表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界アサンスール  作者: Lobelia sae


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

序章

 この国は地震が多い。大きな揺れが観測される度に古い建物は崩落し、新しい建物へと立て替えられてい行く。そして、古い建物は両手で数えられる程しか残らなくなった。

 そんなこの国に高層ビルが建ったのはつい最近の事。目立った観光地のない、この小さな町には不釣り合いなほど綺麗なビル。どうやら下層に商業施設、上層には高級ホテルが入っているらしい。田舎にはないブランドショップ、品揃えのいい生鮮食品。利用者には有難いが、昔ながらの商店には受け入れられてないようだった。


 私はリリィ=カサンドラ16歳。髪は腰まで届く明るいプラチナブロンドで瞳は琥珀色。魔法学校に通う二年生で成績は中の上、体力テストは下から数えた方が早い。そんな平凡な女学生。今日は休校日で友達と出来たばかりのランドマークへと買い物に行く予定だ。

 休みとはいえ、委員の仕事がある為早めに登校して雑務を終わらせる。時計を確認すると約束の時間まで20分といったところだった。私は急いで後片付けを済ませると、校門を出て真っ直ぐ待ち合わせのランドマークへと急いだ。



「おまたせ!」


 すでに数名集まってるところに駆け寄り、走って乱れた呼吸を整える為に深呼吸をする。どうやら、私が最後ではないみたいだ。


「一番じゃないなんて珍し〜い!雪でも降るのかしら?」


 そう悪戯に笑みを浮かべながら軽口を叩く女性、ドレシアはわたしと同じ制服姿で黒い髪をサイドでまとめていた。そして、頭には狐のような耳。彼女は獣人族で耳だけではなく尻尾もふさふさと綺麗な白銀の毛が生えていた。


「委員の仕事か?手伝えば良かったな、すまない。」


 そう言って申し訳なさそうな顔をしているのはダンデ、同じく制服姿に茶色い髪と黒い瞳をしている。優しげな顔と性格のおかげで女子には大人気らしい。


「おれも!今度は手伝うから何時でも言ってくれ!」


 ダンデに張り合うように身を乗り出してきたのはグラジオ。青い髪に金色の瞳、そして尖った耳のエルフ族。制服を着崩しているせいで、どうしても軽い性格に見られがちだが熱血漢で根性で何でもどうにかなると思っているようだ。


「シユリはまだみたいだね、珍しく。」


 辺りを見回したが、それらしい姿はなかった。と言っても学校が休みのせいでそこらじゅうに学生服の人が溢れている。でもシユリは他と違って目立つ為、この人混みでもきっとすぐに分かるだろう。

 みんなとどこの店を回るか話し合っていると、こちらに向かって走ってくる少女の姿が見えた。シユリだ。真っ赤な短髪と瞳に黒い兎の垂れ耳が特徴的で、何よりも小さい。実際、私たちより四つほど歳下なので制服を来てなければ小学生だと言われても疑問に思わないくらいだ。


「すみません、生徒会の仕事が長引いてしまいました!」


 シユリはそう言って頭を何度も下げている。謝り癖はあいかわらずだ。


「まだ時間前だよ、頭上げて!」


 慌ててシユリに駆け寄り宥める。時計は10時前。集合時間の10時にはまだなっていない。


「あっ…。」


 その事に気付いたシユリは頭を上げて恥ずかしそうに手で顔を覆っていた。たいへん可愛らしい。同級生だがどうしでも庇護欲にかられてしまう。



「さてと、まずは本屋だっけ?」


 ドレシアがパンッと手を叩いて、その場を仕切っていく。こういう事は彼女に任せた方が面倒がなくていい。ダンデとシユリは自分の事を後回しにするし、わたしとグラジオは自分を優先しがちになってしまうから。全員の意見をまとめて効率良く回る為には彼女のような仕切り役が必要なのだ。

 全員一致でまずは二階にある本屋へと向かう。オープンしたてで人が多かったが、意外と本屋はがらんとしていた。


「じゃあ、各自買い物を済ませたらエレベーターの近くで待ち合わせね!」


 ドレシアはそう言うと、占い本コーナーに直行していった。彼女は魔法だけじゃなく占いやお呪いにも興味があるらしく、図書館でもその手の本を読み漁っていた。だが、元々あまり本数がなかった為学校の本は全て読み終わり新しい本を求めていたのだ。

