った。
六日目、神々はその星に様々な生命を創り、創造を終えた。
七日目、神々はその星を祝福し、安息を取った。
週の始め、月曜日に相当するのは神産日。
火曜日に相当するのは宙日。
水曜日に相当するのは星日。
木曜日に相当するのは精霊日。
金曜日に相当するのは龍日。
土曜日に相当するのは生命日。
日曜日に相当するのは祝福日。
前世を思い出したルクスからすると違和感が半端ないが、その内、慣れていくだろう。
(あ、ここだ)
商人街の中心地である市場から少し南西に向かった場所に、こぢんまりとしたお食事処つまりはレストランがある。
アルヒ王国でポピュラーな食事……ルクスからすると洋食が美味しいその店の名は幸運の食事処という。
からんからん、というベルの音を響かせ、ルクスは店に入った。
近くの席に座ったルクスの前に猫獣人の中年男性が水を持ってきた。
「いらっしゃい。メニューは壁の黒板を見てくれ」
「あ、えーっと。じゃあ、『日替わり定食』で」
「あいよ」
ルクスはメニューを読めないが、ゲームでよく日替わり定食を注文していたことを思い出し、注文した。
この店の日替わり定食はバフが付くので、ゲームでよく利用していたのだ。
店の説明文に味が最高と書かれているのを覚えていたルクスは実際に食べてみたくなって、来店した。
暫くして、良い匂いがルクスの鼻腔を擽り始めた。
涎が分泌されるのを感じつつ、ルクスは待った。
「へい、お待ちどうさま。日替わり定食『コッコのむね肉ネギ塩タレ定食』だ。東の島国の食材を取り入れて作ってみたんだ。口に合わなかったら別の料理に変更可能だ」
ネギはこの世界でもネギと呼ばれている。
「ありがとうございます。たぶん、大丈夫です」
ルクスは軽く祈りを捧げて、定食に付いてきたコッコの骨などで出汁を取ったらしい春野菜のスープを一口飲んだ。
衝撃が走る。
「美味しい……!」
眠り猫亭の春野菜のスープも美味しいが、この幸運の食事処のスープは凄まじい。
ルクスはサラダも食する。塩とオリーブオイルのようなものだけで味付けしているシンプルなサラダだが、野菜の美味しさが引き立っていて、サラダも最高だ。
そして、メインディッシュのコッコのむね肉ネギ塩タレだ。
ぱくり
ルクスは一切れを口にした。
「!!!」
あまりの美味しさに幸せを感じたルクスは顔を蕩けさせる。
(コッコがとても柔らかい。調理の仕方が良いんだな。コッコそのままの味とネギ塩タレの味のハーモニーが美しい……まるでオーケストラのようだ)
ルクスはあっという間に『コッコのむね肉ネギ塩タレ定食』を食べ終えた。
[バフ【MP増強】が付きました]
バフを付けられるのは、ジョブ調理士の二次職調理師からだ。恐らく、幸運の食事処の店主は調理師なのだろう。
運が良ければ、永続バフが付くのだが、ルクスが引き当てたのは普通のバフだった。
ルクスはバフには目もくれず、食事が美味しかったことに満足していた。
「とっても美味しかったです。ありがとうございました」
ルクスは店主のいるカウンターにやってきて、お礼を言う。
「いいや、気に入ってくれて良かったよ」
「お代をお支払いしたいんですが……」
「おお、忘れてたな。銅貨七枚だな」
「はい、これで」
「丁度だな。ありがとうございました~」
ルクスは笑顔で店を出た。
本当に美味しかったのだろう。幸せそうだ。




