一章②
チュンチュン。
小鳥の囀りが聞こえる。瞼を擦りながらベットから起き上がり、まわりを見渡すとそこは私の部屋ではなかった。昨日の事を思い出してハッとする。
「夢、じゃないよね…。」
隣を見るとドレシアとシユリがすやすやと寝息を立てて眠っていた。私は二人を起こさないようにゆっくりと窓際へと移動する。窓の外には草原と一本の轍が見える。昨日私達が歩いてきた道だ。
「随分と早い目覚めだ。寝心地は良くなかったかね?」
突然声をかけられて振り返るがそこには誰もいなかった。気のせい、ではないはずだ。警戒しながらきょろきょろと部屋の中を見渡していると扉が音もなく開いた。
「こちらだ。この声はお前にしか聞こえていない。」
マグノリアの声だ。自然と足が進み扉を抜けて昨日の部屋まで辿り着く。彼は昨日と同じく深々と椅子に座り込んでいた。指を鳴らすと彼の正面に椅子が現れる。座れ、という事だろうか。私は恐る恐る椅子に座り彼の顔色を伺う。
「あの…。」
「お前には我と同じ血が流れているようだな。随分と薄くはあるが。」
「っ!?」
その言葉に冷や汗が流れる。私は尖った耳をしているが、エルフでもなく混血種として扱われてきた。両親がいない為、自分という存在がなんなのか今まで分からなかったのだ。
「…自覚がなかったのか。魔族は高い魔力を持つ。その才はありそうだが。」
確かに学年では魔力は高い方だった。特に光や炎に対して適性があるのだと。一方で回復や補助魔法は扱うことが出来なかった。
「それは、私達がここへ来た事と関係…してますか?」
辿たどしく尋ねると彼がニヤリと口角を上げる。いたずらっぽくもあり、嬉しそうにも見えた。
「全く関係がない訳ではない。…だが、もっと他に原因はあったのだろうな。」
マグノリアはそう言いながら手にしたグラスを傾ける。全てを知っているような口ぶりだが、全て素直に話してくれそうにはない。なにか理由があるのか、または反応を見て楽しんでいるだけなのか。
「…知りたければ、西を目指せ。そこに首都がある。と言っても、ほとんどの者は他所へ避難しているがな。」
「首都…。」
そこに何があるのか訪ねようとした時、扉を開く音が聞こた。そこには険しい顔をしたダンデが立っている。
「一人で何してんだ。話は皆で聞くべきだろう。」
「っ…!ごめん!」
少し気まずくて、まともに顔を合わせられない。俯いていると、他のみんなも次々に部屋の中へ入ってくる。
「…まぁいい。話は後にして朝食にしよう。」
マグノリアがそう言うとテーブルと椅子が現れる。そして、全員が席につくと出来たての温かいスープとパンがテーブルの上に並べられた。聞きたいことは沢山あったが、今はありがたく朝食を頂くことにする。
食事を終えると目の前にあった食器がいつの間にか消えていて、代わりに食後の紅茶が煎れられていた。マグノリアの手には赤い飲み物の入ったグラス。ワインだろうか。
「…さて、聞きたいことはなにかな?答えられる事であれば、答えてやろう。」
しばらくの沈黙。皆なにから聞けばいいものか悩んでいるようだった。
「ここは、なんと言う国なんだ?」
ダンデが軽く手を挙げて訊ねる。まずは確実な情報から得ようと、慎重に質問していく。
「…ユッカ。かつて、そう呼ばれていたな。」
「かつてって…。今は違うの?」
ドレシアが怪訝そうな顔で返す。
「とっくに滅びた国さ…。」
少し悲しげな目で言うと、彼は一枚の紙をテーブルに広げる。どうやらこの国の地図のようだ。
「今いるのがこの草原地帯、首都はここから西へ数日歩けば着くだろう。」
「だが、滅んでいるのなら誰もいないんじゃないのか?」
「…一人だけ、あの場所を守るように居座ってる奴がいる。そいつの方が国の事情には詳しいだろう。」
それから私達はエレベーターから水のゲートを渡りここにやって来たことを話してみたが、その事については知らないの一点張りだった。ただ外界とこの内界については少し詳しく話してくれた。
「この内界はお前達の住む外界の地中深くに存在している。」
「ちょっと待て!じゃあ、あの空は、太陽は何なんだよ!?」
私達は改めて窓から外を見る。雲ひとつない青空に太陽。とてもじゃないが、ここが地中だとは思えない。
「…詳しくは知らんが、王族が魔法で擬似的な空を投影させているらしい。」
「本当だとすれば、どれだけ膨大な魔力を使っているのでしょう…。」
シユリが空を眺めながら言う。確かに本物そっくりな空を国中から見えるようにする、それだけの事を出来る魔法使いはこの世にどれほど存在するのだろうか。
「旅に必要なものは用意しよう。後は好きにするがいい。」
マグノリアは質問はこれで終わりだと言わんばかりに話を切り上げて、食料や水の入ったリュックをテーブルの上に出現させる。私達への興味も失せたのか、ワインを口にしながら片手で本を取り出し開いていた。
私達は顔を見合せて頷くと荷物を手に取り、彼に礼を告げて古城を後にすることにした。




