世界の誰かが気づいてる?
「それで、工藤。あと何本のゲームが残ってるんだい?」
「115本よ」
「115本か。1200を超えると言われるファミコンソフトもついに残り115本か。ファミコンソフトが残りすくなるくなるに連れて、世界も激変してるね」
「ええ。でも、まだ破壊力のあるメジャーなソフトもいくらか残ってるし、まだまだ世界は大丈夫よ」
「そうか、世界は大丈夫か。アメリカが落ちて、東京が壊滅して、世界の情報網はギタギタに壊れたけど、世界はまだ無事なんだ」
「家帰ろうか、暗くなってきたし」
「え? お家に帰るの? 伊藤の家、それとも私の家?」
「う~ん、帰る家ないかもね、いまさら、家族が無事か、家はいつもの生活を営んでいるか怯えながら人生過ごすのは無駄だな。よし!」
伊藤は大きく背伸びをした。
「暗くなるから帰宅するなんて、つまらない人生やめようよ。価値観をぶっ壊せ!」
背伸びついでに、伊藤はペットボトルの自販機に手を伸ばした。
「なんの飲み物にしようかな~。工藤は、何がいい? お茶? 柑橘系? それとも炭酸? 」
「その前に、伊藤は、お金を入れたの?」
「入れやしないさ。だって価値観をぶっ壊すと宣言したんだよ。僕は、ちょっとだけ、そう、終末の世の中だからって、一線は越えないけど」
伊藤は、思い切り、右足をぶん回し、自販機を蹴り上げる。
「ほら、ファイティングロードで習得した発気術を、今こそ、実戦するとき!」
ところが、気合の入りっぷりと違い、効果はてきめんとまではいかない。自販機に多少のヘコミが見られても、よくある不良漫画のように、自販機がいかれて、ペットボトルが続々と飛びてくる様子はどこにもない。
「貧弱ね~」
「くそ~発気術も自販機の前には及ばずか」
伊藤は、悔しさに拳を地面に叩きつける。
「私に任せて見なさい」
「工藤が? ムリムリ、キャプテンセイバーのまるでシュワちゃんもどきっていうか似すぎくらいのバカ力ないとムリだよ」
「私が、将来の五輪選手と育てられた過去をお忘れ? 風雲小林拳の複雑怪奇な操作方法なら、右を向いてるのに、左上を押すと、右方向にジャンプ、そして、BでもAでもなく、右を押すと、蹴りが飛び出るの!! 掛け声はなんにしようかしら、そうねマックスウォーリアー 惑星戒厳令がいいわ。ウォーリアー辺りが、絶叫にぴったりっぽい」
工藤は、スカートなんて気にせず、自販機目がけて、豪快な飛び蹴りを食らわす。
「けりで足りないなら、RUSH UPで培ったアッパーカットでも繰り出そうと思ってたけど、その必要もないみたいね」
工藤の強烈な蹴りを食らった自販機は、耐えきれず、どくどくとペットボトルを吐き出す。
「ほら、伊藤、戦利品よ。好きなペットボトルを好きなだけ飲みなよ」
「帰宅部のクセに無駄なパワーを蓄えてるね、工藤は。ワードナの森に放り込まれても、ワードナ倒しそうなほどたくましい」
「どうでもいいから、飲み物選びなさいよ、喉乾いたでしょ? 半日もファミコンソフト消費活動してたらさ、私は、このお茶がいいな、健康志向よ、世界がおわるっていうのに、女は最後まで、健康維持に気を使う生き物なのかしら」
工藤は、お茶色が透けて見えるペットボトルを一本、つまみ上げると、すぐさまに、封を開けた。
「このお茶、なんのお茶かしら……。なにこのパタリロ風のひしゃげた顔したイラスト入りは……パタリロっていうと作者は魔夜峰央、といえば、エリュシオンのキャラデザイン担当……ってこれ、エリュシオンお茶? なによ、それ、ペットボトルのお茶が出回る前に出たはずのエリュシオンとどうして、タイアップ出来るの?」
「しかも西洋風RPGの飲料化に、わざわざお茶を選ぶなんて。変わってるよな~、しかも、ネーミングセンスが絶望的にない」
「伊藤、変わってるのは、この飲料だけじゃないわ」
「え?」
「見て、このサイダー」
工藤が取り上げしサイダーは、青髪の長髪の美少女が剣を振り回しているデザイン。
「まさか、夢幻戦士ヴァリス? そんなサイダーもあったのか……」
「いやだからあるわけないわ。そんな、キャラグッズ展開はしてないはずよ。だって、ファミコンの歴史とペットボトル、特に、350ccサイズが一般化されたのは入れ違いなのだから」
「それじゃあ、なんでだよ、なんで、僕と工藤の目の前に、ファミコンソフトデザインのペットボトル飲料が転がってるの? これなんか、ファイヤーロック健康ドリンクだってさ。これ飲んで、ロッククライミングに精を出せって売りかな?」
「たぶんね、誰かが私と伊藤を試してるのよ」
「試す、誰が?」
「誰かが気づき始めてるのかも」
「え? まさか」
「ファミコンソフトと世界の滅亡の奇妙すぎるつながりを……」