工藤と工藤
「コホン。ええ、復興するってことは、けっこう仕事の人手が必要になるんだよ。壊れた建物を直さないといけないし」
「今、不景気で就職難だから、仕事にありつけるってだけで幸せな人もいるかもしれないわね」
「ほらみろ、どんどん景気がよくなりそうでしょ」
「それだけ? なにか経済学学びたての学生みたいな意見ね」
「そりゃ高校生だもん。政治経済選択しちゃった、選択肢を自ら狭めたね」
「で、それだけ? 伊藤が夢を見てるうちに、世界は終わるわよ? 戻ってくる?」
「……どうしよかな、保留しておくよ」
「まったく、伊藤みたいな優柔不断な男は、ディスクのの二枚組のゲームをクリア出来ないでしょ?」
「どうしてさ」
「だって、ふぁみこんむかし話 新鬼ヶ島 前編はただでさえ、両面を頻繁に入れ替えるのに、しかも後編付きよ。ごっちゃになるんじゃないの、伊藤の頭じゃ。後編の裏面入れろって指示出てるのに、クリア済みの前編のオモテ面を入れちゃったり、そういう優柔不断なことしちゃいそう」
「いくら、少し抜けたところがある僕でも、そんなまねはしやしないさ」
「それで、伊藤、ファミスタ’92の生き残りのことなんだけどさ」
「僕は優柔不断かもしれないが、工藤は人の話を一切聞かないね」
「生き残りといっても、このご時世、みんなやられちゃっったかもしれないけど、92、つまり、1991年の主力選手からの生き残りは、Wチームのたにちげ=谷繁元信。Oチームのほりほり=堀幸一。Lチームのくろう=工藤公康。Dチームのやまもも=山本昌広。Cチームのまえだ=前田智徳。Bチームのなかのしま=中嶋聡のたったの6人なのよ」
「それだけ? 大道は? 木田は? たしか当時から現役でそこそこ試合に出てたはずだよ」
「残念ながら、登録はされてないの。当時は選手枠の縛りがきつかったから、一軍選手でもけっこう漏れてるのよ。あと、工藤、私と偶然同じ名前だけど、工藤はファミスタの初代からいるただ一人の選手っていわれてるけど、実際はちょっと事情がことなるのよ、出続けてはいないの。だって、90では、工藤は投手枠に入ってないんだもの、仕方ないわね、90のデータは1989年のもの、この年の工藤は絶不調でたったの4勝しかしなかったんだもの。でも」
「そうか、しかもなんだか現役感がない人が多いね、工藤、山本昌、堀は一軍登録すらされてないし、中嶋聡はコーチ兼任だ。前田は今年復活して代打で出てるけど、守備には一切つかない。谷繁だけか、現役感がある選手は」
「時代の流れねえ……でもさ、なんだか、1992年生まれの高校生がする話これ? 生まれる前からいる選手の生まれる前の活躍を懐かしがってさ」
「だって、僕はファミコンソフトだけでなく、野球選手にも詳しい。特に詳しいのは、外国人選手さ」
「生まれ変わったら、外国人選手全網羅大作戦でもする?」
「生まれ変わる前にもできるでしょ」
「うんうん、そんなヒマはないみたい」
「時間はたっぷりあるさ。だってこれから復興してくんだ、世界はさ」
「まだ復興を諦めてなかったのね、しぶといわ。ゾンビハンターで諦めきれずに、ファリア 封印の剣まで出したハイスコアみたいね」
「ハイスコア~って叫ぶんだよね」
「諦めた?」
「いやまだまだ僕は夢を見るよ、そして無傷な外国人選手全網羅に僕は精を出す」
伊藤は道一杯に崩れた土砂を見つけると、そそくさと駆け寄る。
「どうしたの、伊藤」
「砂利を除去するんだよ」
そういうと、伊藤は手をシャベルにして、砂を道端に払い始めた。
「土砂掃除も復興の手段? なにか途方も無いっていうか、キリがないわね」
「いいんだよ、復興の最大の敵は、物資を輸送を遮断する土砂崩れやがけ崩れだ。笑えたければ笑えばいい
。僕にとっては、小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩だ」
「それ、コスモポリス ギャリバンの言葉だっけ?」
「違う、宇宙ではあるけど、刑事じゃなくて、宇宙飛行士の言葉のパロディだよ。ふん、てゆうか、またファミコンか。僕は、もはや外国人選手全網羅に首ったけだから。まずは、広島東洋カープの懐かしの助っ人から語ろうか。アーガス選手、1992年に来日、ハッスルプレーと積極的な打撃が持ち主さ、後の鉄人金本選手や代打の切り札町田選手とポジションを争ったものだよ。後に、監督として広島に復帰、今は楽天イーグルスで熱意ある采配を振るってるんだ」
「それ、ブラウンでしょ? アーガスって、まんまファミコンソフトじゃないのよ」
「あ、しまった、ブラウンとアーガス混合した! それじゃあ、大洋にいた牛込渉外担当が見つけてきた好打者、砂漠の狐選手について語ろう……あ~のっけから、外国人選手の名前じゃない!!」
「ほら、やっぱり。伊藤はファミコンの魔の手から、逃げ切れない運命にあるのよ」
「あ~」
伊藤に舞い込む不運はこれだけですまない。伊藤がどけた土砂が、偶然、対向車線の道路を走行してた軽自動車の窓ガラスに当たったのだ。突然、視界を妨げられた軽自動車は、終末の焦りも手伝ってか、急ハンドルを切ってしまう。
「あ、危ない」
そのまま軽自動車は、ガードレールを吹っ飛ばし、崖下から海に落下してしまった。
「あ~あ。ファイナルラップの対戦モードで、対向車に煽られて看板に激突したみたいに落下したわ」
好意と思ってしたことが、思わぬ事故につながって、伊藤は顔面蒼白だ。
読んでるひとっているのかな?
まあいなくてもいいけど、ペースメーカー替わりに使ってるから