絆と奇跡
爆風に包まれ、散り散りになった3人の命運はつきたのだろうか。自分は選ばれたものと、奢りたかぶった伊藤と工藤の悪運も付き、ファミコンソフトのむやみな消費によって、失われたあまりにも膨大な尊い命たちの恨みの嘆願書が積み重なり、決断を下さないでいた神を動かしたのだろうか。
「ごほん、ごほん、いや~参ったわ、すっごい爆風~。東京陥落の次は、私たちの町が危ないと思ってたけど、ついにロシアンルーレットの当たり目が引いちゃったみたい」
瓦礫の下から、工藤は顔を出す。工藤は、まだ神に選択されなかったようだ。
「伊藤! 伊藤は大丈夫?」
啜くれた顔をお色直しすることもなく、工藤は伊藤を全力で探す。
「ついでに、仁藤さん! あなたも探すわ!」
ところが、伊藤も仁藤さんも、工藤の叫び声に反応しない。それどころか、工藤の周りに広がるのは、呆れるほどの無。
「もしかして、残り少なくなった3本のメジャーソフトを口にしたことで、首都圏は完全にふっとび、生き残ったのは私だけ……。そんな気がしてならないほどの静寂が、世界に広がっているわ……覚悟はしていたけど、やっぱり寂しいわね。あれだけ人でごった返してた東京近郊がこの静けさよ……」
工藤は、瓦礫の中から、わざわざ球状の燃えかすを選び、つまみ上げると、リフティングするように上空に投げた。落ちてくる球状の燃えかすを、キャッチすると思いきや、寸前に手を引っ込めてスルーする。
「あはは、Aボタンを押し忘れたから、キャッチし損なったわ……。べースボールファイターよ、バップが懲りずに出したむやみに複雑な操作を要求する野球ゲームの続編よ。あはああ……」
工藤は、一人消費を試みたが、どうにもしっくりこない。
「受け手の不在ね。伊藤がいたならば、当意即妙な返しをしてくれたはずなのに、はあ……飯炊き女までもが己が胸に野望を秘め策動をはじめる素敵な世界のSHOGUNなら、女子高生の私だって、何かができるはずだけど、実際問題、全網羅のやる気さえなんだか萎えてくるわ」
伊藤は、全身の力が抜けたように、地面にへたり込む。
「はあ~ 残り100本切ったっていうのに、もうなんだかやる気が起きないわ~ やっぱり、伊藤があっての私なのかしらね……ドラゴンニンジャに対抗すべく立ち上がったブレイドとストライカーの切磋琢磨で成り立ってるように、私と伊藤と切磋琢磨してこそ、全網羅大作戦が成り立ってたのね……はあ、もう私の人生もいいや。適当にファミコンソフトを消費させて、伊藤の元に旅立とう。あの世で、全網羅大作戦の続きをすればいいわ、もう……ファジカルファイター……あたりでいいわ……。まったく、ファンタジーゾーンに似通った名前つけてからに。……一撃必中、私を伊藤の元に連れてって……」
工藤の願いむなしく、工藤は無事のまま。
「はあ~むなしいこのまま、消費させていくのかしら……。ならこれはどう? バトルトード……蛙よ、蛙、蛙で、伊藤の元に帰るのよ……はあ~、これでもダメか……」
伊藤のついたため息は、こだまとなって、世界中に響いていく。
「私の中にハッキリとしてた残りのファミコンソフト群がなんだか、ぼやけてきたわ……ロボッ子ウォーズ、ドラゴンウォーズ、ドラゴンズレア、残ったファミコンソフトがしりとりみたいな綺麗な連鎖してるのに、私と伊藤は、もう継らないのか」
工藤は、標高3mほどの瓦礫の山の上に登ると、山頂から、下を眺めた。
「こっから落ちたら死んじゃうかな? ファミコンソフト消費させれば、どっちにしろに死ねるのに、自殺することもないけど……」
工藤が、瓦礫の山の上から、さして遠くない地面を眺めとき、奇跡は起きた。
「そんな高さから、飛び降りても、死にしないよ、スペランカーじゃあるまいし……」
「え? え? その声はまさか」
工藤が立ってた瓦礫の山がもこもこと動き出す。
「まさかもないよ、僕と工藤は、ファミコンソフト全網羅する役目がある。だから、こんなことで死んでたまるか」
バランスを崩した工藤が転げ落ちると、瓦礫の山の下から、伊藤が顔をのぞかせる。
「ばあ~スペランカー2 勇者への挑戦。僕と工藤は、ファミコンソフト全網羅への挑戦さ」
例によって、足をくじいた工藤であったが、伊藤の生存確認の前には、痛みも吹っ飛ぶ。飛び跳ねるように、伊藤の元に駆け寄ると、当然のように、ファミコンソフト全網羅大作戦を決行しながら、喜びの挨拶を交わす。
「伊藤! 伊藤! 生きていたのね! キャッスルクエストをセーブするのに、カセットテープが必要なように、やっぱり、私には、伊藤が必要なのよ!」
「ちょっと待った! 飛びつかないで、僕も工藤もすすだらけなんだからさ」
「いーのよ、いーのよ、気にしやしないの」
「でも間違いは指摘するよ、カセットテープが必要なのは、RPGになぜか、チェスと将棋を融合させてしまったキャッスルクエストでなく、キャッスルエクセレントね」
「あ、間違いちゃった、いつものようにわざと間違えて、消費させたんじゃないのよ、つい、嬉しさに、私の精巧なおつむがやられてさ……」
瓦礫の山から、頭だけでなく、全身を現す伊藤。ブレザーの制服は、全身擦り切れてる。
「ぷは~ それよりあ、仁藤さんはどうなったんだろうね?」
「あら、あのお姉さんのこと気になる?」
「そりゃまあ、出会ったばかりとはいえ、安否は気になるさ、それに、あのお姉さんなら、謎を解明してくるかもよ」
「謎? なんの謎? ハイドライドが、ファミコンユーザに断りなく、2を飛び越して、いきなり3をだしたこと? そんな謎どうでもいいわよ?」
「違う、違う、ファミコンソフトが世界の崩壊につながる謎の解明だよ。それには、ハイドライド3の謎は解明済みだよ、最初に出たスペシャルが実質的の2にあたるんだから」
「ファミコンが滅亡につながる謎? もうどうでもいいじゃない。滅びるの確定なんだから」
「でもさ、知りたくない? 結局、人生ってのは、知識欲の欲求の繰り返しだよ。知識を得たら、また新たな知識を知りたくなるものさ、じゅうべえくえすとを中古で買って、クリアしちゃったら、同じテイストのRPG貝獣物語にも手を出したくなるものでしょ?」
「そうだけどさ、肝心の仁藤のお姉さんが生きてるかどうか」
「生きてるはずだよ、だって、僕、みたもの、仁藤のお姉さんが、吹っ飛ぶのを」
「どこに吹っ飛んだのよ」
「壁だよ、壁、例の壁の方向にさ」
「え?」
「僕と工藤は、神にファミコンソフト全網羅大作戦の役目があるとから守られてるとしたら、仁藤のお姉さんは、ファミコンソフトが世界の滅亡につながる謎を解き明かす使命を担っているはずだ。だから、仁藤のお姉さんも無事、だって、壁の方にとんでいったのよ」
「壁ね、壁……いってみるか、伊藤がそうまでいうのなら」