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終りの時刻

「24か。もし、私をこの世から消すソフトがランダムではなく、最初から決められてたいたのなら、24本のアミダくじ、辿ると、”死”とか書かれた、ハズレくじは一本。その一本を引いた瞬間、私は、伊藤の元から完全に消え去る」

「僕に引かさせるつもりかい?」

「自分で引くのもなんだかだけど、しょうがないわ、伊藤が足踏みするなら、私が先をゆくしかないの。ミネルバトンサーガ ラゴンの復活……。ミネルバトンサーガといえば、傭兵システムね。ハルマゲドンと勘違いした傭兵が、敵もいないのに戦争してるのかしら」

「これでもまだ、僕と工藤の時間は終わらない」

「百鬼奇行……検索しようとすると、色んな百鬼奇行が邪魔をしてくるのよ、アニメとか、鬼太郎とか、予見ししてなかったんだろうね、ユースって会社は、今のネット社会をさ、おかげで目立たないでいる」

「目立たないか……」

「私と伊藤も、学校じゃ、あまり目立部類じゃなかったけど、今、目立ってるんじゃないの? 最後の生き残りってだけで、相当なものだよ」

「でも、誰もみてくれる人はいないよね」

「いいじゃないの、人に見られて生きているわけじゃない。自分の欲求を満たす、それが生きるってことよ」

 工藤は、急に人生論を語りだす。人生を抽象的に語るのは、生きながら死んでいる人間にありがちだが、工藤は、死を覚悟しながらも、いきいきと最後の時を過ごしている。

 人生論者にありがちなネガティブ要素は、どこにも見あたらない。

「私が楽しいなら、フロントライン歩きもできるわ。そう、極端ながに股歩きよ」

 工藤は、おどけた表情で、がに股歩きをしてみる。伊藤は、笑い顔を浮かべるが、本来あるべきの笑いの熱量とは、程遠いものがある、やはり腹の底から笑うことは、もはや不可能なのか。

 伊藤の笑いを引き出したことを、よしとした工藤は話題を他に移す。

「空中要塞 エアー・フォートレス……なんだろうね、どうしてだろうね、よくわからないけど、残った数少ないファミコンソフトにHAL研究所絡みが、妙に多いのはさ。HAL研究所っていえば。ここ出身の人が、任天堂の新社長に就任して、話題になったわよね」

「任天堂か、京都だね、首都圏はこのありさまでも、古都は健在かもよ、奇跡の復興を信じて、精力的に新しいゲームを作ろうとしているかもよ」

「京都か……中学校の修学旅行で行ったわ。この辺の中学校はどこもそうだと思うけど、もう思い出を共有する人がいないのがなんだか寂しい。新幹線でいくのが定番だけど、ルート16ターボに乗って、ルート16経由で行ったのよ、私の中学校、珍しいでしょ?」

「へえ、修学旅行にルート16ターボか、おしゃれ……って、そんなことあるかい!」

 伊藤が、不自然なまでに高めたテンションが、妙に空々しい。

「最後のボケの」

「最後のツッコミかもしれないね……」

 それからしばらくの間、伊藤と工藤の会話はピタリと止まった。昼過ぎから、途切れなく続いた会話に疲弊したわけでもないだろう、ただ、伊藤と工藤は、最後の二人の時間を、静寂を持って、共有しているのだ。

 工藤は、伊藤を牽制するように、声を発した。一分にも満たなかっただろう、静寂が永遠の重さを持つ。

「ほんと、私は苦労した、このゲームを解くのに、本当に苦労した、何年かかったろう? 3歳の時から、母親にこのゲームをクリアしたら一人前の大人のしつけられれて、なんとか、早い内にクリアして、母親に、大人になった私を見せつけてやろうと思って、毎日のようにせっせとゲームをして、クリアしたのが、ちょうど昨日の夜よ。奇しくも一人前の大人になった翌日に……エルナークの財宝」

 工藤が、このゲームの名前を出した瞬間、時間が止まったような感覚に襲われた。

「工藤! 工藤!」

 伊藤が、慌てて、工藤の名前を繰り返したのは、もちろん意味がある。伊藤は、怯えながらも、どこかで、安心していた。工藤に、引き金がひかれるのは、残りのファミコンソフトが10を切ったあたりだろうと。だがしかし、運命のルーレットは、残りのファミコンソフト18本になったその時、工藤を選んだのだ。

 工藤は、伊藤の目の前で死んでいこうとする。

 覚悟が出来ていたはずなのに、伊藤は、確かに動揺している。それまでの世界の崩壊を、淡々と見つめていた伊藤が、だ。


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