 他の友達たちも各々興味のあるコーナーへ向かい、私は歴史のコーナーへと足を運んだ。そこには沢山の分厚い歴史書が並ぶ。学校より種類が多いし、何より他国のものも多い。私は夢中になり一つ一つ手に取り慎重に本を選んでいく。

 そして、一冊の本を手に取りレジへと向かった。この魔法学校がある島に関する歴史書。学校のとは違い、変わった伝承などが、書かれてあり一目で気に入ってしまった。代金を払い終えて、エレベーターに向かうとまだ誰も戻ってきていなかった。

 私は買ったばかりの本を手に取りページをめくる。地震が多い理由、島の地下に存在する魔法石、別の世界を写す不思議な湖の話。歴史書という感じはしなかったが、この島に何かあると思うとわくわくした。

 そして夢中で本を読んでいると四人が並んでやってきた。どうやら、レジで一緒になったみたいだ。


「早速読んでるの?勉強熱心だね〜。」


 ドレシアが揶揄う。私は興味のあることにしか勉強する意欲が湧かない為、成績は教科によってバラバラだ。


「次は魔法具でしたっけ。」


 シユリがバッグに買ったばかりの本をしまい、そう言った。この島には魔法学校があるくせに魔法具の店はないのだ。たまに学校でパンフレットを渡されて、各々購入するようになっている。だが、やはり自分で使うものなのだから手に取って選びたいものだ。


「五階、ですね。」


 私達はエレベーターに乗り込み、五のボタンを押す。流石と言うべきか、最新式のエレベーターは音も振動もなくあっという間に五階へとついた。

 魔法具店は杖から指輪まで様々な物が店舗ごとに並び、同じ魔法学校の生徒たちで溢れていた。どうやら皆考える事は同じらしい。私達は女子と男子に分かれて、売り場を見て回ることにした。


「あっ、これ可愛い!」


 シユリは星型のイヤリングに見惚れていた。ただのアクセサリーに見えるが、これも魔法具の一種で魔法の力を安定させる効果がある。

 私はブレスレットを品定めして、しっくりくるかどうか腕にはめては元に戻していった。効果は同じでもデザインが沢山あって迷ってしまう。私が欲しいのは魔法力強化の魔法具。少ない魔力でも爆発的な力を一瞬だけ解放させる事が出来るのだ。

 あれでもないこれでもないと迷ってるうちに一つ魔道具が目に入る。デザインはシンプルだが、なにか引きつける物があった。こういう時の勘は当たるものだ。私は店主に声をかけて魔道具を購入する。タグは外してもらって、そのまま腕にはめる。新品なのに長いこと使い込んだような、しっくり感があった。


「ねぇ、リリィ!これとこれ、どっちが似合う?」


 ドレシアがハートモチーフの髪留めを二つ手に取って私に訊ねる。こういう時は大体本人の中でどちらか決まってるものだ。私はしっかり髪留めを見比べる。


「右、かな。」

「やっぱり!?こっちのが大人っぽくて良いわよね?」


 ドレシアはうきうきで髪留めを店主に渡し購入していた。どうやら、私の選択は当たっていたみたいだ。シユリも先程のイヤリングを買ったみたいで三人揃って、購入した魔道具を身につけて男子を待つことにした。



「悪りぃ!待たせたな。」


 グラジオが顔の前で手を合わせて謝罪をする。どうやらダンデの買い物はそうそうに終わり、グラジオが買うものを決めきれずに悩んだ挙げ句に何も買わなかったみたいだ。優柔不断というより、何が必要かそこから決まってなかったようだった。


「もういいから。お腹すいたし、そろそろご飯行かない?」


 私は時計を確認してレストラン街のマップを広げた。いつの間にか12時前になっていたので、とりあえず七階に向かうことにした。どこで食べるかは着いてから多数決で決める。



「それじゃ、オムライスのお店で決まりね!」


 多数決の結果、女子がオムライスで男子がラーメンだった。別々に食べてもいいのだが、折角一緒に来たのだからとドレシアが強引に決めたのだ。


「まぁいいけど。」

「また今度来よ?」


 そう言いながら、オムライスの店に向かう。途中で異国の料理店などもあり、嗅いだことのない匂いや見た目の料理に話題を咲かせていた。ここには高級レストランからリーズナブルな店まで沢山入っている。全てを食べ切るにはどれくらいかかるのだろうか。


