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伊藤と工藤の絆

「あ~」

 自らの所為が引き起こした陰惨な光景に、伊藤は思わず頭を抱える。

「どうしよう、僕のせいだ。ポストが赤いのも、未来神話ジャーヴァスのバックアップが頻繁に消えるのも、太陽の神殿の移植が失敗してるのも、みんな僕のせいだ~」

 落ち込む伊藤の肩に、工藤は手をかける。

「気にしないでよ、なにも伊藤が悪いわけじゃない。運命よ、あの軽自動車に乗車してた人は、今死ぬ運命だった。たとえそれが、伊藤の口走ったファミコンソフトのせいでもね。ただ、復興なんていう叶わない夢を追いかけた伊藤に神はいいたかったのよ。意味がないから、復興の夢を追いかけるのを辞めろ。お前は、残り少ない世界を、好きなことをして生きろって、メッセージなのよ」

「う~ん、でも、僕がよく確認もせずに土砂をぶちまけたから、あの軽自動車の人が死んだことはたしかだよ……」

「でも、変だと思わない?」

「え?」

「だって、急ぎすぎよ、あの軽自動車。どこに急ぐのかしら?」

「そりゃ、用があったのか、世界の異変で知り合いや親類に不幸があったか……」

「違うわ、あの軽自動車に乗車してた人は、違う理由で急いでると思うのよ」

「なんで?」

「あの軽自動車から、うっすらと聞き覚えのある、ゲームミュージックが流れてたのよ。ついでにいうと乗ってた人は、女の人、スペースハリアーのコスプレしてたわ」

「ほんと? 軽自動車の行方に気を取られて気がつかなかった。というか、スペースハリアーのコスプレで運転する勇気は、終末でも僕には沸かないな~ せめて、アウトランダーズならなんとか、いや、そっちもちょっとお恥ずかしいな。まあいいや。で、なんのゲームミュージックが流れてたのよ? 僕だったら、ファルシオン流すのなあ~。なにか勇ましいし、軽快だしさ」

「残念ながら、謎の村雨城よ」

「あ~謎の村雨城。あのゲームミュージックは、なにか、人を追い立てる効果があるよ」

「音楽だって、人を変えることができる。音楽に追い立てたから、軽自動車は事故した。そう思ってなさい、そう思えば、気が楽になるから。」

「ありがとう、工藤。気落ちした僕を慰めてくれて」

「当然じゃない、あと残りの時間を一緒に過ごす大切なパートナーの気持ちに気を配るのは。弟のくせに兄の忍者くん差し置いて、じゃじゃ丸の大冒険で主演しやがってとがっかりする兄にも私は慰みの言葉を遅れる自信があるわ。気にしなさんな。弟と兄との違いは、名前があるかないかだけだって」

「そうか……でも名前のない兄ってのも悲惨だよな。銃をぱぱっと持ち帰るのがカッコいい本格ガンシューティングなのに、ラフなんて、あだち充のラブコメ漫画みたいなタイトルつけられるくらいにさ」

「で、伊藤は戻ってくるの?」

「戻るもなにもないでしょ、復興も咎められたらさ。僕が逸れた道筋、先行する工藤を追いかけるしかないよ。もし、ファミコンとTITANだけを置いての無人島生活を強いられたら、いやでも100面クリアするまで続けるでしょ? それしか道筋がないのだから」

「そう。それじゃ、笑ってくれる?」

「え? 急に笑えといわれてもね。影狼伝説みて、これ、影の伝説の続編? と思わないほど難しいよ。実際の続編は、不動明王伝なのにさ」

「それでも笑うのよ、沈んでないで。道路で笑う、それはもうハイウェイスターよ」

「ハイウェイスター? てゆうか、ここは高速道路じゃない、ただの公道だぞ」

「あれ笑わない? 大笑いしてくれると思った渾身のギャグだったのに」

「その程度のギャグで、僕が笑うと思う?」

「それじゃ、伊藤がお手本見せてよ、公道とファミコンにそったギャグをさ。ただし、相当なセンスでないと笑わないわよ。そう、半熟英雄のギャグセンスは超えてね。あれしき越えないと、私は笑いはしないわ」

「この公道、よくネズミ捕りが出没するって、よく母親が嘆いてたな」

「はい? ネズミ捕り?」

「つまり、速度違反取り締まりのことだよ。警察が木の陰にでも隠れて、速度違反する車を厳重に取り締まってるの。ねずみと警官がつながり、さらに、その話を未成年である僕がする。ほらネズミ警官に子どもと来たら、マッピーキッズでしょうよ」

「え? 懲りに凝ってるような気がするけど、ギャグとして成立するのは、流れが足りないわ」

「そうだね、あははは」

「でもなんだかおかしいわ。なんだろう、ギャグで笑えるってより、伊藤と二人でいることが、なんだか、たまらなく楽しい。あははは……」

「僕もだよ、アハハハ。獣王記のメガドライブ版とのあまりの落差にも笑える自信があるくらい、今楽しいよ」

「……楽しもうよ、ね。お母さんが間違えてコスモジェネシス買ってきたっていいじゃない、スターラスターと思ってやれば、コスモジェネシスでも楽しくなるのよ」

「うん、たとえがいまいいち胸にこないけど、まあ、うん」

 伊藤と工藤は、手を握りもしないが、心の鎖は、たしかに強く結ばれた瞬間だった。


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