一章③
私達は古城を出て、行くべき方向を確かめることにした。古城の入口から少し歩くと広めの整備された道が続いている。方角的にもこの先が首都へと続く道だろう。
「…変な人だったわね。魔族って全員あんな感じなのかしら?」
「さぁな…。」
ドレシアの呆れたような問いにダンデが落ち着いた様子で答える。あの人は種族とか関係なしにあの性格なのだと思う。勿論、純血魔族として誇りはあるのだろうが。人と一線を置いているようで、興味の有無だけで対等な関係を求めてはいない。そんな感じがした。
「にしても、歩いて二日か…。寝床は期待できないし、交代で寝ずの番をしながら休むしかないか。」
「えぇー!野宿なのっ!?」
「仕方ないだろう。」
駄々をこねるドレシアを窘めながら歩き出す。二日間の辛抱だと言っても、硬い地べたじゃ寝れないとか肌が荒れるとか。何を言っても無駄なようで早々に諦めると、少しむすっとした顔でそっぽを向いていた。尻尾がふりふりと不機嫌そうに動いている。
「なんだかキャンプの時を思い出しますね。」
「あぁ、あの時もドレシア虫がいて嫌だとかテントじゃ寝れないって騒いでたね。」
シユリの言葉に数ヶ月前の学校行事を思い出す。自分たちでテントをたてて、川で魚釣りして夕飯を確保したり。サバイバルに近いものがあったが、なんだかんだで楽しかった記憶がある。
だけど、今回は魔獣のいる危険な場所。ちょっとの油断で命に関わるかもしれない。右腕にはめたブレスレットを指でなぞるように触れ、いつでも魔法を使えるように周囲に注意を払う。
古城を出て数時間、そろそろお腹が減り私達は昼食を取ることにした。これまでに狼や熊のような魔獣と数回遭遇し倒してきたが、少しは実践での戦いに慣れてきたのか何も言わずとも各々が自分の役割をこなすようになっていた。
道端に座り荷物を広げる。マグノリアの用意してくれた荷物には水や食料だけじゃなく、魔法でサイズがかわる毛布やランタンなども入っていた。
「なんと言うか、準備が良すぎるような…?」
「ほんと変わったやつだったな。」
あんな何も無い平原の中で一人過ごしている、と言うのもなにか意味があっての事なのだろうか。全てを見透かしているような瞳が頭に浮かぶ。あの人は私の事も知っていたのだろうか。
「少しは元気出た!」
ドレシアはいつの間にか機嫌を直して、早く出発しようと急かしてくる。
「いつものドレシアさんに戻りましたね。」
「そうだね。」
シユリが小さな声でそう呟く。私も荷物を片付けてから立ち上がり皆の後を追った。明るいうちに進めるだけ進んでおけば、少しは早く首都へ辿り着けるかもしれない。少しごつごつした石畳を踏みしめながら歩く。
相変わらず魔獣達は多かったが、何度か撃退していく内にこちらを狙ってくる魔獣も減っていった。隙を見せない限り襲ってくることもない。倒された魔獣達をみて学習したのだろうか。それでも安心は出来ない。
もうそろそろ日が暮れる。夜になれば私達の方が不利になってしまう。歩き続けて疲れもたまっているし、交代で休むのなら戦力も今の半分になる。
「そろそろ休もう。」
ダンデは辺りを見渡して一本の木の下を指さす。私達は木の近くまで行き、荷物を下ろした。地面に落ちた木の枝をかき集めて魔法で火を灯す。ランタンの光だけでは心許ないのと魔獣避けにもなる為だ。
「とりあえず、戦力がバラけないように交代を決めるか。」
「じゃあ、俺とダンデは別が良さそうだな。」
話し合った結果、最初は私とグラジオ。次にダンデとドレシア。シユリは補助魔法専門なので必要になったら起こす事になった。
焚き火を囲んで夕食をとる。そして、三人は早めに休むことにし私とグラジオは周りを警戒しながら軽く話し合ったり、今日の出来事を確認しあったりした。
「…なぁ、今朝あいつと何話してたんだ?」
「えっ…!?」
唐突な質問に驚いて声が出る。隠すような事ではないけれど、皆を差し置いてマグノリアと話していたと言う事に少し罪悪感を抱いていた。
「私の種族について、かな。魔族の血が少し入ってるんだって。」
「!…そう、なのか。」
グラジオは私の事情を知っている。町外れに捨てられていた赤ん坊の私を町長さんが拾って今まで育ててくれたのだ。エルフでも獣人でもない混血種。そんなに珍しい事ではないが、大抵の人は一つの種族の血が濃くなり姿に現れる。
「…ぜんぜん、魔族っぽくはないよな。」
「そりゃ、あの人みたいに純血じゃないし。」
からかうようなグラジオの口調に私は表情が柔らかくなるのを感じた。幼い頃からそうだった。歳が同じでお隣さんだったからか一緒に遊ぶことも多く、いじめてくる男の子を追い払ってくれたり。学校でも何かと気にかけてくれている。
「何の種族の血が入ってようが、お前はお前だよ。」
「…うん。」
心のモヤモヤが薄れていく。やっぱり一人で溜め込んでちゃダメだ。明日、他の皆にも話してみよう。多分それがどうしたって、みんな言うんだろうな。温めたコーヒーを口にしながら想像した。