「ん〜!美味しいです!」


 シユリは口いっぱいにオムライスを頬張り、恍惚とした表情で料理に舌鼓をうっていた。確かにここのオムライスは美味しかった。丁度いい加減のとろとろ卵とシンプルなケチャップライス。ごろごろ入った鶏肉がジューシーで食感も楽しめる。

 皆ご飯を食べ終えて、ドリンクを飲みながらまったり話し込んでいた。次はどこへ行くか、次のテストの範囲はとか他愛もない話。買ったものを見せあったり、レストランの窓から見える町並みを楽しんだり。何でもない楽しい日々。それがとても嬉しかった。



「さてと、そろそろ帰りますか。」

「うぃー。」


 伝票をレジに持っていき会計を済ませる。もうランチタイムは終わってたので、すっかり人はまばらになっていた。

 少し歩いてエレベーターにつくと、ちょうどドアが開くところだった。


「ラッキー♪」


 ドレシアは走って乗り込み、開くボタンを押している。その間に私達もエレベーターに乗り込み、一階を押してドアが閉まった。

 七階から一階まで止まることなくエレベーターはくだる。だが、ここで予想外の事が起こった。


「えっ…!?」


 ドレシアの声に振り向くと、階数を表示するパネルは地下へと向かっていた。勿論、そんなボタンは存在しなかった。慌てて上の階ボタンを押しても反応しない。


 チーン!


 軽い音がなると地下三十階でエレベーターは止まり、扉がゆっくりと開く。そこは電気もついておらず、非常灯だけが床を照らす空間が広がっていた。またエレベーターの全てのボタンを押してみたが反応がない所か、ドアが閉まる様子もなかった。


「進めってことか?」


 ダンデが呟く。不気味だが、エレベーターが動かない以上こうしてても時間が経っていくだけだ。


「ライト…!」


 私は光魔法を使い、淡い光で辺りを照らす。エレベーターと同じ幅の通路がずっと続いているようだ。ドレシアは私にしがみつきながらゆっくり歩く。シユリも怖いのか両腕をぎゅっと抱きしめていた。


「何か臭うな…。」


 グラジオは収納魔法を使い、弓を取り出す。それに続き、ダンデも剣を取り出して構えた。


「ちょっと!こんなとこに何がいるってのよ!」


 ドレシアが武器を抜いた二人に叫ぶ。確かにこの島には魔獣は生息していない。実践授業で使うのは魔獣の動きを再現した人形の魔道具だった。

 何かがいる気配。グラジオはそういったものに敏感で私達より聴覚も嗅覚も優れている。私もいつでも魔法が使えるように灯りを持った手と反対の手を構える。


「うぅっ…。」


 シユリは泣きそうになりながらも置いてかれないように必死でついてくる。手を繋いであげたいけれど、この先何がいるのか分からないため諦める。



『ギュイ!』


 何かが暗闇から飛び出してくる。それは小さな兎のような魔獣だった。魔獣がこちらに飛びかかる前にグラジオの魔力の弓矢が脳天に突き刺さる。すると、魔獣はパタリと倒れて煤のようにさらさらと崩れていった。


「きゃああぁ!!」


 ドレシアとシユリは顔面蒼白で叫ぶ。まさか、本当に魔獣がいるなんて思いもしなかった。そして、グラジオの反応の速さにも感心した。本物の魔獣を相手にあれほど正確に打ち抜けるなんて。私は魔法の詠唱すらままならなかったのに。


