仁藤さんの行方
「壁の方向に飛んでいったからって、生きてるか限らないわ。それこそ、壁に激突して死んじゃったかもしれないし」
「工藤って、仁藤さんのことになると、なぜかむきになるね」
「別に、さ、さ、行こうよ」
「ぷ、強がっちゃって。しかし、人口激減ってのも考えようによっちゃあいいもんだね。だって、競争相手が減るじゃない? 特に、いまなんか首都圏壊滅状態で、生死の確認ができてるのは、僕と工藤しかいない。そこに仁藤さんを加えても、男1、女2で、爆闘士パットンくんの4人同時プレイも満足にできないどころか、もはや、僕の取り合いなんだよね」
「で、伊藤はそうなったら、どっちを選ぶ? ピチピチな女子高生とお肌の曲がり角を曲がりきった仁藤さんのどっちを」
「さあ、どっちだろうな?」
「というか、女性軍にも選択の余地を与えなさいよ。もし、この世の中にエスパ冒険隊しかゲームがなくとも、選択肢は二つあるはずだわ」
「え? どうして?」
「エスパ冒険隊をやるか、それとも何もしないかよ。つまり、伊藤を選択するか、男漁りを諦めるかの二択の余地はあるのよ」
「まさかねえ、仁藤さんはまだしも、工藤が僕を無視できる? まさかねえ」
「できるわよ、今、またプロポーズしたって、私の答えは、ノーよ。残り少ないファミコンソフトで表現できないのが悔しいけどさ」
「それじゃ、また、プロポーズします。僕と一緒に、休日にマッピーランドに行きましょう!」
突然、立ち止まった伊藤は、お辞儀をしながら、右手を差し出す。
「え? え? これプロポーズってより、デートの誘い? 伊藤とデート、したことないわ、そういえば。下校で十分っていうかさ」
工藤は迷った挙句、ついに伊藤の腕を握り締める。
「結婚まで飛ぶのは馬鹿げてるけど、デートくらいならいいわよ」
ぽっと顔を赤める工藤であるが、伊藤は、急に含み笑いをしだす。
「くくくく…・…。浦島太郎をモチーフにしたゲームを亀の恩返しとタイトルづけたコナミのスタッフはきっとこんな含み笑いをしたんだろうな」
「な、なによ、変な笑い方して」
「いや、冗談だよ、冗談、今の告白は冗談。第一、マッピーランドってどこの遊戯施設さ? 千葉と東京の境目? それに休日ってなにさ、もう今日で終わろうとしてる世界に休日の平日もありゃしないよ」
「もう、バカにしないでよ」
工藤はいつものように冗談に帰すことはなく、本気の怒りを見せている。
「え、あれ、怒っちゃった?」
「当然よ、乙女の気持ちを踏みにじってさ」
「というか、二人、仲むつまじく、残り少ない人生の時間を好きなファミコンソフト全網羅に捧げるって誓い合ったでしょ? それが僕の偽ざる気持ち、僕は、工藤をパートナーに選んだんだ」
「でも、仁藤さんが現れた。仁藤さんを見る伊藤の眼は本気だった。仁藤さんなんてどこがいいの? あの人、1986年生まれよ。1991年の頃にファミマガの読者参加コーナーにラグランジュポイントのアイデア送った可能性がある人よ。そんな女性をどうして愛せる?」
「まさか、僕に仁藤さんは似つかわしくないさ。というか、あんな聡明そうな女性は高嶺の花。僕には、工藤くらいの美人でもブサイクでもない微妙なルックスの女子高生がちょうどいいんだ」
「まあ、また失礼ね。というか、見違えるような男になって、仁藤さんの気を引くくらい言えないの?」
「むり、むり、第一、磨く時間がありゃしない。残された時間はわずか。仁藤さんの安否確認とファミコンソフト全網羅するのに手一杯だよ」
「その目的地が見えてきたわ、壁が見えてきた。壁は無事、店員を圧死させた時と同じ状態のまま残ってるわ」
「でも仁藤さんはいない」
「だからいったでしょ? 仁藤さんまでに運命の連鎖は続いていないの」
「そうかな? 僕が瓦礫の下にいたように、仁藤さんだって……」
伊藤は壁の辺りに散らばる瓦礫のクズを片付けだす。
「いるはずだ、絶対に仁藤さんは生きているはずだ。それが運命だ」
「運命か。仁藤さんの下の名前はメトロイドだったわよね?」
「ああ、それがどうした? 珍しいけど、凛として可愛らしい名前だ。僕に子どもができたら、マネしてつけたかったくらいだよ。女の子だったら、メトロイド。男の子だったら、特救指令ソルブレインから取って、ソルブレイン。なんか勇ましいでしょ?」
「メトロイドのサムは実は、女だって落ちよね?」
「そうだよ、それがなにか?」
「実は気になることがあるのよ」
「え?」
「伊藤の顔が、どこか仁藤さん混じりなのよ」
「え? どういうこと?」
「だから、仁藤さんとなんとなく似てる。そして、前の伊藤よりも、どこか頼りがいがあるていうか、積極性が出たっていうか、率先して謎に立ち向かってる?」
「だからなにさ」
「率直にいうわ。仁藤さんを法則通り、消そうと思った神は、仁藤さんの重要性に気づき、伊藤にくっつけたのよ」
「そんな馬鹿な話があるか、僕は僕だ」
「それじゃあ聞くわ。1987年4月3日、伊藤は何してた? いや仁藤さんはなにしてた?」
「僕が生まれる5年も前になにしてたも……アップルタウン物語の発売日。母親が買ってきたばかりのアップルタウン物語のディスクカード入れをおもちゃにして、一歳にも満たない私は遊んでいたの……うん、あれ? どういうこと? なんで、僕がこんなことスラスラと……?」
「それじゃあ、次の質問よ。1991年の冬、仁藤さんはなにをしてた?」
「両親がパトルストームに熱中するのを姿から、リアルタイムに戦局が変化する怖さを学び取った……え、どういうこと? だから、僕は生まれてもいないって? メトロイドちゃんにはまだパトルストームは早いから、スノーブラザーズでもやってなさいと母親に押し付けられて嫌な気分した。私はもう5歳よ、大人がやるゲームもできるのよ……ってなにこの思い出??」
「ほら見なさい。やっぱり、伊藤は、仁藤さんと融合したのよ。壁に向かって飛んだのを見たは、伊藤の錯覚。実際は、仁藤さんは、伊藤の元に吹っ飛び、神の苦し紛れの選択で融合を果たしたの」
「融合? 馬鹿な僕はどうみても僕のままだぞ? 肉体的特徴も元のままだ」
「メトロイドのサムもそういいはるでしょうね、私は、スーツを纏ったからには、メトロイドである。性別は不問ってね」
「それじゃあ、仁藤さんと癒合した僕の役割は……?」
「そうよ、ファミコンソフト全網羅しつつ、滅亡につながる謎を解明するためだけに生きているのよ」