一章④
あれからダンデとドレシアと見張りを交代し眠りについて、気付いたら朝日の眩しさで目が覚めた。夜は魔獣の襲撃もなく、つまんなかったとドレシアが愚痴っている。シユリもぐっすり眠れたのか、昨日よりかはすっきりした顔をしていた。
「飯を食ったら出発するぞ。」
「夜より朝の方が魔獣活発みたいだしねぇ…。」
ちらりと辺りを見回すと、いつの間にか小型の魔獣がうろうろと近くを駆けている。私達は焚き火の跡を処理した後、再び街道へと戻って歩き始めた。
そして、昨夜の話を三人にも告げる。驚きはあったみたいだが、血とか種族だとかどうでもいいよと言ってくれた。シユリは私の魔力の高さに納得した様子だった。
「リリィってば、改まって言うから何なのかと思ったよー!」
ドレシアが私の肩に抱きついてくる。もふもふの耳が当たって少しこそばゆい。シユリも空いた手を握って並んで歩く。三人並んで団子状態だ。
「モテモテだねぇ。」
グラジオがからかい笑う。ダンデは何も言わず今までと変わらず接してくれた。それが何だか嬉しかった。
たまに飛びついてくる魔獣を倒しながら、街道に沿って歩いていると遠くに建物が見え始めた。どうやら首都が見えてきたみたいだ。だけど、近付くにつれ異質な様子に警戒を高める。
首都の建物は幾つもの大きな岩に押しつぶされ、瓦礫や崩れた岩の欠片でボロボロになっていた。無事な建物もあったが崩落の危険を考えれば人が住むのは難しいだろう。
「滅んだ国、か。」
歩けそうな道を探して街を見て回る。人の気配は無い。マグノリアの話ではここを守っている人が居ると言っていたが。
瓦礫を避けて街の中心を目指して歩いていくと奥の方に城が見える。古城と比べても大きく立派な作りで、一部は崩れているものの無事な部分も多い。
「とりあえず城まで行くか。」
「そうね。」
真っ直ぐには行けそうにない。岩と瓦礫で塞がれた道を迂回しながら、方向を見失わないように城の元へと向かう。ひび割れた道もあり、歩くだけで一苦労だ。
「足元、気を付けろよ。」
ダンデがそう言って手を差し伸べる。瓦礫に混じってガラスの破片や木片が散乱している。手を引かれ瓦礫を飛び越えると城はもう目前に迫っていた。
「おっきい…。」
シユリは大きな城を見上げて圧倒していた。古城も中々の大きさだったが、城は広いだけではなく装飾も施され崩れても尚豪華さを保っている。中に入る扉は開けっ放しで、玄関から大広間が覗いていた。
私達はそのまま城の中へと足を踏み入れる。離れは岩で潰れていたが、ここは綺麗なままだ。
「…誰か、居ませんかー?」
しばらく耳を傾けていたが返事はかえってこない。入れそうな部屋をしらみ潰しにあたってみても、誰もおらずシンと静まっていた。だけど、何故か部屋は誰かがいた痕跡を残している。テーブルは埃ひとつなく磨かれているし、床にも瓦礫の欠片や石ころひとつ落ちていない。
「あとはここだけか。」
ダンデはまだ入ってない最後の部屋を開けようとする。しかし鍵がかかっていてガチャガチャとドアノブが音を鳴らすだけだった。
「…壊す?」
「流石にマズイだろ…。」
魔法を発動させようとしていたドレシアを止める。いくら誰も住んでいないとはいえ、誰かが管理しているのだから無闇に壊す訳にはいかない。
「お前達、そこで何をしている!」
背後から怒鳴り声が聞こえて慌てて振り返ると、人がこちらへと走ってくる。バターブロンドの髪にアンバーの瞳、頭には狼のような灰色の耳。彼がマグノリアの言っていた人だろうか。
「ここは聖域だ。王族以外の立ち入りは許されない。」
そう言って槍をこちらへ向けて構える。城に不法侵入して荒らそうとしてるように見えたのだろう。私達は手を挙げて悪意がないことを必死に説明する。
「…マグノリアが言ってた、外界のやつらか。」
なんとか納得してくれたらしく彼は槍をしまう。そして、この場所で話し込むのは止めようと言い、広い食堂の方へへと移動することにした。
「オレはジニア、ここで城を守っている。」
私達も一人一人自己紹介をしてから、今までの事情を説明する。エレベーターで降りた地下からゲートを通り、マグノリアと出会いここまでやって来た事を。
「…外界へ戻る方法か。ゲートが繋がれば戻れるはずだが。」
「そのゲートってのはどこに?」
「…あの瓦礫の下さ。」
その言葉に皆ガッカリする。ここまできて収穫無しではこれからどうしようもない。来た道を戻ってゲートが再起動するか確かめるか、この先に他のゲートがないか探すしかない。だが、どちらにしても情報が無さすぎる。
「もしまだ機能しているのなら、時間はかかるが瓦礫を撤去すればいい。」
「撤去って…。あの巨大な岩の塊をどうしろって言うのよ。」
離れの塔と同じ程の巨大な岩。とても人の力では動かすことは出来ないだろう。魔法でどかすにしても相当な魔力が無ければ無理だ。
「地属性の魔法を使えるやつはいるか?」
「グラジオだけね。」
人にはそれぞれ適した属性の魔法がある。私は光と炎、シユリは治癒と音、ドレシアは風と雷、ダンデは水と氷、グラジオは地と木。ほかの属性が全く使えない訳ではないが、一番魔力の効率がよく発動できるのだ。
「先程の聖域には魔力を増幅させる魔道具がある。それを使えば何とかなるかもしれない。」
「でも、王族しか入れないって…。」
そう言うとジニアが自分の胸に手を当ててここに居ると、告げる。
「…オレがこの国の王族の生き残りだ。」
そう言ったジニアの瞳は少しだけ哀しげだった。




