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伊藤と工藤と三角関係

「ご名答!」

「え、工藤、今なにかいった?」

「いってないわよ」

「女の人の声がした。工藤と勘違いしたけど、工藤より艶っぽい」

「私よ、私……あなたの推理どおり、自販機の裏で、私はあなたたちの行動を観察していた……」

 自販機の裏から、姿を表したのは、終末の世界に似つかわないほど、澄んだ白いスーツを着た、年ごろ、30歳前後のメガネの女だった。

「やっぱり、誰かの実験だと思ったわ」

「お嬢ちゃん、いい頭してるわね、さすが、世の中の滅亡法則に気がついただけのことはあるわ」

 女は、伊藤と工藤に警戒心を抱かず、にじり寄ってくる。

「ありがとう……で、お姉さんが、実験してたのはどうして?」

「私は気づき始めてたのよ、そして確信めいたことがあった。地球滅亡の法則の鍵を握るのは、奇妙なことに、ファミコンソフトであることを。そして、それを知ったのは、たまたま通りがかりに歩いてた君たち、二人なのよ。世界崩壊なのに、気にすることなく、アフタースクールを楽しむ奇妙な高校生カップルが、ファミコンソフトの名前をあげては、しきりに世界の滅亡進行を気にしている。メジャータイトルだと、世界への影響が大きいどうのだの……」

「いたの? こんな美人で聡明なお姉さんが、僕と工藤の後をつけていたなんて!」

「美人? この人が?」

「うん、最低でも、工藤よかは美人だよ」

「ありえないわ、私より美人ってことは、絶世のレベルよ」

「まあ、私の美貌の批評はあとにして、本題に入るわ。それで、私もマネしてみたの。どうやらファミコンソフトが滅亡の鍵を握ってるらしいのなら、試してみないと」

「マネしてみた?」

「ええ。私もつぶやいたわ、ファミコンソフトの名前を」

「なんのファミコンソフト?」

「それでも詳しいいわけじゃない私は、限界があるの。つまり、メジャーソフトをつぶやいたわけ。ドラクエ、ファイナルファンタジーシリーズ……」

「それ、もうとっくに済んでるわよ」

「あらそう……? 試しにいってみて、やっぱり世界の崩壊が相次いだから、微妙に責任を感じてたけど、これで、余計な重荷を抱え込まずに済んだわ」

「残念ながら、メジャーソフトはあらかた処分済みなのよ。それで、お姉さん、あなた、なにがしたいってわけ? いまさら、ファミコンソフトが世界に及ぼす謎を追求しちゃってさ」

「追求して悪い? だって、法則を知ったら、切り札になるでしょ? 世界の人々がワケも分からず、崩壊していく世界を指くわえて眺めてるときに、私だけが法則を知ったら、私が世界の支配者になったのに同義なわけ。時折、ファミコンソフトの消費をちらつかせれば、どれだけ人類が残っているか分からないけど、頂点に立てるはずよ」

「あら、お姉さん。その年で、世界征服に興味があるなんて、珍しいわ。そのお年頃のお姉さんって、お肌の曲がり角で、若い自分を維持することしか頭にないと思ってたわ」

「それよりも、見事に引っかかてくれたわ。ファミコンデザインの飲料があれば、必ず立ち止まってくれるはずと置いてみたら、ぴったりよ」

「やっぱり、お姉さんの仕業だったのね、おかしいと思ったわ、正規品にしちゃあ、製品の詰めが甘いから。それで、私たちをおびき寄せてどうするつもり?」

「だから、最初からいったでしょ。世界を征服できるわ。残りのファミコンソフトを教えてよ、まだ、消費してないものを。私とあなたたちで分かち合いましょう。切り札を」

「付きあわないといけない、私も伊藤も興味がないの、世界がどうなろうと。だって、ファミコンソフト全網羅したら、それで人生が終わっても、なんの悔いもないのよ、ねえ伊藤?」

「ああ、工藤の言うとおりだ、僕は世界の復興も諦めたし、全網羅さえすれば、悔いもない。残り100本前後のファミコンソフトの消費に全力を尽くすまで」

 女は伊藤に悩ましげな微笑をおくる。

「うふふふ、伊藤くんだっけ? けっこうかわいい顔してるじゃないの」

「え?」

「ぎょっとした顔をしなさんな、工藤さんですっけ? たしかに、いわれてみると世界の征服なんて別に興味深いことじゃないかもしれない、私は年ごろの女だから、伊藤くんみたいなうぶな高校生がたまらないのよ。世界征服を諦めて、伊藤くん征服に精を出そうかしら」

「ちょっと待ちなさい! いきなり横から出てきて!」

「あははは、本気にした? 冗談よ、冗談よ。私に興味があるのは、ファミコンソフト消費と世界の滅亡の関係。こうみえても、私、大学の研究員やってるの。謎や不思議が大好きなのよ。研究員にしたら、偽のペットボトル飲料くらい簡単に作れるのよ」

「なるほど、研究員ぽい知的さがありますね」

「惚れた?」

 伊藤の顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。

「もう、たぶらかさないでくださいよ、ところで、あなたの名前はなんなの? 名乗りなさいよ」

「ごめん、ごめん、仁藤っていうのよ」

「仁藤? 伊藤に工藤に仁藤ってなんだかゴロがいい」

「下の名前はなんなんですか? 仁藤に工藤に伊藤じゃごっちゃになりやすいですよ」

「下の名前? ちょっと言いたくないのよ、だってね」

「だって?」

「偶然にも、ファミコンソフトの名前に関連してるの。だから怖くて、下の名前が言えないでいるの。未出のファミコンソフトなら、私に死が降りかかってもおかしくないでしょ?」

「いやいや、もう1100本消費してるのよ、当たらない可能性のが高いの」

「そう、それじゃあ、いうわ。けっこう、メジャーだし、消費してると思うわ。仁藤メトロイドっていうの」

「まあ! なんていう珍名? 生まれ年は何年なんですか?」

「そりゃ、メトロイドが世に出た1986年の夏の生まれよ。メトロイドにハマった両親の思惑が一致してつけちゃったみたい。どう、既出でしょ?」

「いや、全然……」

「え? 既出じゃないの?? そりゃ困ったわ! じゃあファイヤーエンブレムは? 私、ファミコン世代じゃないけど、ファイヤーエンブレムだけはプレイするのよ。これも両親の影響だけど、続編のファイヤーエンブレム外伝もよくやったわ!」

「あ~ もう、とっておきのメジャーソフトを三本も消費させて、このお姉さんたら、なにが起きてもおかしくないですよ! 東京に引き続き、首都圏が爆発するくらいの破壊力がありますよ!」

 その時だ、伊藤と工藤と仁藤さんの遙か上空が、夕暮れの佇まいから、暗黒の雲で敷き詰められたのは。

 まず、耳をつんざくような爆音がした、そして、気がつくと、三人は、散り散りに吹っ飛んだ。まるで、爆弾が爆発したかのような爆風に巻き込まれて。


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