「こんなとこ、早く出ようよ!」

「…どうやって?」


 後方のエレベーターは開いたまま動かない。前方はまだまだ続いている。出口なんてどこにもなかった。


「とりあえず、行き止まりまで進もう。それでダメならエレベーターで待機するしかない。」


 ダンデが落ち着いた様子で話す。こう言う時の彼はとても頼もしい。いつでも冷静でいられる。

 私達は無言で頷き、先へと足を進めていく。途中、さっきの兎が飛び出てきたがダンデとグラジオが積極的に倒していった。私は灯り係で先頭を歩く。


「もう、いつまで続くのぉ…。」


 いつもより覇気のないドレシアは魔法を使い、風で先の長さを測っている。行き止まりにつけば反応で分かるようだ。


「きっと大丈夫、ですよね?」


 シユリは音魔法で魔獣の音を感知し、二人に敵の正確な位置を教えていた。それぞれ分担して進んでいると、ようやく行き止まりにドアが見えた。

 分厚そうな鉄製の扉。ハンドルを回して開けるような厳重なものだ。


「ダンデ、開けるぞ。」

「あぁ。」


 2人がかりでハンドルを回していく。錆び付いたような音が聞こえる。相当使われていないのだろう。


ゴオォン…。


 重い音が響き、扉が拓く。灯りで先を照らすとそこには下りの階段があった。


「まだ降りるの…。」


 私はため息混じりに呟く。島の地下、本の話が本当なら魔法石があるらしいけれど。今となってはそんなものどうでもいい。早く帰りたいという気持ちでいっぱいだった。

 階段を一歩一歩慎重に降りていく。少しジメジメしていて、階段は苔むしていて滑りそうになる。螺旋状の階段は手すりもなく、二人分の幅しかない。


 そしてしばらく階段を降りていると、また扉が目の前に見えたきた。先程とは違って普通のドアノブがついた扉だ。


「開けるぞ。」


 ダンデがドアノブをつかみ、ゆっくりドアを開く。その先には少し広い空間が広がっていた。


「行き止まり!?ここまで来て!?」


 ドレシアはずんずんと部屋に入って壁を触ったり床を蹴ったりしている。隠し通路でもあればいいのだが。


「あれ…?」


 シユリは何かに気付いたのか壁の一部に近づく。そして、なにか小さな突起を押していた。


ゴゴゴゴゴ…。


 大きな音を立てて壁が上へとあがっていく。そして、その先には一面の水面があった。まるで水が壁のようになっている。滝みたいに流れてる訳でもないのに。指先で水面に触れてみると小さな波紋がたつ。


「結局、なんなのよ…。」


 疲れ果てたのか、ドレシアは床に座り込んでいた。普段なら服が汚れるから絶対そんなことしないのに。よほどだったのだろう。


 結局、水面が現れただけでそれ以上は何も起こらなかった。何かあるときても、この水だけ。勇気を振り絞って手のひらを水の中へ伸ばしてみる。すると、きらきらと水面が光を帯びて渦を巻いていった。

 そして、私は渦に向こう側へと引っ張られていく。


「リリィ!?」

「大丈夫か!」


 ダンデとグラジオの声が遠くに聞こえる。私の体はすっぽりと渦に飲まれ、意識が遠のいていった。今日の出来事が走馬灯のように浮かぶ。死にたくない。そう思っていたら、どうやら反対側に出たようで肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

 振り返ると皆の姿はなかった。キラキラ光る水面だけ。ここはどこなんだろう。まだ島の地下なんだろうか。

 立ち上がって水面の反対側を見る。そこには大きな両開きの扉があった。まるでお城の城門みたい。


「ドレシア!シユリ!!」


 水面に叫んでみたが反応はない。もう一度、手を伸ばしてもただ手が水で濡れるだけ。私だけが違う場所に来てしまったんだ。不用意な真似をしてしまった。後悔してももう遅い。

 やがて疲れて床に座り込む。岩がごつごつして痛かったが構わなかった。すごく疲れたし、なにより心細かった。自分の足をぎゅっと抱きしめる。水で冷えた体が少し温かくなった。


 ザバアァ!!


 水の音に顔をあげると、そこには水に濡れた皆の姿があった。


「リリィ!!」


 シユリが私に抱きついてくる。温かくて、自然と涙が零れた。私はシユリを抱き返しながら泣きじゃくる。


「急に消えたから心配したんだからね!」


 ドレシアが泣きそうな顔で言う。心配して追いかけてきてくれたんだ。


「ここがどこかわからないが、先はあるみたいだな。」


 ダンデが扉を見ながらそう言った。重くて一人では開けれなさそうだ。


「早くここから出よう!」


 グラジオがにかっと笑いながら言う。皆を不安にさせまいと明るく振舞っている。私はすっかり涙も引いて、シユリを抱きしめたまま立ち上がる。

 この扉の先が元の場所なのかどこに通じているのか全くわからないが、進める道は一つだけ。私達は決心して先に進むことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